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湯剥きする女

新しい家に引っ越してきて早二週間ほどが経過したのだがあまりの快適さに外に出るのが億劫になってしまっている。

何より私にとって快適なのがキッチンだ。
今までのワンルームのキッチンは窮屈で料理の幅が広がらなかった。それが新居のキッチンは広々としたカウンターと沢山の収納スペース、4つのガスコンロにどの場所に立っても手元を照らしてくれる明るいライト、そして大きな冷蔵庫。99.5%自炊生活の私にはありがたすぎる設備である。

そんなこんなで自炊へのモチベーションに溢れている私は、近所のスーパーで安くなっている夏野菜を購入してきていわゆる作り置きおかずというものを作ることにした。

私の定番の夏の作り置きメニューといえば「野菜の煮浸し」だ。実家でもよく母が作っていて晩御飯のおかずが一品足りないときにこの煮浸しの存在が食卓を鮮やかにしてくれる。

(無印良品のバターチキンカレーと野菜の煮浸しでお昼ご飯)

レシピも、素揚げした野菜を出汁に入れて冷蔵庫で冷やすという簡単なものなので作りやすい。野菜を漬ける出汁は和風はもちろんコンソメで洋風にしてもいいし、すこしアレンジを加えて南蛮漬けにしたり、バラエティ豊富で飽きずに楽しめる。

早速買ってきた野菜達を食べやすいサイズに切って、フライパン総動員で火を通す作業を行う。本来は素揚げするのだが油の処理が面倒なので、少量の油でじっくり火を通して柔らかくする作戦を実行した。
今回選抜された野菜メンバーは定番のなす、爽やかなズッキーニ、甘味の黄色パプリカ、可愛さのミニトマトだ。
なすは少量のサラダ油をひいたフライパンに並べて少しずつ上から油を足していく。こうすることで油を吸いすぎないし油がはねることもない。ズッキーニも少量の油でじっくりと焦げ目がつくまで炒める。パプリカはある程度弱火で炒めたら、少しだけ水を入れて蓋をして蒸し焼きにする。こうすることで甘味が格段に上がるのだ。

そして最後のミニトマト。こいつは火を通さずに「湯剥き」をする。

この湯剥きの作業が地味に面倒である。沸かした熱湯にミニトマトを入れて皮が剥がれてきたら氷水につけてひとつひとつ皮を取り除く、この作業は時間もかかるし洗い物も増えるのでなかなかやる気が起きないのだ。
今まではその面倒さから湯剥きをせずに、出来た出汁のなかで少しだけ煮込んで皮が剥がれかけの状態で煮浸しにしていた。皮の食感は少し気になるが、味は大して変わらない。

しかし、新しい快適なキッチンになって自炊へのモチベーションも上がっている私、今回はあれだけ面倒に思っていたミニトマトの湯剥きをすることに。

弱火で火を通し続けているパプリカに気を使いつつ、湯を沸かした鍋にミニトマト達を投入して皮が剥がれ始めるまで待つ。皮が割れ始めたのを確認したら素早く冷水につけてひとつひとつ丁寧に皮を取っていく。小さい実を潰して種や汁が出てこないように注意をしながら作業を進める。
ようやく20個ほどのミニトマトの湯剥きを終えて、用意した出汁にトマト達を入れ、少しだけ煮込んだら保存用のタッパーにそれぞれ出汁と一緒に入れて冷めるのを待つ。

簡単な煮浸しといっても、作り置きで沢山作るとなると結構疲れた。しかしこの苦労で数日間は食卓に彩り豊かな野菜を置くことが出来る。

そして数時間後、すっかり冷えた煮浸しを味見することに。なすは安定の染み具合、ズッキーニは食感を残してて程よく出汁に浸かっていてパプリカは野菜の甘さと出汁がよく合う。
そして湯剥きしたミニトマトたちも味見する。ず見た目からして、普段の皮つきのトマトとは違って割れた皮がついていないので見た目がとてもいい。そして味も全く違う、よく味が中まで染みているし何より皮の食感が邪魔しないのでスッキリしている。
湯剥きして大正解だった。

たった10分程度の湯剥きの手間を省いていた自分が情けない、湯剥きするだけでこんなにミニトマトの煮浸しのレベルは上がるというのに!

よく冷えた煮浸しを食べながら、私はこの夏から湯剥きの手間を惜しまないような人間になろうと思った。

煮浸しの話だけでない。私は今までの人生、湯剥きのような小さな手間を惜しんで損してきた部分があったのではないだろうか。ほんの少しの手間をかけることで圧倒的に美味しくなれるのに。
結果的に損をしてその結果で満腹になるのではなく、最初から愛情込めて手間をかけて美味しいもので満腹になりたい。

ミニトマトの煮浸しが今年の夏の目標を私に与えてくれた。

この出汁の煮浸しを食べ終えたら次は洋風のコンソメだしに漬けることにしよう。

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