見出し画像

私が人前に立ち、自らの難病を話す理由<その13>参加・予後

再び元の講座の流れに戻ります。
これまで、私が依頼を受けて行っている、企業の障害者雇用担当者を対象とした研修のお話をしてきました。
障害者を先入観で一括りにしてしまうと、その像が薄っぺらくなってしまいます。そこで講座では、背景にある受障(発症)から今日までの経過と今後を、時間軸に沿って想像してみて欲しいという話をしています。そして、私の自らの経過や、障害のある者として生活する中での思い等を話しています。

時間軸に沿って掴む際に、トップ画像の図中、①その人が「障害」となった時②それ以降のリハビリ歴③現在の活動・参加状況④予後の4つの時期に分けると理解しやすい、と提案しています。

そしてこれまで、②「リハビリ歴」まで話を進めてきました。

これまでの記事からわかりますように、リハビリ歴の中には、その人のパーソナリティ形成に影響を与えるような、とても大きな要素が含まれています。このプロセスで積み上がる固有のノウハウや力こそが、人の豊かな多様性として、周囲に相互作用をもたらすと考えます。
「障害や難病がある人の、決してマイナスではない価値がそこにある」、これがこの連載記事の核心部分です。
今回と次回で、やや速度を上げて、「活動・参加」と「予後」についてお話しして、この連載を終わりにしたいと思います。


🔹最新の「障害」の考え方
上の図は「ICF国際生活機能分類]と呼ばれる、現在の「障害」をとらえる考え方、いわば世界のスタンダードです。
ごく簡単にこれを説明します。

人は「変調や疾病」があると、「心身機能や構造」に影響が生じます。

この概念が提唱される前までは、障害者は「回復のためにリハビリをする」と考えられていました(この考え方は『医学モデル』と呼ばれています)。
しかし、何らかの心身機能・構造に変調の影響を残しているのが「障害」です。リハビリによっても変わらない影響が残ります。その結果、障害者は心身に残る影響により、社会参加にある程度の制限が加わることもやむを得ない、と考えられてきました。

一方、この新しい概念では、本人の心身機能・構造に関わらず、その人の背景に適切な因子(環境など)があれば、その人は活動も参加もできると考えます(この考え方を『社会モデル』と呼びます)。すなわち、その人が参加場面で「障害者」となるかは、環境如何によって変わるということです。

例えば…
近視の人がここにいます。その人は障害者でしょうか?現代社会では、障害者ではありません。なぜなら、今は眼鏡やコンタクトレンズという環境があり、それによって生活に支障がない程度まで見えるからです。
これが、鎌倉時代であれば、その人は充分に見えないため、生活のある部分では障害者だったと言えます。

このように、環境が活動・参加を左右するため、「社会の中に障害を障害たらしめない環境を作ろう」というのが、バリアフリーやユニバーサルデザインの考え方であり、これが近年では「合理的配慮」とも呼ばれています。

このような考え方に基づいて、社会のあらゆる場面に、個々に応じた「眼鏡」にあたる環境を作ることが進められています。
障害者雇用においては、障害者が一般の職場に適応できるリハビリを行うだけでなく、もう一方で職場環境の調整が必要となります。
この環境調整が就業先に求められますが、会社等が単独でこれを進めるには、障害や必要な配慮等についての知見が不足しています。そのために、就労支援の専門機関が活用されます。このような講座も、障害理解促進と、環境調整の取り組みの一つです。

🔹活動・参加状況を視野に入れる
障害者雇用を進める際には、しばしば(上の図の)「心身の変調・疾病」「心身機能・構造」のみが注目されてきました。障害者雇用ですから、障害の特徴と配慮を把握するのは当然と言えますが、活動、参加には焦点が当たってはいません。
本当は、活動・参加状況を知らなければ、その人のリアルなイメージをつかむことは難しいのです。

例えば、寝たきりの最重度であっても、様々なツールや機器や人的サービスや支援などを活用して障害を補完して、活動・参加ができます。
活動や参加は、就労や対面での社会参加に限定されるものではありません。自宅で家事をしたり、必要な支援を受けながら育児をすることも活動です。ネット上のコミュニティとのかかわり等も、参加といえます。

近年は、就職面接では個人の生活や指向を訊ねるのを避ける傾向にあります。これが、障害者像を見えにくくする一因となっているのではないでしょうか。次の項目でこのことをお話しします。

オリヒメの操縦により喫茶店で就労しているのは、在宅の重度身体障害者
Ⓒ吉藤オリィ

🔹障害者雇用の就職面接
厚生労働省は、公正な採用選考の基本として、面接で聞くべきでない11項目を挙げています。基本的な考え方は、応募者の「基本的人権の尊重」と、「応募者の適性と能力のみを選考の基準とする」とされています。したがって、「本人に責任のない事項(出生、家族、家庭環境等)」や、「本来自由であるべき思想、信条(宗教、支持政党、思想、尊敬する人物等)」を聞き、候補者の選考時に考慮することが、法律で禁止されています。
この自由であるべき思想信条の例として、「人生観」「生活信条」「個人的なものの考え方」等が明記されているため、面接では個人の考え方を聞くのを避ける傾向にあります。

一方で、労働安全衛生法では、職務遂行上、合理的、客観的に必要な範囲であれば、配慮検討の目的で、応募者の既往歴を聞くことができるとされています。
障害者雇用の就職面接では、これと同様の目的で、障害について具体的に聞いて構わないと考えられます。むしろ「障害者」の雇用であるため、障害状況(業務に制約があること、配慮が必要なこと、制約を受けておらず最も力を発揮できること等)は、聞く必要があると、私は考えます。

その上で、これは一般には言われていませんが、その人が仕事上発揮できる力や可能性を知る目的では、応募の障害者が「どのように社会と関わり、活動できているのか」は訊いて構わないと、私は思うのです。
一般社会において障害者に「できない」という先入観があり、また曖昧な「障害者」という固定観念が強いからこそ、敢えて聞き、イメージを深める必要があると思います。

もしこれらを企業が聞くのが難しいのであれば、障害者の側から積極的に伝えることを勧めます。
従来の履歴書と職務経歴書に加え、障害者等は、自分が積み上げて来た固有の能力を整理して企業に伝えることが、今後は必要になると考えます。そこに、障害者や難病者が独自に持つ可能性があるのだと思います。(このテーマは、今後さらに深めていきたいと思います)
企業が、障害や難病のある人のポテンシャルを活用できれば、今後の新しい障害者雇用が拓けると思います。

これまでは、障害状態に合わせた業務の切り出しにより、個々の特徴に合わせて業務を組み替え、チーム成果に貢献できる方法等で、障害者雇用が進められてきました。
今後は、既存の「効率性」とは異なる価値を見出しての雇用が、検討されるようになると思います。企業のミッションや社是との整合性の中に障害者雇用が位置づけられれば、障害者雇用はその企業に永続的に価値のあるものになります。


🔹ダイバーシティを描く
実は、障害者雇用は、これまで下記のような過程を経て変化してきました。

🔹義務または社会貢献の段階
当初は、義務的に、または社会貢献的に、障害者雇用を位置づける企業が多くありました。

🔹効率性
その後、社会情勢が厳しくなり、障害者にも業務への貢献が求められるようになってきました。この要請に対して、企業内または部署内で、障害者等の特性に合わせた業務の切り出し(業務の分解と再構成)を行い、障害者のできる業務の専従により、チームの効率に貢献するという方法等も採られるようになりました。

🔹数値化されにくい価値
その後、多くの企業で障害者雇用が進む中、障害者が周囲に作用し、周囲が障害者に作用しながら、部署内ひいては企業内に、数値化されないチーム感や雰囲気が醸成される企業が、散見されるようになりました。
障害者が入ってから、部署の雰囲気が良くなった、活気が出た、という事例が見られるようになりました。これをコア・コンピタンスとして蓄積している企業があります。このあり方が、現障害者雇用が目指す最終的な姿なのだと思います。
そして多くの場合、実現の過程で、支援機関がつなぎ役を担っています。就労支援の専門職が、障害者のリハビリだけでなく、就業環境の調整を担う所以がここにあります。

🔹ダイバーシティ
上記の就業場所での相互作用が自然にあるこそ姿が、ダイバーシティだと思います。ダイバーシティを具現化できた企業は、最終的には一番強いと思います。

🔴まとめ🔴
障害者等にとって、働くこと、働けることの意味は、とても大きいと思います。それは、制約を受けている分、自らが社会に参加し貢献できる意味が、健常者以上に大きいからだと思います。
「私にとって働けることとは?」この質問を企業ができないのであれば、障害者自身が自らに問い、企業に語ってはいかがでしょうか。


文・図:©2023 青海 陽

←前の記事<その12>へ

次の記事<その14>へ→

🌸 次回の更新は4月7日(金)です 🌸
🌻毎週金曜日更新🌻


読んでいただき、ありがとうございます!☺ かつての私のように途方に暮れている難病や心筋梗塞の人の道しるべになればと、書き始めました。 始めたら、闘病記のほかにも書きたいことがたくさん生まれてきました。 「マガジン」から入ると、テーマ別に読めます(ぜんぶ無料です)🍀