ハシビロコウに恋をした⑩
それからは、安全な距離を保ちながら橋羽さんを観察する日々を過ごした。
昼休憩になると、橋羽さんはじっと動かず、椅子に座ったまま寝ていることが多い。
「あの人が何か食べるとこ、見たことないよね」
橋羽さんの様子はパート従業員の女性たちの間で噂になっている。
ある日、部署内で数ヶ月に一度のランチミーティングが開かれた。
揃いの仕出しの弁当が支給される中、
「自分はコーヒーだけで」という橋羽さんに、私は勇気を出して尋ねた。
「あ…あの、橋羽さんは何が好きなんですか?食べ物で!」
見てる。
例の下三白眼で。
最近は少しだけ慣れてきたその目元から、私は目をそらさない。
橋羽さんはゆっくりと答える。
「川魚が好きです」
…か、川魚~!?
(続く)
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