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鑑賞録 #16 「ゴジラ マイナスワン」


好みとの合致度:75%
 - 映像:4/5
 - 登場人物:3/5
 - ストーリー:3/5
 - 音楽・音:5/5


普段ならぜっっっっったいに観に行かないタイプの映画を、公開から4ヶ月が経った2024年3月、観に行くことにした。

上映時間を調べると夜間帯のみで、その時点で10席埋まってるかどうかの好条件。

スクリーンに対してどセンターかつちょうど通路の直後の列で前に座る人に視界を遮られない席を取ることができた。実際に映画館に行ってみると左右も1席ずつ空けて他の人が座っていて、隣に人がいない。

これ以上ない最高の環境である。

結論からいえば、映画館に観に行くことを決意して本当によかったと思える作品だった。

私は邦画をほとんど観ないし、怪獣の出る作品を積極的に観ることもない。
そして映画館には年に一度行くかどうか。

本作では戦中戦後の日本と謎の生物「呉爾羅ゴジラ」との戦いが描かれるが、私には当時のあれこれに関する知識はないし、怪獣にもあまり惹かれないたちである。

つまり細かい点に気がつくほどの教養も興味もこだわりもないので、粗も分からないが深く楽しむこともできない。私が観客としてふさわしいとは全く思えないジャンルの作品である。

しかし本作に限っていえば私のような浅い視点からでも十分楽しめ、
「ゴジラかっけえええええええええ!!!!!!!!!」
「ゴジラ来い、ゴジラ来い、ゴジラ来い!!!」

とわくわくしながら鑑賞していたし、ゴジラや物語のみならず「音」が本当によかった。




映画館に観に行くか否かは作品への興味の度合いよりも「映画館の音響で観るべき作品かどうか」で決めていて、今回マイナスワンを観に行こうと決意したのも「絶対に映画館で体験すべき音」と薦められたからだ。

迫り来る足音、咆哮、放射熱線を放つ音、放射熱線で起こる爆発の音、そしてゴジラのテーマ:Godzilla-1.0 Godzilla Suite。

細かいSEもしっかり入れてあったが、これらのアイコニックな音が本当によく作られていて、スピーカーから大音量で受け取るべきサウンドだと感じた。

どれだけいい音質のヘッドホンでも身体への響きは再現できないし、騒音問題で隣人に殺されかねないほどの音響設備を用意できる経済力があったり隣近所との間が数百メートル以上ある環境ならまだしも、少なくとも私の甲斐性や都内の住宅事情で許される出力では映画館の音圧の足元にも及ばない。

映画館で観るべきとはこのことである。

もちろん大きなスクリーンで観ることの迫力も自宅では再現できないが、私にとっては映像のインチ数よりも音の方が遥かに重要だ。


Godzilla-1.0 Godzilla Suite

特にGodzilla Suiteの使い所がよく、ここぞというときにかかり、曲自体の持つ魅力が効果的かつ最大限に発揮されている。

絶望的なまでの暴力と恐怖が映し出されると同時に、恐ろしくも美しく、悲哀や使命感、果ては慈愛のようなものまで孕んだGodzilla Suiteが流れてくるのだが────

正直、「ゴジラのテーマ」にしては優しすぎだ。

まるでゴジラが人類には預かり知ることのできない正義や大義を持って動いているような曲で、(これまでのゴジラがどうかは分からないが)少なくとも本作のゴジラにぴったりとは思わない。

調べてみると、そもそも「ゴジラのテーマ」として知られているこの曲はイントロ部分こそゴジラを表現しているが、主題としては「ゴジラに立ち向かう人類のテーマ」として作られた曲なのだという。

ピクシブ百科事典「ゴジラのテーマ」

私は完全に「ゴジラのテーマ」という認識だったので曲の印象を意外に思ったし、鑑賞後にこの説明を読んで合点がいった。
そういう趣旨ならばすごくしっくりくる。

ゴジラは脅威として音に内包されていて、ゴジラに立ち向かうシーンでかかるのだからゴジラのテーマとしても機能しているものの、あくまでもフォーカスされているのは人類側の状況や心情だ。

しかしその副作用で、ゴジラが破壊衝動だけで暴れ回る薄っぺらな存在ではないように感じられ、神秘的な雰囲気さえ付加しているためにゴジラ自体の魅力が大幅に増す結果になっている。

曲そのものへの馴染みがあったことは琴線に触れる大きな要因になったと思うが、現代の音色おんしょくで再録されているとはいえ伊福部昭氏によって1954年に作られたこの曲が70年の時を超えてなお陳腐にならず、むしろ70年分の貫禄や説得力さえ携えて圧倒的存在感を放っているというのは本当に素晴らしいことだと思う。

鑑賞中、この曲を聴いただけでちょっとうるっときてしまったほどである。

非常にアイコニックで存在感のあるGodzilla SuiteはI, II, IIIの3種あって違いも面白いし、またGodzilla Suite以外の曲もとてもいいのでぜひOSTを一通り聴いてみてほしい。

どの曲も素敵だが、個人的には特にElegyMissionが好きだ。
いや……Resolutionもよかった……もう全部好きかもしれない。

本作で音楽を担当した佐藤直紀さんはエウレカでしか認識していなかったためポップなイメージがあったので印象がかなり変わった。

追記
何気なしにこれまでの山崎監督作品のスタッフを見ていたら「ALWAYS 三丁目の夕日」以降ほとんどの音楽担当が佐藤直紀さんだった。
山崎監督作品の常連だったようだ。
一瞬こわっとか思ったがティム・バートンとダニー・エルフマンみたいなものか。


さらに追記

すごい。
Godzilla Suiteはこれまでのゴジラ作品からの引用が含まれているそうだ。
だから"Suite"だったのか。

Godzilla Suite Iでは「モスラ対ゴジラ」からの引用、Godzilla Suite IIでは「キングコング対ゴジラ」からの引用がされているとのこと。

私が感じた「恐ろしくも美しく、悲哀や使命感、果ては慈愛のようなもの」というのはモスラやキングコングの要素でもあるのだろうか。
慈愛はなんとなくモスラっぽいけど。

クラシックスを知っているとこういう「くぅ〜ニクいねえ!」みたいなのが分かる楽しさがある……どうしよう、初代ゴジラ観てみようかな……?

今思い出したが、小さい頃に「ガメラ3 邪神覚醒」を映画館で観てる気がする。映画館で観たのか自宅で観たのをそう思い込んでるのかは定かじゃないけど観た気がする……ガメラは引用されてないけど。

曲でも映像でもまだ他に引用されている(もしくはもっと正しい引用元がある)のかもしれないが色々ありすぎて……どの曲が〇〇初出の△△で〜オリジナルがほにゃららで〜これはこのシーンで〜〜とか有識者に解説してもらいて〜〜〜〜!!!


ゴジラの音

これ作ったのufotableアニメの音響さんですか?と思うほどSEが素晴らしかった。
音響担当がどこなのか、あるいは誰なのかがめちゃくちゃ気になってスタッフ一覧を見てみると、井上奈津子さんという方がクレジットされていた。

<山崎貴監督×井上奈津子(音響効果) 前編/中編/後編>

このインタビューを観てしまうとDolbyで観られなかったことが本当に心残りだが、Dolbyでない環境で鑑賞してあれだけドキドキさせられ、あれだけ息の詰まる思いをさせられたのだからむしろ初見がDolbyでなかったのは心身の安全という観点からはよかったと言えるのかもしれない。

しかしやはり心残りである。
10年後、ゴジラ80周年記念とかでDolby上映してくれたりしないだろうか??

本作のゴジラは悪役的ではあるが、足音やら咆哮やら破壊行為に付随する音やら、ゴジラを起点に発生する音がいちいちかっこいいのですごく好きになってしまう。

あまりに魅力的なので危うくゴジラのフィギュアを買いかけた。
(売り切れていて買えなかった)


ちなみに本作では初代ゴジラの鳴き声をもとにしているそうで、この初代ゴジラの鳴き声(および足音)を発案したのも「ゴジラのテーマ」を作曲した伊福部昭氏である。

■スタジアムに響くゴジラの咆哮。存在感マシマシなこだわりの収録
音響チームのこぼれ話として、ゴジラ-1.0に登場するゴジラの鳴き声は初代のものを使うことが方針として決まっていたと山崎監督。それに対して井上氏は“国宝みたいな声を現代の音響システムで鳴らし切る”ことを第一に、声を崩さないように様々な試行錯誤を行ったとのこと。

最終的には“響きが足りない”ことから、井上氏が以前からトライしてみたかったという「外で実際に音を鳴らして反響を収録した素材を映画に使う」という大規模な録音にチャレンジ。「巨大なスピーカー」「広い場所」「天井がない」「少々の傾斜と反射がある」…、そんな場所は「ZOZOマリンスタジアムしかない」と電光掲示板裏のいちばん大きなスピーカーからゴジラの鳴き声を鳴らして収録を敢行。思わず「そこに(ゴジラが)居る!」と感動したという。

ZOZOマリンでゴジラが咆哮? 実在感を突き詰めた『ゴジラ-1.0』、ドルビーアトモス音響制作の裏側を訊く

ゴジラの鳴き声は、助監督や録音助手が松脂をつけた革手袋でコントラバスの緩めた弦をこすった音色をソニーのKPに録音し[出典 39]、10種くらい選んだものを手動で再生速度を速めから遅めに調整しながらゆっくり逆回転再生した音であり[242]、その中から6 - 7種の声を最終的に使っている[179]。これは、1954年の『ゴジラ』の製作時に音楽を担当した作曲家の伊福部昭が足音とともに発案して音響効果の三縄一郎が編集加工したものであり[239]、サウンドトラックCDに収録されている。また、後年の東宝映画や円谷プロの怪獣の声もこの手法を使用していた。

Wikipedia「ゴジラ (架空の怪獣)」舞台裏


余談:「冷める」SE

素人意見で恐縮なのだが、国内外で凄まじい支持を集める作品でも「なんでそんなことになっちゃうの?」と思うようなSEが使われていることがある。

戦闘シーンの打撃音や連射される砲撃音などの「繰り返される音」「連打音」でそれが起こることが多く、あれを聴くと「ああ、作り物なんだなあ」と思い出させられて急激に冷めてしまう。

これについて、つい先日「ゲームさんぽ」内で言及されていたのでシェアしたい。(10:23〜)

同じ戦闘でもビームやライトセイバーのような電子的要素を多分に感じるものが機械的に鳴り続けるのは気にならないが、人間が何かを殴ったり蹴ったりする音が常に全く同じ音程・音色・テンポで鳴っていたら違和感を覚える。

本作ではそういう「冷める」SEが一度も登場せず、最後まで熱を保ったまま観ることができた。


主題歌

それと、主題歌(エンディングテーマ)がないこともかなりの評価ポイントである。

私は実写の映像作品こそ英語圏のものばかり観ているが、こと音楽(歌)に関しては日本の楽曲が大好きだ。

しかし、映画によっては「なァんんでこの映画のラストにこのアーティストのこういう歌を持ってくんだよォ〜〜〜〜〜〜〜!J-popがハマるような作品じゃなかっただろうがよ────ッ!!」と、私の推しであるギアッチョみたいな感想を持ってしまう時がある。

本作ではそれがなく、もっといえば歌詞のある曲が登場しない。
それがとても好印象だった。


余談:ゴジラのテーマ

ちなみに本作を観るまでの私にとって、ゴジラのテーマは原曲よりもPharoahe MonchのSimon Saysでのサンプリングの印象の方が強かったりする。

誰も何も悪くないが、鑑賞中にどうしてもこのサンプリングが頭をよぎり、無意識にリピート部分がくるのを期待してしまうのが少し邪魔であった。



ラブストーリーではない

主人公の敷島がともに暮らすのは、寄せ集めの家族である。
空襲で肉親を失った敷島、同じく一人残された典子、死にゆく人から託された赤ん坊の明子。

3人が繋がったのはただの偶然で、血縁どころか顔見知りでもない。

自分が生きていくのでも精一杯の状況だが、居着いてしまった女性を追い出す気になれない敷島、なんの養育義務もない赤ん坊を投げ出せない典子、無力ながらも人々の鎹になる明子が描かれる。

私は安易に恋愛要素を入れる作品が好きではない。
恋愛要素がないと絶対に成り立たないような物語でなければ極力排除してほしいくらいだ。

日本を含むアジアの映画やドラマをあまり観ないので傾向を知らないが、英語圏の作品ではこじつけのような恋愛要素が発生することがよくあり、何シーズンも追いかけてきた物語が急に陳腐でありふれた展開になってしまう(ように感じる)。

本作において敷島と典子のあいだには確かな愛情があり、結婚するとかしないとかの描写は出てくるものの、その関係性は恋愛的ではない。

ただの同居人でありながらいつしか家族愛が芽生え、互いに気遣い支えようとしている描写がとてもよかった。



おわりに

Blu-rayを買うかどうかはまだ分からないが、配信されたら再視聴する気まんまんである。
そして前述の通り、Dolbyで再上映される機会があるなら観に行きたい。

追記
第96回アカデミー賞「視覚効果賞」ノミネートのおかげか、授賞式の翌日2024年3月11日から数館ほどでDolbyほかノーマル以外の上映が復活するようだ。いい席取れるかな〜〜〜〜!!
絶対行こう。

映画館で観るのは「音」が基準であるために、映画館で観た作品を配信やBlu-rayで再視聴することがほとんどないのだが、本作はもう一度観たいと思える作品だった。

映画館で観ることの最大の難点が「周りに気を遣う必要がある」という点なので、今度は周りに一切の配慮をすることなく観たい。


私がフォローしている英語圏のYouTuberの中でアメリカでの公開日当時に観に行って、その日にすぐ感想動画を出してくれた人がいたのだが、五体投地せんばかりに大絶賛していたのを覚えている。

今日改めてその動画を観てみたら私もほとんど同じような感想の箇所があって笑ってしまった。

そのうち、同じ要素について私は「うーん」と思い、その人は「素晴らしい」と評価していた。なぜそう思ったかの理由も同じだったのが興味深い。
同じポイントについて同じ理由で注目し、結論だけが「YES」と「NO」に分かれている。

完全に好みの問題で、その人が「YES」と思う理由もすごく理解でき納得もするが、全く共感できない。
面白い。



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