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中国福州隔離日記【DAY3】深夜

いまは集中医学観察期間というもののまっただなかにいる。これは、理解できるようで普通の感覚では理解しがたい。

たとえば、外に出れないので自分の状況について質問したり、まわりを観察したりする機会がない。中国語ができれば、一応ホテルのフロントにはつながるので質問をすることはできるだろう。

とはいえ、質問してどうするんだ、という気もする。

たとえば、このビルが全部で何階あって、どのフロアが隔離に使われているのか、一棟すべてなのか、防護服で動いているのはホテルのスタッフなのか、大学生バイトなのか、国の職員なのか、トランクにぶちまけている液体はカビキラーなのか、それがわかってなんだというのだろう。

外にものを送ることは禁止。出前の注文も禁止。アルコールも禁止。ちょいとそこまで、も禁止。お菓子なし。ベジタリアン食なし。一切の英語表記なし。説明なし。英語スタッフたぶんなし。

通常の中国ローカル旅行が、2、3ランクレベルアップしたような感じだね。
外に出れないという圧倒的な事実のまえには、わりとなにもかもがむなしい。

とはいえ、べつに落ち込むほどのことでもなく、ただ食事と十二分すぎるほど内省的になることのできる贅沢な時間を楽しんだらいいのである。

今後の困難予想をいまの段階でしておくと、もっとも難しいと思われるのは、中国の電話契約が失効していたことだ。現在、中国では健康デジタル手形のようなものが導入されており、そのアプリをダウンロードし、電話番号で個人をタグ付けして、自らの健康情報を入力して緑色表示のQRコードを見せないことには、新幹線にも乗れない(COCOAの運用を数百倍過激にしたような感じか)。これは想像だが、ホテルにも宿泊できないはず。つまり電話がなければ、長距離移動も宿泊も難しい。☛これは誤った情報とわかったので訂正しておくと、トラベラー用の手形発行が別枠であり、それを使えば海外の携帯でも登録ができました。なので、解決(翌朝記す)。

しかし、電話番号はパスポートを持った本人が電話会社に出頭しないと契約をすることができない。隔離期間中に電話契約はできない。そうなると当然新幹線の予約もできない。

出所の日に、福州ダウンタウンにむかうバスを見つけ(バスはデジタル手形はいらないと信じたい)、町で携帯の契約をし、さっそうと中国語しか表記のないデジタル手形に自分の情報を入力しながら、新幹線の予約をし、駅でチケットを交換し、セキュリティを通り抜け、それでやっと200キロ先の厦門にむかえる、という算段。ホテルからの出所は、飛行機到着時間から厳密に21日経過後の午後6時18分(この厳密さいらんだろ)。もう日も暮れている。

いろいろ無理じゃない、とも思うのだけど、これまでもこれくらいのクエストはよくあり、まあだいたいなんとかなってるのでいまから気にしてもしょうがないよね、とも思う。

それにしても、デジタル技術と管理ネットワークが徹底している社会に入り込むと、わたしが生きたいのは、こういう世のなかではなくて、遅れて届く手紙や、情報ではなく表情やしぐさなどが大切にされる社会なのだとつくづく感じる。

前世紀末、オハイオの田舎町で、雪のなか凍えながら銀色の公衆電話に長距離電話カードの暗号をいれ、京都や東京に電話をかけていたころから、ずいぶん遠くにきてしまったものだ。距離も、時間も。

タイトル写真は、さすがに代り映えしないので、去年のいまごろ、厦門の海岸で撮った写真。

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