あの青年たちのことを忘れるな 【口移しサドル】

「おばあちゃん。あの話をまた聞きたいよ」

あぁ、口移しサドルの話か。
今は「サドル」なんて言ってるが、簡素な木の台に取り付けた鞍のことだ。

あの恐ろしい鞍付きの台はね、生贄いけにえを縛り付けておくものだったんだ。

当時生贄にされたのは若い青年で、干害に苦しむ人々は、働き手となる若い男を捧げてしまうほどに追い詰められていたのさ。

残酷なのは、生贄に聖水を口移しで与えるのは、生贄である青年の恋人の役目だったことだ。
最後の触れ合いに口移しで飲ませた水が、やがて生贄が垂れ流す尿となり、その尿を吸った土を耕して祈りを捧げたんだよ…。

「恐ろしい悪行だね。青年がかわいそう…」

やがて時は経ち、豊かな土壌に再び恵まれると、人々の間で生贄の話は禁句になった。

ただ、生贄にされた青年の恋人たちだけは、やり場のない悲しみにくれ、生贄の変わりに口移しサドルの場所に「かかし」を立たせた。

今でも、夜な夜なかかしの元を訪れて、かかしに口移しで水を飲ませてやる老婆が現れるのはそのためさ。

私のように…。

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今回初めて裏お題に挑戦です。
裏お題、【口移し】×【サドル】で書かせていただきました。

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