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(詩集)きみの夢に届くまで

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詩の数が多いので、厳選しました。っても多い?
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#海

(詩)きみの夢に届くまで

この夜の何処かで 今もきみが眠っているなら この夜の何処かに 今きみはひとりぼっち 寒そうに身を隠しているから 今宵も降り頻る銀河の雨の中を 宛てもなくさがしている 今もこの夜の都会の片隅 ネオンの雨にずぶ濡れに打たれながら 膝抱えさがしているのは きみの夢 幾数千万の人波に紛れながら 路上に落ちた夢の欠片掻き集め きみの笑い顔を作って 都会に零れ落ちた涙の欠片の中に きみの涙を見つけ出せば 今も夢の中で俺をさがし求める きみの姿が見えるから この夜の何処かに 今もきみが

(詩)少女へ(海)

貝殻、足跡、波の音、 空の青さ、木漏れ陽、プラタナスの木陰、 夕映え、夕立、虹、 駅のホーム、街の灯り、花火、 星座、ラヴソング、風のにおい、 夜明けの静けさ…… 目印はいくつもある、この星の上に もしもきみが遠い国へ行って 誰もきみの行方を 知る者はいなくなっても きみが残していったすべてのものが やがてこの地上から 永遠に忘れ去られた後にも ぼくは海の夕映えのきらめきの中で 潮風と遊ぶきみの笑い声と出会うんだ きらきらと輝く波の中で いつも寂しそうにしているぼくの背中

(詩)戦場

傷ついた子猫を 海に連れていって あげたかった 傷ついた子猫と そして一日中 海を見ていたかった 昨日傷だらけの姿で 生まれてきた子猫と 海を見ていたかった 子猫が力つき しずかな眠りにつくまで 昨日までいたところへ また戻ってゆくまで 傷ついた子猫に しおざいの記憶だけは 持っていってほしかった 空と海の青さだけは 持っていってほしかったから 傷ついた子猫と 海を見ていたかった ここは天国じゃない 生まれてきたものにとって ここは戦場 ここはせんじょうだから

(詩)夜を抱きしめて

気付かなかった 今までちっとも 気付かなかったよ 水がなきゃ 海と呼んじゃいけないと 思っていたから なんだかね、やっぱり この夜を抱きしめ ちゃんと目に見えなきゃ 涙だと感じちゃいけないと 思っていたから だけどもうぼくは愛している この夜を抱きしめ この弱々しい腕と臆病な心と 何度も棒にふった運命と できそこないのぼくの一生をこめて 今せいいっぱい抱きしめるよ この いくせんの人がゆきかう 都会の夜の片隅 きみには聴こえないかい きらきらとまたたく街の灯

(詩)ロンリネス

ここまでおいで そしてやさしく抱きしめて 足首だけでいいから 抱きしめて こおりつくほど冷たい波と いくせん年の時の彼方から 抱きしめて 一晩 冬の海を見ていようと思ったのに 海が  おかえり、といった  もう電車がなくなるから、ね ふとさびしいと思ったら もうしおざいのきこえない場所まで 来ていた

(詩)きみが星なら

きみが星なら 誰もいない駅のプラットホームで 終電車まで見上げている 何度も何度も大きく手を広げてさ この宇宙のどこかに きみのいる星がある きみが風なら 都会の人波にまぎれて 夜明けまで歩きたい ただぼんやりと 時より口笛吹いたりしてさ この星のどこかに きみの風が吹いている きみが海なら ぼくは名もない港になろう そして夜明け前打ち寄せる きみの涙にしずかに濡れよう いつまでも、いつまでも そしてきみのしおざい 聴いていよう

(詩)片想い

想い浮かばなかった言葉 うたわなかった唇 想い出せなかった顔 忘れ去った後の海のしおざい 想い出せなかった顔 けっして忘れた おぼえはないはずなのに どうしても 想い出せなかった顔、微笑み その泣きそうだった微笑み 「だいすき」と 動かせなかった唇 「だいすき」と いくら想っていても 心の中で何度つぶやいてみても どれだけ「だいすき」だったか 自分でも気付かなかった心 女の子をデートに誘おうとする 瞬間にかぎっていつも ラブソングをうまく口ずさめない どんなにあなた

わたしの心を ひとつの海にたとえて わたしの心がおだやかな時は 海を見にゆこう わたしの心が荒れる時は 怒りの波、かなしみの波 にくしみの、それらの波が それらの波も いつかはやがてしずまり ひとつの波が砕けちる時に 不思議にいつも心には おだやかな波が ほんの一瞬だけ吹いてゆく それはあたかも 一種の風であるかと さっかくしてしまう程に 教えてください わたしの心も ひとつの海ならば いつかわたしの海を 見にゆきたい いつかわたしの海に たどり着けるでしょうか

(詩)海に触ってみた

海に触ってみた くすぐったそうに 海が笑い返した 海に触ってみた 降りしきる雨のタッチで 海が 冷たいね、と言った 海に触ってみた 夕陽が当たって きらきら光るところ そこがわたしの ほっぺただ、と 海が教えてくれた 海に触ってみた 水平線を ゆっくりと渡る 船の感触で 遠くに行きたいって つぶやいたら 海が わたしもだ、と答えた 海に触ってみた くすぐったそうに 海が笑ってくれた ほおに落ちる涙で 海に触ってみたら わたしの子ども そんな所に 隠れて

(詩)ぼくが海なら

死にたいきみへ 生きていたくないきみへ もしもおれがきみの 心臓の鼓動なら 今すぐにでも 止まってあげたい でもおれはただの 人間の屑だから おれが海なら きみの好きな夏の海でさ そっときみを つつんであげたい 生きもせず かといって死にもせず ただ 夏の空の下で つつんでいてあげたい おれがきみの、涙の海ならば

(詩)沖

波に運ばれ 沖まで流される 浮き輪のように まだ あそこにいる まだ、あそこ ほらやっと あそこまで そして気付いた時 もう遥か 沖の彼方に消えている 誰かを忘れる時 沖は記憶の水平線 失ったものは 沖の彼方にある 時よりだから 波に押し返され ふと思い出してしまう わたしの中にも 記憶を運ぶ波がある 遠い沖の彼方まで わたしの中にも 海があって だから泣きたい時 わたしはいつも黙って わたしの中の しおざいに耳を傾ける そして 遠い夜の海の彼方に 星が消えて

(詩)坂の上の海

坂を上ると水平線 街のざわめきが遠ざかる 額の汗が蒸発する すっーと 気絶するほどの 息が止まるほど海 きらめく波は七色の絨毯 少年の頃 そのまま海を歩いて 見知らぬ国へ確かに行った 坂を上ると水平線 きらめく波は七色の絨毯

(詩)春の海に抱きしめられたくて

海に行くつもりでいたのさ 春の海ってやつかな やっとぬくもり出した 透き通った空気の中で まだひんやりと冷たい波が きらきらと音もなく 押し寄せては引いていく感じの ちょうど無口な男の背中に 人恋しげな春の風が もたれかかっちゃ つれなくてまた離れていくよな そんな孤独な男の後姿に似た 春の波打ち際で ひとりぼっちでまだ 潮っ辛くて肌寒い 潮風に凍り付きながら 恋しいあなたの足音なんかを 待っていたかった ずっと待っていたかったのに そうさ 海に行くつもりでいたんだ き