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感情骨

感情骨

恋愛、と口にする。絵画のように青く燃えてはいない。
春の気圧がそぷらのして、空洞がもっとも光っている。
(いないのに?)(いないから)
うつろのはるかあなたへわたしを代入することができる。

やがて遺影になるまでの日々を生活と呼ぶように、これまでのすべてが愛の名に束ねられてしまうなら、いっしんに走ってゆくこのにくしみは何なのだろう。ことばが追いつけない速度でわたしたちのからだは、感情は組みかえられ

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むかし・ぽーとぴあ

むかし・ぽーとぴあ

えずく喉をひっくりかえせばみごとな春の野になって、性差もなくこんだくしていたころのこと、思いだせるでしょう。ここは誰かの領土、統一された法で区切られてとても清潔。だからきみたちは愛、すらもその仕切りのなかにあるってこと忘れさせられてかんたんに愛しあったりする。温室にコンニャクの花を見にいったこと、覚えている? 人工的な春を保たれてようやく咲く花。人間の性も似たようなものだって、思ったけれど言わなか

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happy birth

happy birth

すべての光をここで絶やすことはできない
まなざしにめくれてゆくからだを
止めることはできない
燃えやすい光線が触れて
うちうみがひび割れてゆく
(halation)
傷口からもれだす
幼年が
無垢と名づけられて
むきだしの歌がひずむ

すべての光をここで絶やすことはできない
あなたのまなざしを
座礁させることはできない
間違った名前が刻まれて
鏡の奥でむすぶ繭が
ほつれてゆく
(happy bir

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closet,closet…

――窓の向こうにゆらめく塩田の沸騰が見えて。恩寵のように晴れているから、まるでいま、空からほろりと生まれ落ちたかのようなわたしだった。
(あんぜんなへやだから……)
シャッターを切りそこねられたまま焼きついていく景色だから、
(のこらない……)
ここはこんなにもまばゆい。光にまみれすぎていて、あなたたちにこの部屋は見えない。

(白い嵐しか見えない。すべてをうすい膜が覆っていて、わたしからはあまり

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発光葬

発光葬

瞼を漏電して夜がせりあがる。蒼ざめた肉をぬけだして脈うつわたしたちの発光。ひび割れた性愛の墓場から、高架線は幾千の窓を通った。

現実を殺すために降りてゆく睡りの奥で鏡像を砕いて、そのつど透明な塩を血のかわりに流す。装丁されたほほえみを浮かべながら、殺意は耐えがたく清潔に光った。まなざしから燃えうつる銀色の火事を領土として、光年の氷河を書き換える。彼我の境界の焦土でわたしたちはようやく繭の輪郭を陶

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ハイウェイ

ハイウェイ

うつくしい骨格に燃えうつる音読。なめらかに炎は流れて、ハイウェイ、あなたはそこにはいない。はばたきで肉はかき消えて、水晶質のからだが現れる。冷たい炎に潮が満ちるから、誰の体温もいらなかった。

夕暮れに天国はない。うたごえであなたが渚だったことを思い出す。暗幕に装置が映像を流しはじめるけれど、からだのないあなたも、わたしも、水子みたいに揺れている。どこにも行けないね? わたしたちはここにいる。遺構

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