外国語を喋るまで
私がイタリアに来てからもうすぐ3年が経つ。
こっちの学校を受験しに来た時は、正直ほとんどイタリア人との会話が成り立たなかった。
イタリアへ留学すると決めたのが高校3年生の夏頃で、そこから学校の勉強を完全に放棄してイタリア語の勉強を始めた。
しかし、私という人間は勉強が大嫌いなのだ。
机に向かって文法をひたすら覚えて問題を解いてという基本的な作業が死ぬほど面倒だった。
それでもなんとか一年で最低限の文法を勉強して、ビザ取得のために必要な試験にも合格。
そして高校を卒業した年の夏、イタリアまで入学試験を受けに行った。
ここからが試練の始まり、現地に着いたらすぐに試験の手続きをしなくてはならない。もちろんイタリア語で(英語は全く喋れないし)。アパートを借りるので大家とも喋る必要があるし、着いて早速かなりの作業が待ち受けていた。
ここで私は自分のイタリア語力の乏しさに愕然とした。
言いたいことが口から出てこない、相手が何を言ってるか全然理解できない。
一年間日本で適当に机に向かっていた時間など、全くの無意味だったように感じられたのだ。
これじゃ試験に受かる訳がない、もう一年勉強して来年頑張ろう、と思ってダメ元で試験を受けた。
結果、合格
右も左もわからない私を何故か学校は受け入れてくれた。
無事に入学出来て嬉しかった反面、試験のための数日間で自分の出来なさを思い知らされた私はこれからのイタリアでの本格的な生活がかなり不安だった。
学校での授業が始まる前に再度勉強もしたが、それでも最初の授業はさっぱりわからない。
イタリア人の授業のペースについていけないし、疲れて脳みそが動かないので黒板に書かれる文字も「外国語」としか認識出来ないのだ。
そんな危機的状況で助けてくれたのは、同じ授業を受けているイタリア人達だった。
そもそも私の通っているバロック科は日本人はもちろん、東洋人も私ひとりだけだ。それに、イタリアの音楽大学は他に学校を卒業してから入ってくる人も多くて、19歳の私は断トツで年下だったので周りの大人たちに可愛がられるポジションをゲットしたのだ。
言葉がわからなくても、この立場だと皆が超低レベルな会話を展開してくれるので少しずつ語学に慣れることが出来た。
少しずつコミュニケーションがとれるようになると、私の性格上、もっとイタリア人とお喋りしたい欲が沸いてきた。ここでは勉強した知識は翌日からすぐに周りのイタリア人との会話で活用することができる。日本にいた頃のように机に向かって試験のために勉強するのとは全くモチベーションが違う。
最初に自分の語学の成長を感じたのは、イタリア語を喋る時に日本語で考えなくなった時。日常会話をする時にいちいち日本語をイタリア語に脳内で変換なんてしてると周りの会話のペースに全くついていけない。
慣れてくると、文法なんか考えるのが煩わしくなる。まあ、ここまで慣れるのに結構時間はかかるが…
イタリア語と日本語を完全に分けて考えるのが大切なのだ。
一番難しかったのは日本の友達がイタリアに来たとき、イタリア人と日本人の間で通訳をすることだった。
普段、分けて考えているふたつの言語を同時に考えて相手に伝えるのだが、かなり頭がこんがらがった。
後は、イタリア語で映画やドラマを理解出来るようになったこと。
これも特別に勉強した訳ではない。何も考えずにテレビを見ているとき、「そういえば私イタリア語でストーリーを理解出来てるなぁ」とふと気がついた。
もちろんわからない単語や文も出てくるが、そこでいちいち戸惑うことなく自分のわかる範囲からそのわからないポイントを補って理解出来るようになっていたのだ。
これはなかなかの成長だと思う。
ただ勘違いしないでほしいのは、「私はイタリア語ペラペラです」って話をしているんじゃないってこと。
わたしは、この3年でどうやってイタリア語を喋るかを学んだだけなのだ。
もちろん文法も勉強したが、いま文法の試験をしてもいい点数を取れる自信がない…
日本でずっと机に向かって文法の勉強をしていたら試験ではいい点を取れるかもしれないが、きっと喋ることは難しいだろう。
「喋る」能力を身につけるためには、現地でその言葉を喋る人達と会話をして「リズム」をつかむことが大切だと思う。会話のテンポやイントネーション、イタリア語は特にリズム感が大切な言語だろう、それを机で勉強することは出来ない。
そうして、たくさん失敗を積み重ねて失敗を恐れないようになる。
そうすると、会話をすることが楽しくなり、聞いて理解する能力も身に付く。
私が思うに、外国語を喋るためには「勉強」よりも「慣れる」ことが大事。
もちろん現地で働かないといけないような場合は完璧な語学が求められるが、そうでない場合は勉強することよりも、慣れることを重視するとコミュニケーション能力は上がると思う。
まだまだ私のイタリア語を習得するための道のりは果てしないが、自分のペースで現地での生活を楽しみながら学んでいきたいと思う。
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