(詩)下手ないいわけ
ほら、耳をすますと
しおの音がするだろ
どこにいてもぼくたちは
いつでも思い出せる
しずかに目を閉じれば
どこからか遠い
しおの音が響いてくる
だからぼくたちは
すぐに思い出せるんだ
だからぼくは
すぐに感じられる
あなたのことを
今は遠く離れていても
すぐにあなたのことを
感じられる
どこかの海の
海ならば
銀河でもいい
都会でもいい
どこか遠い宇宙の果て
この星のかたすみ
うらさびれた街でもいい
それら
この宇宙の中の
どこかの海の
しおの流れの中に
今もたしかに
あなたがいると
ぼくは感じられる
いのちのしおの
流れのどこかにね
ほかの人の目には
ただ見慣れた
さざ波や人波や
銀河にしか
見えないけれど
たしかにぼくは
あなたを感じられる
たしかにそして
いつか
どこかの海辺にたたずみ
ぼくたちが
海を見ていたことを
思い出すだろう
すべての生命が
出会っては別れ
別れてはまためぐり会う
その姿を、さざ波を
じっと黙って肩をならべ
見ていたぼくたち
「好きだ」ということと
「愛している」ということと
だから
あきらめる、ことは
同じことなんだ
おぼえている、と
いうことと
忘れてゆく、ことは
だから結局、同じなんだよ
寄り添い
抱きしめあうことと
けれど
そのあとに
そっとしずかに
肩から手を
離してゆくことは
ほら、耳をすますと
今もどこかで
しおの音がするだろ
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