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withコロナ時代、編集者の友人から届いた「切ない知らせ」と「素敵な知らせ」

 先日、編集者をしていた友人から、
「担当していた雑誌が休刊になり、編集部が解体してしまった」
という、悲しい知らせが入った。

 彼女は、私の中学時代の同級生。
子どものころから、ぼーーっと生きていた私なんかとは違い、
頭脳明晰、成績はつねにトップ、大きな瞳と黒髪が印象的な凛とした顔立ち、すらりとした背の高さ、誰からも頼りにされるリーダーシップを兼ね備え、なんだか別次元に生きているような存在だった。

 こう書くと、「でも、性格は悪いんじゃない?」「上から目線で見られそう」と思われてしまうかもしれないが、それが、そうじゃなかったんだよね。
 あまりにもカンペキな人なので、少しくらいマイナスポイントが欲しいところなのだが、どんなに探しても・・・見つからない。何をやってもイマイチで、ぼーーーっと生きている私にも、彼女はいつも優しかったし、「私ってすごいでしょ」みたいなマウントをかけてくることも、まったくなかった。ちゃんと一人の友人として私のことを尊重し、認めてくれていた。

 中学を卒業後、言うまでもなく、彼女は地元でいちばんの高校に進学し、超難関私立大学に進学。超有名企業に勤め、結婚後はご家族とともに海外で駐在生活を送るなど、だれもが羨む、エクセレント且つエレガントな人生を送っていた。もちろん、語学のほうも英語やフランス語など諸々堪能である。

 じつは中学卒業後、私たちはほぼ会う機会がなかったのだが、風のたよりに、いろいろな人から、彼女がキラキラ系ライフスタイル雑誌に出てくるような生活をしているよーという話を聞いていた。

 さて、そんな彼女と私がようやく再開したのが、今から2年前くらい。場所は、東京・渋谷で開催された同窓会。「わぁ、久しぶりぃー」「全然変わらないねー」なんて互いに気も使いつつ(いや、ホントに彼女は変わっていない。なんでだ?!)、いろいろ話をしたのだが、なんか酔っぱらいすぎて、詳細はよく覚えていない。

 唯一覚えていたのが「私の夢は、〇〇〇ちゃん(小川こころの中学時代のニックネーム)みたいに、書くことを仕事にすることなの」という言葉であった。

 驚愕である。

 いやいや、物書きなんて、地味だし面倒だし体力勝負だし眼精疲労だし肩は年中こりまくってるし理不尽なことも多々あるし、キラキラ人生を送ってきた彼女が憧れるような仕事ではない・・・と思うのだ。

 遠回しに、ライター業におけるネガティブポイントをいろいろ伝えてみたのだが、「多くの人に自分の思いを伝える仕事って、とても素晴らしいと思うよ」と、熱い思いとともに凛とした眼差しをこちらに向けられ、もう何も言えなかった。

 だって、ブツブツ文句を言いながらも、ライター業をいまもずっと続けていられるのは、どんなに地味でも面倒でも肩がこりまくっても、やっぱり原点に「自分の思いを、文章というかたちで表現できるおもしろさ」があるからに違いない。

 かくして私は、彼女を応援する側にまわることにした。いや、もともと高い文章センスや幅広い知見を持っているうえ、語学も堪能な彼女なので、私の応援などなくても、どんどん道を切り拓くだろう。

 ほどなく彼女から、「まずは編集者として勉強するため、出版系の会社の編集部に、正社員として採用された」と連絡があった。

 さ、さ、さすが!
 編集経験がほぼないのに、この時代にこの年齢で正社員として採用されるとは、やっぱり彼女はレジェンドだ。
「まずはメルマガの担当を任された。この経験を積み重ねて、いずれはインタビュー取材や記事の執筆を担当できるようになりたい」と、
新しい分野での不安や苦労など微塵も見せず、持ち前の熱い気持ちと潜在能力でキラキラ前進していた。

 でも、でも・・・。
 ここでまさかの事態が起こった。そう、コロナウィルスによる世界的なパンデミックだ。
 さすがの彼女でも、この事態は予想できないし、だれにも抗えない。
 コロナウィルスの影響で、彼女が担当していた雑誌が休刊し、そのまま編集部は解散に追い込まれていったのだ。
 いや、彼女の雑誌だけではない。私が仕事で絡んでいる雑誌や書籍なども、大幅に出版スケジュールが遅れたり、休刊せざるを得なかったり、メディア・広告業界全体が窮地に立たされている。

 そんな厳しい状況の中、彼女から届いたメールの一言に、私は思わずニヤリとしてしまった。
「私は、自分の夢をあきらめていない。人生100年時代だから、まだまだ時間はたっぷりある。コロナが少し落ち着いたら、どこかの編集部で仕事ができるように就活を始めるつもり。それまでに、エッセイや小説にチャレンジし、書くことの勉強も続けます」

 驚愕である。
 やっぱり彼女は、私にとってのレジェンドだ。

 なんだか自分が情けない。
 コロナのせいにして、やりたかったことを後回しにしたり、見て見ぬふりをしたり、気がついたら「コロナだから仕方ないよね」が口グセになっていた気がする。

 数年後、いや、もっと早いうちに、
きっと彼女は敏腕エディターになり、その後、一人の文筆家として、
世の中に羽ばたいていくだろう。
 そのとき、彼女がどんな文章を綴るのか、どんなメッセージを世の中に発信するのか、今から楽しみで仕方がない。


 いやいや、もちろん、
私自身も、ぼーーーっとはしていられません。
センパイ文筆家として、その頃には、今とは違う景色を見られるように、
決してカッコよくはないけれど、ジタバタしながら、ときには後退しながら、ちょっとずつ前に進んでいこう。
 
 といいつつ、うっかり「相棒」の再放送を見てしまい、貴重な時間をぼーーっと過ごしてしまったのは、言うまでもない。


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