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【新作落語】キュート・イズ・ジャスティス!

ホセ「城戸サーン、コンニチワ」
城戸「おお、ホセさん、よく来たね」
ホセ「スゴイ、オ祭リデスネ」
城戸「地元で一番のお祭りだからね、日本、久しぶりだっけ?」
ホセ「ソウデス。covid-19ノセイデ、三年モ日本ニ来レマセンデシタ」
城戸「やっと世界的な感染も落ち着いたからね。今日は楽しんでいってよ」
ホセ「ハイ。プログラム貰ッテキマシタ。演歌歌手ノ檜山タカシサン、来ルンデスネ~」
城戸「え、檜山さん知ってるんだ。さすが日本通だな~」
ホセ「全然知リマセン」
城戸「なんだそうか」
ホセ「マジックノ、ファイヤー金子サン、来ルンデスネ~」
城戸「ああ、金子さんは知ってるんだ」
ホセ「全然知リマセン」
城戸「…別に知らないことを教えてくれなくていいよ?」
ホセ「ア、デモ、名前、知ッテルノ、アリマスヨ、コレデス」
城戸「あ、ぬいぐるみショーのキャラクターね。アマビエさん。よく知ってるね。海外でも話題になったらしいもんね」
ホセ「ハイモウ大好キデスヨ。スシロー、クラズシ、ハマズシ、ミンナ回ッテマスヨ。スグ取リマスヨ、オ皿。デリシャス」
城戸「ちょっと待って。それ、もしかして甘エビのことじゃない?」
ホセ「アマエビ、違イマスカ?」
城戸「違う違う。甘エビはシュリンプのことね。これは、アマビエ」
ホセ「アマビエ…アマビエ、何者デスカ?」
城戸「アマビエはね、妖怪ね。妖怪」
ホセ「妖怪!オゥ妖怪…!」
城戸「妖怪は知ってるよね日本何度も来てるから」
ホセ「全然知リマセン」
城戸「知らないの?ゲゲゲの鬼太郎とか、見たことない?」
ホセ「キタロウ…シティボーイズデスカ?」
城戸「違うよ。なんでゲゲゲの鬼太郎は知らないのにシティボーイズのきたろうは知ってるんだよ。普通逆でしょ」
ホセ「斉木シゲル、大竹シノブ…」
城戸「まことだよ。シティボーイズで大竹まことだけ覚えてないのも珍しいよ。あのね、妖怪は簡単に言えば、日本の昔のね、オバケとかモノノケとか、人ではない、怪しい生き物のことだよ」
ホセ「モンスター?」
城戸「まあ、そうかな。日本のモンスターだね」
ホセ「ミンナデ、狩リマスカ?」
城戸「狩らないよ。モンハンみたいな巨大な怪物じゃないからさ。あのね、日本の、日常に根ざした、素朴な感じのモンスター。わかる?」
ホセ「ソボクナ…ジャア、アマビエ、ドンナ妖怪デスカ?」
城戸「アマビエはね、昔、海に怪しい光が現れるからお役人が調査に赴くとね、アマビエと名乗るこう、魚なんだか人なんだかよくわからない妖怪が出てきて、“これから豊作になるけど疫病が流行るから私の姿を書き写した絵を人に見せよ”と言って海中に消えたと。そういう妖怪」
ホセ「ワンダフル!スゴイ!ノストラダムスヨリ全然具体的ジャナイデスカ。モウアイツ要ラナイデスネ」
城戸「ノストラダムスとは違うけどまあ予言をするタイプの妖怪だね。だからコロナが流行った初期にみんなでアマビエの絵を描くブームが日本であったんだよ。疫病退散の願いを込めてね。このアマビエの着ぐるみも、その時にうちの自治体で作ったんだよ」
ホセ「ハア~凄イデスネ。アマビエノオカゲデ日本ハcovid-19ガ、スグニ消エタンデスネ」
城戸「いや…別に…その後三年くらい続いたし」
ホセ「ハイ?」
城戸「やっと収まってきたのは予防とワクチンのおかげかな…」
ホセ「アマビエノ絵ヲ描イタカラジャナインデスカ?」
城戸「関係ないと思うよ。…あ、そもそもアマビエは疫病を鎮めるとかそういう力があるわけじゃないらしいんだよね」
ホセ「ハイ?ナラドウシテ、アマビエ、絵ヲ描カセマスカ?ソレ聞イテ、ミンナ描キマシタカ?」
城戸「…さあ?アマビエがそう言うし、人魚みたいで、可愛かったからじゃないかな?」
ホセ「ソレ、騙サレテマスヨ?アマビエ、タダ、バズリタカッタダケジャナイデスカ!?」
城戸「今どきの日本語よく知ってるね。まあ、でも、いいんじゃないかな、アマビエ可愛いし、みんな楽しかったし」
ホセ「良クナイデショウ…。怒ッテマスヨミンナ。コレ、出テ来タラ、石投ゲラレマスヨ」
城戸「いやあ、大丈夫でしょう。可愛いからねアマビエ」
ホセ「カワイイカラッテ…アッ!ステージニ、現レマシタヨ、アマビエ!逃ゲロ!狩ラレルゾ!」

ステージにアマビエの着ぐるみと司会のお姉さんが登場。

司会「はぁ~い、今日はみんなたくさん集まってくれてありがとう!アマビエさんも嬉しいって言ってます。みんな、アマビエさんのこと好きかな~?」
子供達「大好きーー!」
ホセ「エエエエエーー!」
司会「みんな保育園や幼稚園でアマビエさんの絵を描いたことある?」
子供達「あるーー!」
司会「みんながアマビエさんを描いてくれたおかげで、ようやくコロナも収まってきました。拍手ーっ」
子供達「(拍手して)わあーーっ!」
ホセ「騙サレテルヨーー!力持ッテナイヨーアマビエー!」
城戸「可愛いからみんな納得してるんだよ」
ホセ「ズルイデスネエ…」
司会「じゃあみんなの中で、アマビエさんに質問のある人!…はい、一番に手を挙げた君!」
男の子「アマビエさんは、何でみんなに絵を描かせたんですか?コロナを無くす力は持っていたんですか?」
ホセ「アアーッ!アノ男ノ子、核心ヲ突キマシタヨ!」
城戸「本当だ。チャレンジャーだな」
司会「わかりました。じゃあ、アマビエさんに聞いてみましょう」
アマビエ「(嘴を動かし、司会に伝える)」
司会「ふむふむ。アマビエさんは、みんなに自分のことを知って貰いたかったんだって。そして、自分の力だけじゃコロナを無くすことはできないけど、みんなで一生懸命頑張ったから、こうしてコロナが減ってきたそうでーす」
ホセ「ガッツリ誤魔化サレテルヨーー!男ノ子、頑張レー!」
アマビエ「(かわいこぶる)」
男の子「(納得して)ありがとうございました」
ホセ「カワイサニ負ケテルー!」
城戸「まあしょうがないな可愛いから」
司会「ではそろそろ時間なので、アマビエさんは海に帰るそうです。もうしばらくみんなには会えないと思うけど、元気に過ごしてね」
子供達「嫌ー嫌ー帰っちゃ嫌ー」
ホセ「帰ラナイト、covid-19、無クナラナイヨ…」
司会「ちょっと寂しいけど、みんなでありがとうを言いましょう、せえの」
子供達「(手を振り)アマビエさんありがとうー」

司会とアマビエ、去る。

ホセ「チョット納得イカナイデスネ…」
城戸「まあ、流行が終息するなら、アマビエさんの出番もこれで終わりだから。来年からは新しいキャラクターが登場する予定だしね」
ホセ「ソウデスカ。何ガ登場シマスカ?」
城戸「このあたりを昔治めていた郷原弾正虎光っていう戦国武将ね。物凄く強くて鬼弾正って呼ばれた猛将なんだよ。それをモチーフにしたの」
ホセ「オウ!サムライ!ショーグン!イイデスネ!」
城戸「(スマホを見せて)これが原案なんだけどね」
ホセ「…コレ、女ノ子ジャナイデスカ」
城戸「最近流行りのね、女体化。なんでも女の子にしちゃうの。偉人もお城も家電も競走馬も何でもこうなっちゃう」
ホセ「ソレデイインデスカ!?」
城戸「いいんじゃない?だって…」
ホセ「OK。アンダースタンド。日本デハ、“カワイイガ正義”」

(終)

【青乃家の一言】
こちらはありがたいことに初めて「依頼を受けて書いた台本」になります。その内容は「日本の独特な文化に外国人がツッコむ的な落語ができないか?」というもの。今年の春に自分の中で期限を区切って挑戦したのですが、やはり締切って偉大ですね。なんとか書き上げることができました。
ネタが古くならないうちに、披露されることがたくさんあればいいなと願っております。