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(詩集)きみの夢に届くまで

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詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
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#海

(詩)きみの夢に届くまで

この夜の何処かで 今もきみが眠っているなら この夜の何処かに 今きみはひとりぼっち 寒そうに身を隠しているから 今宵も降り頻る銀河の雨の中を 宛てもなくさがしている 今もこの夜の都会の片隅 ネオンの雨にずぶ濡れに打たれながら 膝抱えさがしているのは きみの夢 幾数千万の人波に紛れながら 路上に落ちた夢の欠片掻き集め きみの笑い顔を作って 都会に零れ落ちた涙の欠片の中に きみの涙を見つけ出せば 今も夢の中で俺をさがし求める きみの姿が見えるから この夜の何処かに 今もきみが

(詩)海家族

今度生まれ変わったら どんなお父さんとお母さんがいいかな やっぱりどっちもいた方がいいかな お金持ちじゃなくていいから ふたりともやさしい人がいいな お父さんは無口だけど 家族のために一生懸命働く人で でも星とか見たりするのも好きな人で お母さんはおしゃべりで 笑い上戸だけど涙もろくてさ 勉強しろ勉強しろなんて言わない人 料理が好きで 花を育てたりするのも好きな人 そいでふたりとも海が大好きなんだ 三人、いや妹かお姉さんがいて 弟か兄さんでもいいし とにかくみんなで 海

(詩)下手ないいわけ

ほら、耳をすますと しおの音がするだろ どこにいてもぼくたちは いつでも思い出せる しずかに目を閉じれば どこからか遠い しおの音が響いてくる だからぼくたちは すぐに思い出せるんだ だからぼくは すぐに感じられる あなたのことを 今は遠く離れていても すぐにあなたのことを 感じられる どこかの海の 海ならば 銀河でもいい 都会でもいい どこか遠い宇宙の果て この星のかたすみ うらさびれた街でもいい それら この宇宙の中の どこかの海の しおの流れの中に 今も

(詩)夕映え飛行

空、雲 鳥の群れ 夕映えの海 飛ぶ、という言葉は 鳥のためにあると 思っていた 翼を持つ者たち だけのために ある言葉だと 空、雲 鳥の群れ 夕映えの 穏やかな波 誰もいない 波打ち際に突っ立って 押し寄せる波に 汚れた足を洗いながら そっと手を広げて見る あたりを見回し 誰も見ていないのを 確かめながら 思い切りうでを上げ 空いっぱいに広げてみる 空をゆく鳥たちが ほんの一瞬おどろいて わたしを見る もしかしてあいつ、 飛ぼうとしているのか あいつ、飛べるの

(詩)いつか聴いた波音

いつもざわめきが ふいに都会の 人の足音が途絶えると さがしてしまう さがしてしまうのは ほんの一瞬の沈黙の中に 思い出そうとして 乾いた唇にどうやって 忘れた波音 真似ようとするのか 波音を、それも もうすでに忘れ果てた すでにもう失い 悔やむことさえ諦めた あの きみと行った海 きみとだけ行った海 きみとだけ行きたかった ほんの一瞬の記憶の中に 忘れようとして 泣きそうな唇に どうしても 刻み付けられた波音は わたしの耳が 沈黙に帰る時だけ ひりひりと疼くらし

(詩)エンディングテーマ

約束したね ふたり突っ立って 海を見ていようって よせかえす波が ねぇ、 この波がおわるまで 海がとまるまで、さ ふたりで見ていようって 約束したじゃない それじゃ ずっとってこと? いつまでも  いつまでも 永遠ってこと、さ ふたり並んで いつか世界中の 海の波の しおざいがやむまで ぼくたちの呼吸と そして あなたの涙がおわるまで いつまでも  いつまでも、さ いつまでも  いつまでも、ね そしていつも 夏の終わりの海辺には 恋人たちの 約束だけがのこさ

(詩)海の見えない場所では

海の見えない場所では 空を海と思えばいいのだ そもそも 空は海のふるさとなのだから 気体か液体かだけのちがい 涙のふるさとが海で 海のふるさとが空で だから すきとおった青い空を見ると 人は泣きたくなる 涙が 生まれ故郷をなつかしがって しかたがないのだ

(詩)空の海

空が海なら 波は風 風の音が潮騒 わたしは波打ち際になろう わたしの海辺に佇むウミネコは わたしのために その寂しい声で鳴いてくれるでしょうか わたしという小舟が やがて水平線の彼方に消える頃 ウミネコの鳴く声は 夕映えの風と戯れていてほしい

(詩)夏のスケッチ

雲が 山のまねをして 山の上で 雪山の振りをしている すぐに溶けてしまうくせに すぐに雲は風に吹かれ この大空を流れ去るのみ 海に来たら 空を見上げなくて良い 海の中に 空が隠れているから 海に来たら空の青さを 感じなくても良い 海の中に 青がいっぱいに 広がっているから だから 泣きそうになったら 海を見れば良い 代わりに 海が泣いてくれるから 木も汗をかく 風が吹くたび 気持ちいい、と笑っている 風の中で笑っています 木陰に入ったら いつも汗っかきだった き

(詩)海の絵葉書

海の絵葉書 送りたい 何も書かずに 送りたい 住所も名前も郵便番号も ただ、まっ白なままの 海の絵葉書 そして風に乗せて 送りたい 風という名の 郵便ポストへ投函したい あなたへと 海の絵葉書 送りたい 耳をあてれば 波の音が聴こえてきそうな 海辺にたたずむ少女の顔が わたしに似ている、と 思ってくれそうな ようく見ていると なんだか少女が 笑っているような 海の絵葉書 送りたい 送りたい さようなら、のかわりに

(詩)春の海に抱きしめられたくて

海に行くつもりでいたのさ 春の海ってやつかな やっとぬくもり出した 透き通った空気の中で まだひんやりと冷たい波が きらきらと音もなく 押し寄せては引いていく感じの ちょうど無口な男の背中に 人恋しげな春の風が もたれかかっちゃ つれなくてまた離れていくよな そんな孤独な男の後姿に似た 春の波打ち際で ひとりぼっちでまだ 潮っ辛くて肌寒い 潮風に凍り付きながら 恋しいあなたの足音なんかを 待っていたかった ずっと待っていたかったのに そうさ 海に行くつもりでいたんだ き

(詩)坂の上の海

坂を上ると水平線 街のざわめきが遠ざかる 額の汗が蒸発する すっーと 気絶するほどの 息が止まるほど海 きらめく波は七色の絨毯 少年の頃 そのまま海を歩いて 見知らぬ国へ確かに行った 坂を上ると水平線 きらめく波は七色の絨毯

(詩)沖

波に運ばれ 沖まで流される 浮き輪のように まだ あそこにいる まだ、あそこ ほらやっと あそこまで そして気付いた時 もう遥か 沖の彼方に消えている 誰かを忘れる時 沖は記憶の水平線 失ったものは 沖の彼方にある 時よりだから 波に押し返され ふと思い出してしまう わたしの中にも 記憶を運ぶ波がある 遠い沖の彼方まで わたしの中にも 海があって だから泣きたい時 わたしはいつも黙って わたしの中の しおざいに耳を傾ける そして 遠い夜の海の彼方に 星が消えて

(詩)ぼくが海なら

死にたいきみへ 生きていたくないきみへ もしもおれがきみの 心臓の鼓動なら 今すぐにでも 止まってあげたい でもおれはただの 人間の屑だから おれが海なら きみの好きな夏の海でさ そっときみを つつんであげたい 生きもせず かといって死にもせず ただ 夏の空の下で つつんでいてあげたい おれがきみの、涙の海ならば