マースクのコンテナ船を見に行きました
2024年4月5日、ALL THE WAY TO ZERO、デンマークを本拠地とする世界シェアNo.1を誇るMAERSK社が計画する脱炭素社会への一手、メタノール炊きエンジンを搭載するコンテナ船のお披露目式がありました。こちらのレポートをしていきたいと思います。
私はコンテナ船のフォアマン、プランナー経験があります。また航海士の資格も持っており、どちらの視点でも本船を確認して行こうと思います。
イベントの概要
私が知る限り、コンテナ船の一般公開は聞いたことが無く、この企画を知った時、何としても訪問したいという想いがありました。
内容は横浜港の大黒旅客ターミナルに本船接岸し、一般公開するものです。旅客ターミナルへの接岸もコンテナ船では異例です。
多くの人にアクセスし易い様にとの配慮でしょう。
予約はオンラインのサイトから行いました。
コンテナを手配のようにbooking confirmationが発行されました。海運業界の方は微笑んでしまいますね。
そしてアクセスが悪い大黒ターミナルへは山下埠頭からシャトルバスが用意されました。こういう配慮は嬉しいですね。
船名:ASTRID MAERSK
一般公開前に行われた命名式では日産自動車社長夫人が命名を行いました。
ASTRID: ノルド語から来た女性の名前で、古高ドイツ語のAnsitrudaと同根語です。これはansi「神」(Aesir(アース神族)を参照)とtrut「愛しい、親しい」という意味から成っています。
船の概要は以下の通りです。
本船名: ASTRID MAERSK
船籍:デンマーク
総トン数:167,090G/T
最大コンテナ積載数:16,200TEU
全長: 349.2m
船幅:53.5m
世界最大級とまではいきませんが、相当大きく圧巻です。
乗船!
いざ、乗船です。まず見学者を迎えたのは巨大な階段タワーです!
皆さん怖い!との声が漏れ聞こえます…高さ11回ほどの高さをグラグラの階段を登るのですが、通常のギャングウェイラダーはもっと不安定ですので、安全にはかなり考慮したようです。
最後は吊り橋状態ですので中々のアトラクションでした。乗船時には”Wish your welcome aboard!”と言うのが慣例なのですが思わず忘れてました汗
船内の各所にオフィサー、エンジニアが配置されていて説明をしてくれます。皆さん興味深々で時間かなり推してしまいます。
圧巻のGAそしてデッキも広大で私が荷役した事のある船より遥かに大きくて中々船尾に辿り着けません…。
船内もデジタル化されて先進的です。
これは!?と思ったもの タンク残量の管理は基本ですがこれだけデジタル化されてても必要なのか?そしてこの数は苦行…。
これの方が信頼性高いのでしょう。分かりやすいというのはあると思いますけど… プリントアウトしたら良くない?とも思ってしまいます。
ship officeは一等航海士とフォアマンの戦いの場です。積み付けやラッシングプランについて議論します。
そして船内プールです。私が荷役した事ある大型船でプールが付いていない船は無かったくらいの装着率です
これは長い航海が船乗りにとって如何に辛いものかを表してると思います。
そして説明の時は寒かったですが洋上の赤道付近だと海に飛び込みたくなるくらいの暑さです
やはりプールは大型船には必須の装備と言えるでしょう。
写真撮れてなかったのですが、この手前は水たまりのエリアでした。
ここにはキャンプやビーチで使うような寝そべるチェアやテーブルが配置されバカンス気分を味わうのが一般的です。
日焼けを楽しむ方もいますね。
ビールが欠かせないところですが、この船の方は禁酒との事でソフトドリンクで健康的にリフレッシュするようです。
そして特徴的なデッキの紫のペイントはこの下にメタノールが積載されている事を示しています。災害時の目印になっているそうです。
圧巻のギアボックス16,000TEU × 4unit =64,000unit以上のコンテナとコンテナを接続するツイストロックが積載されている筈です。これのメンテナンスも大変そうです。
荷役の時にギアボックス見つからない事件発生で何度か探し回った事ありますが、この船だとウォーリーを探せ状態で大変そうです。
外観も巨大で船尾が見えません。コンテナゼロですので喫水が高いです。
極端なオモテブリッジも特徴的ですが、これにより積載効率を上げているとの事です。
後方視界は悪くても、この大きさだと最早、見えなくても一緒なのかもしれません。
船橋の配置について
船の特徴として、オモテブリッジの配置で積載効率を上げているとの説明がありました。
では何故積載効率が良くなるのか?
写真を見ての通り船首部分は海水を切り裂くためどの船も尖っています。
そのため船首の船倉は必然的に狭くなります。この上にブリッジを配置する事で船倉のコンテナ積載のデッドスペースを減らせる訳です。
更にトモのブリッジの場合には視界を確保するためオモテのデッキ上のコンテナ積載には高さ制限をするのが一般的でこれも不用になるメリットもあります。
ただ船尾のエンジンルームが無くなる訳ではありませんし、排気のためのファンネルも必要で効率が格段にいいという訳ではありません。
もう一つのメリットはメタノールの万が一の漏洩などに対して居住区が遠いためリスク低減の効果もあると思います。
その分配線、配管が増えるためコスト増もありますし、荒天時に波を受けやすいという課題もあります。やはり一長一短の配置ではありますが安全性と積載効率を重視したと思われます。
操船上の問題(後ろが見えない)については着岸はタグボートでの接岸が基本になる筈です。そこは割り切っていると思います。
また乗り心地については船は前後方向に重心位置を中心に上下に揺れます。前に居住区があるとあれば上下に揺れるので船酔いする人にはかなり辛いというデメリットもあります。とは言えこの大きさですので、そこまで気にならないのかもしれません。
Xのポストはこちらです。ご参考まで。
ALL THE WAY TO ZERO
このキャッチフレーズが船体にも描かれていて肝入りの脱炭素プロジェクトだと伺えます。
今回の目玉は燃料にメタノールを使用する点です。「メタノール炊き」とも呼ばれています。
従来の重油ではなくメタノールを燃焼させるエンジンなのです。
メタノール燃料には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
メリット
低公害
再生可能エネルギーから製造
貯蔵と輸送の容易さ
高いエネルギー効率
以下は一般的な参考値です。
デメリット
毒性
コスト
新たなインフラ導入
エネルギー収支
特にコストについては同じ熱量を発生させるのに倍以上の燃料消費が必要になりコスト悪化は避けられません。同じ熱量(1 GJ)を得るために必要なメタノールと重油の燃焼によって、それぞれ以下の二酸化炭素が排出されます。削減率は▲19%と思っているより改善幅は小さいとも見えます。
1GJあたりの二酸化炭素を排出量
・メタノール:約 60.6 kg /GJ
・重油:約 74.2 kg /GJ
それでも従来の化石燃料では削減出来ないCO2の排出を減らせるとして現実的な脱炭素の解決策としてメタノール燃料が選ばれています。様々な問題を解決して今後普及していくのではないかと思います。
まとめ
メタノールのハンドリングはまだこれから決めていくことが多いと思います。これはリスクが大きい筈です。
それでも敢えてこの新しい燃料を選んだ決断力と実行力がマースクの競争力の源泉なのかなと感じました。
この取り組みが脱炭素社会への大きな1歩となる事を期待しています!
そしてこの様な素晴らしい見学会を開催してくれたマースク社に感謝と敬意を表したいと思います。ありがとうございました!!!
今回はここまで。
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