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私が人前に立ち、自らの難病を話す理由<その14> 予後、そしてすぐ先につくる未来

私が講師を引き受けている、企業の障害者雇用担当者を対象にした講座の話の最終回です。
実際の講座では、ここまでが最初のセクションです。私の例を使って障害や障害者のイメージを深めた上で、2番目のセクションでは、採用活動の流れに沿って、障害者の就業環境調整の手順と、支援機関の活用方法を話しています。そして、最後のセクションで、支援機関における障害者のリハビリとアセスメントおよび環境調整の機能を話しています。
しかし、この記事でそこまでを書いてしまうと、読者を置き去りにしてしまいそうなので、障害者像を深めるセクションで終わりにしたいと思います。
今回の最後話は、障害者や難病者の時間軸の④の部分「予後」です。今回も、あくまで障害者雇用との関連に絞ってお話しします。
※本文中、障害者、難病者、難治性の疾病を持つ者などを、「障害者等」と表しています。


🔹予後
障害者等の採用にあたって、企業の採用担当者がしばしば気にするのが「状態の安定性」です。「安定性」は、障害や難病の「予後」と読み替えで良いでしょう。
企業にとって、障害者等は未知の存在のため、漠然と「状態が不安定なのでは?」と捉えられがちです。
実際には、状態の安定性は、いくつかのパターンに分けられます。また、不安定性の原因は、心身の変調(病気等)に起因するものと、就業環境に起因するものがあるといえます。この両方について、この後お話ししていきます。

🔹予後のパターンの視点
予後は大きく分けると、以下のようになります。
①ゆっくりと好転
②安定
③状態像に波
④徐々に悪化
⑤急激に悪化

①ゆっくりと好転
障害者手帳取得の際の診断では、障害を「症状固定」と規定しています。障害は治癒するものではあり得ませんので、「障害の好転」という言い方は、本来はおかしいのです。しかし実際には、長期的に見ると状態像の好転があります。それは以下のような場合です。
ア.疾病起因の寛解
難病や精神科疾患等のような疾病に起因する障害の場合、寛解状態による好転があり得ます。
イ.リハビリ等による変化
リハビリにより、代償機能(代わりの方法)を習得して、生活上の支障が軽減される場合があります。
ウ.環境起因の好転
環境が個々の障害者等に合っている場合や、周囲に適切な配慮がある場合に、生活上の支障が軽減されたり、状態が好転することがあります。

②安定
現状を維持できている状態です。①の好転に至らずとも、現状を維持できている状態です。
難病や精神科疾患等で、「寛解」と言われる状態です。根治治療には至らないまでも、服薬等によって生活の状態像が保たれている状態です。
また多くの身体障害、知的障害等では、状態が安定しています。
一方、知的障害や発達障害で不安定な場合には、環境が本人に合っていない場合が多くあります。

③状態像に波がある
いわゆる「不安定」とされる状態です。「不安定」はマイナス印象を持たれがちです。しかし、不安定イコール就業不可能ではありません。不安定は障害者等の体調の波であり、そのパターンが見えると、理解して見通しを立てやすくなります。

ア.波がありながら、長期的に好転している
精神科疾患がこの経過をたどることが多くあります。短期的にはアップダウンがありますが、小さな波を描きつつ、長期的には回復していく場合が多くあります。精神科疾患は不安定さにより敬遠されがちですが、短期の波に目を奪われない方がよいです。一方、本人または支援者は、体調の波の要因、スパン、対処策を説明できることが期待されます。
イ.波の振れ幅
波の有無よりも、不調の波が社会生活に破綻を来さない範囲に収まるかが、就業のポイントになります。
「体調不良でも、仕事をしながら何とか凌げる」という状態像があります。
不調に気づき、早めの対処方法を見出せているかどうか。服薬や休みを取ることによって対処できるのであれば、就業を継続できます。

また、不調の状態や対応策と見通し等を、職場に説明できるかどうかも就業継続には大切な鍵となります。
リハビリには、この「自己理解と周囲への説明」という重要な意味が含まれているのは、以前の記事で書いたとおりです。説明が不得手な障害者であれば、支援者がその特徴や状態を説明できれば良いです。

ウ.新たなパターン
悪化して職場を離脱し、回復して復帰するようなパターンがあります。「休職・復職」はこれに含まれますが、もっと短いスパンで状態が変化するケースがあります。難病等でこの事例が多くあります。
これまでは「離脱」は離職を意味していましたが、多くの難病や難治性疾患者の存在と、労働人口減少下では、このパターンをどのように受け止め、活用するかが、問われてくると思います。このことは最後に述べます。

④緩徐に悪化
進行性の疾病等では、状態像が少しずつ悪くなっていく場合があります。網膜色素変性症や筋ジストロフィー症等がよく知られています。この場合には、どのような予後が予測できるかと、それを見越した就業環境が作れるかどうかが課題になります。

⑤急激に悪化
障害者雇用の対象でいえば、HIVなどがこれにあたります。現在はHIVは服薬治療によって、予後が劇的に改善してきました。ただ、日和見感染しAIDSとなった場合には、急激な悪化があり得ます。疾病に類するものがほとんどですが、このような予後を描くものもあります。
また、難病では症状が悪化するもの、再燃するもの、重篤な合併症の発症により状態像が急に悪化するものもあります。

⑥在職中の体調悪化と復職
在職中に、脳血管障害や労働災害等によって、休職を余儀なくされる場合があります。元の職場への復職が困難な場合には、配置転換により復職する事例が多くあります。

障害者は理解が難しい不安定な存在ではなく、「原疾患」があるため、その状態に応じた「予後」があるというイメージでつかむと、わかりやすいと思います。
さらに、環境如何によって、状態像の好転・悪化があり得ます。

☘ 私の場合 ☘
これまでお話ししてきた時間軸の流れに沿えば、
私は…
①発症(受障)は人生半ば
②リハビリ歴は入院中から生活リハビリをずっと継続中
③現在の状態は再燃は数回あったものの一応寛解
④休職後に配置転換で復職
⑤予後は現在は不明だが寛解維持が希望
 数年前に合併症として心筋梗塞を発症
 さらなる合併症や症状の再燃もあり得るが
 予測はできない



すぐ先につくる未来

🔵 おわりに 🔵

🔸共生社会を実現するために
前回のお話にも書きましたように、目指すところは共生社会であり、具体的には多様な人を包摂することです。これは社会貢献ではなく、企業の社会的な存在意義に照らした時に、企業原理に適うものであるはずです。
しかし、いまだに、一般社会と障害者や難病者には大きな距離があり、障害者等は、正確な姿で社会にとらえられていない現状があります。
この現状に対して、自然に理解が進むのを待つのではなく、専門職ひいては当事者は、障害や難治性の病気を、一般社会にわかりやすく伝えていく必要があるのだと思います。

🔸難病者の就労という社会的な課題
また、雇用に関していえば、難病者はいまだ困難な状況にあります。なぜなら、障害者雇用率にカウントされるのは、身体、知的、精神障害いずれかの障害者手帳を持つ者に限定されているからです。手帳を取得できない難病者は、障害者雇用にカウントされません。
これまで、日本での障害者雇用が進んだ要因は、障害者雇用促進法における障害者雇用率制度(未達成の場合の納付金と企業名公表という社会的制裁)であることは、まぎれもない事実でした。

難病分野では、この問題にどう対処するかが、今後の最大のテーマだと思います。
具体的には、以下のようなアクションが考えられます。
①雇用率制度に難病者を組み入れるアクションをどう起こすか
②難病者の強みをどのように見出しアピールしていくか
③難病者の状態像に合った働き方を企業にどう提案できるか、たとえば一時的な悪化後の復職は、すでに業務を習得しているため、企業に不利ではない
④難病者を多様性の一つとして包摂できるミッションを企業にどう描いてもらえるか

障害者雇用を義務として進める中で、その意義に気づき、企業のミッションに多様性を組み入れて再構築する企業が現れるようになりました。
日本は、多民族や多宗教等の国々と比較すると、多様性を包容する文化的な土壌が、歴史の中で根付いていません。多様性を包摂する社会は、これから形作られるのが現実です。

でも、私たちには時間がありません。今、行動を起こさなければ、間に合わないのです。今、私たちを取り巻く環境を変えなければ、意味がないのです。
今の時代の中で十数年をかけて積み上げてきた専門性が、私にはあります。これを生かして、誰かの力になりたい、社会を変えたいと思います。

専門職である私が当事者となったことの意味は、ここにあるのではないか、そうやって私の命は最大限生かせるのではないか、そう思います。


文・写真:©2023 青海 陽

🍀 お礼 🍀
この連載はこれで終わります。3か月以上にわたり読んでいただき、ありがとうございました。
試行錯誤しながらリアルタイムに書き進めていたため、テーマが横道にそれることがありました点は、申し訳ありませんでした。
今後、本稿を基礎に、更に深めて発展させていきたいと思います。

お読みになってのご感想やご意見がありましたら、ぜひともご連絡ください。

🌻 次回の更新は4月14日(金)です 🌻
< 毎週金曜日更新 >
次回からは新しいテーマで再スタート❣

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読んでいただき、ありがとうございます!☺ かつての私のように途方に暮れている難病や心筋梗塞の人の道しるべになればと、書き始めました。 始めたら、闘病記のほかにも書きたいことがたくさん生まれてきました。 「マガジン」から入ると、テーマ別に読めます(ぜんぶ無料です)🍀