今までに三度あった入院の体験が、私の中では、大切な時間として記憶されている。おかしいのだけれど、それは甘美な感じさえする。
静かに自分と向き合った、朝焼けの時間。
窓からの陽の光の中、愛しく思った自分の体。
優しく自分の体に触れた指先の感触。
夜の電子機器の音。
真夜中、眠らない看護師の足音の安心感。
あの場所で起きていたことを、もう一度理解しなおそうとしてきた。
凛とした夜明けの空気を思い出そうとしていた。
私があの時に死を見つめていた気持ちを、そして、その後の私の気持ちを言い当てているかもしれない、看護師の言葉があったので、引用してそのまま書きたい。
そう、私が私であり続けようとした時間。
死を目の前にして、私が最後の時間にどうありたいのかを見つめ続けた時間。私は私だけを見つめていた。私は私を大切に感じていた。自分がひとつになっている気がした。
その時間が、透明で、清らかで、甘美なのかもしれない。
今、私がしようとしているのは、私の生きざまと死にざまを見てもらうこと。
私は、私を主人公にして酔い私を語ることで、私を生き、自分を保ち、私を終わらせようとしているのかもしれない。
そして、望むなら、それをそばで誰かに見ていてほしい。
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書名:『看護婦だからできること』宮子あずさ リヨン社 1993
Ⓒ青海 陽 2019