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『柳家花緑 都道府県落語 自薦集』読了

藤井青銅著『柳家花緑 都道府県落語 自薦集』を読みました。これは待ちに待っていた本なんですよね。落語家の柳家花緑師匠と放送作家の藤井青銅氏がタッグを組んで、「47都道府県全てのご当地落語を創ろう」という壮大なプロジェクトが行われており、そのテキスト版です。

企画は2012年からスタートしており、現在29ヶ所の都道府県落語を創作・実演してプロジェクトは進行中です。今回はその中で選りすぐりの10篇が掲載されております。なんといっても私の在住地、香川県を舞台にした『時穴源内』という噺も入ってます。これは本当に読みたかった!

なにしろ私が落語に興味を持つ前に口演は終わっちゃってましたからね。新作落語はどんなに名作であっても「ふさわしい機会」が無ければ1回きりでかけ捨て、なんてことが日常茶飯事です。香川の、それも平賀源内を題材とした噺がもう聴けない、内容もわからないなんて勿体ない…と思っていたのですが、こうして台本の形で読むことが出来ました。

感想はというと…。

いやもうすごいですよこの本。

何がすごいって柳家花緑師匠と藤井青銅氏の徹底した「ご当地に寄り添う姿勢」です。ローカルネタを作るのって、その当事者でも難しいのに、47都道府県全部でしょ。普通は、名物をいくつか登場させてお茶を濁す…なんていうだけでも大変だと思います。

ところがこの企画はガチなんですよね。青銅氏が圧倒的な知識と古典へのリスペクトを込めて「今のご当地にウケる噺」を作り、それを非常に親近感の湧く花緑師匠のキャラクターと語り口で披露する。お二人のキャリアを考えれば当然なのですが、想像していた以上にレベルの高い創作落語ばかりでした。

これ、普通に「10本の新作落語が入ってる台本集」としても貴重ですよね。特に「お題に沿って新作を書いてみたい人」にとってはその発想力や技量がすごく参考になるのではないでしょうか。

収録されているのは京都・大分・東京・愛知・香川・奈良・岩手・福岡・静岡・山口なんですけど、やっぱり自分のご当地の香川が一番面白かったですね。現地の人間が違和感なく笑えて喜ぶのだから、本当に完成度の高い落語の数々だと思います。

寄席は基本的に都会の文化です。なので、都会のローカルネタはたくさんあっても、地方のそれについてはほぼ存在しないというのが常識でした。けれども、この都道府県落語「d47落語会」はそれを打ち破る画期的な企画だと思います。

まだプロジェクトは続いているので、これから落語会が行われる都道府県の皆さんは是非ご当地で聴いてみてはいかがでしょうか。そして是非、我が香川県の『時穴源内』も再演をお願いしたい!来年の大河ドラマ『べらぼう』では平賀源内も大きな役で登場するみたいなので、タイミング的に良いんじゃないかなあと期待しております。