過去という資産

自宅療養49日目。4:40起床。悪夢がひどい。よく考えたら毎日のように夢は見るが、そのほぼ全てが悪夢と呼べそうだ。追いかけられる・絶対絶滅の危機・殺される・裏切られる・火だるまになる・突き落とされる、等々。悪夢の原因はストレスとかトラウマ的な要素が原因などと書いてある。怪我、病気、服薬のケースもあるそうだが、これという確実な原因は見つからない。

記憶フォルダの整理の過程で、過去に体験した出来事が浮かび上がり、それらが組み合わさって物語になる。そんな説明も多かった。ならば悪夢が必ずしも悪影響の産物であるという理屈は何なのだろう。

夢日記をつける手もあるが、これをやると夢のリアリティが増す。悪夢だと最悪。刺される瞬間に腹にめり込んでくるナイフがスローモーションで映される。その時の痛みと怖さが尋常ではない。過去につけていたことがあるがそれが恐ろしくなってやめた。

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そういえば、女性がよく云う「或る日、何かのきっかけで生理的に受け付けなくなる」みたいなことも、男性の口からはきいたことがない気がする。
これに関連して思ったのは、男性は過去の出来事や昔の思い出を自分の資産のように感じやすい、ということだ。若い頃の武勇伝を自慢げに語るとか、わが青春に悔いなしみたいなことを云い出すとか、いずれも男性にありがちだ。「一回好きになった人を、よほどのことがなければ嫌わない」のも、それが既に自分の資産目録に載っているからじゃないか。

「異性」(穂村弘・角田光代)より。恋愛とはなんぞやと考察するエッセイ。往復書簡のように、お互いの話を受けて答えつつ、新しいテーマを加えて展開させていく方式。受け手としての穂村弘が優秀すぎて、全ページ面白い。同じ穂村弘が川上未映子と対談したやつも最高。この2冊は何回も買い直して、絶えず持っているくらい大好き。

「昔の思い出は資産である」というと中々にエグい。でもその通りだと思う。自分の資産目録を時々眺めながら、あの娘は元気かなと思いを馳せる。自分もやることがある。未練があるのでは無い。別れ離れたことによって、その想い出がコレクション化しただけである。綺麗な部分に砂糖をまぶしてさらに甘い想い出にする。記憶の改竄が媒介となって、見事にガラスケースに飾られていく。

一年前に事実婚の女性から唐突に別れを告げられた。その時は仕事で悩んでいて半分鬱状態だった。こんなに苦しんでるなか捨てられるのかと当時は絶望的になったが、お互いの前途の準備として3ヶ月、適度な仲を保ちながら、結果きれいに別れることができた。本来なら思い出したくもないが、時々思い出してしまう。良かったことだけを陳列させ眺めているのだ。女々しいというか何というか、これは男性に備わった機能みたいなものかもしれない。

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美容院でさっぱりし、図書館で本を借りる。八百屋で野菜を仕入れ、古本屋を覗き、LUMINEの無印を冷やかして帰る。普通の入口に戻ってこれた気分。

しかし体はボロボロだった。足の痛みだけでなく全身がだるい。一歩踏み出すのに時間がかかり、5分ごとに立ち止まらなければ歩き続けられない。

前回もそうだったのに、もう忘れている。外出したくなるのは調子がいい時だ。室内で「今日は行けそうだな!」と勘違いして飛び出す。気持ちと体力の比較検証を怠っているから、体力の見積もりを完全に間違うのだ。

とはいえ複数の場所を回れたのは進歩だ。階段、エスカレーター、エレベーター、小さな段差、人混みなど、様々な課題を何とかクリアできた。

ずっと室内にこもっていると視覚情報が少ない。調べてみたら『ヒトが外界から得る全情報の80パーセントを目が担っている』との意見がある。

情報が少ないと脳の稼働は減るだろう。機械と同じで、そんな状況が続けば、いざ使おうとなった時うまく動いてくれない可能性がある。頭をクリアに保っておくためにも、こまめに外出しようと決めた。



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