人々を癒やす、こんな信号機があったらいいな
すてきな信号機
「昔は信号機から『いい香り』がすることはなかったのよ」
ママが笑ってそう言った時、美咲ちゃんはびっくりしました。
だって美咲ちゃんは、赤信号のときに香ってくる、このいい匂いを嗅ぐことが、何よりの楽しみなのです。
一年生になって、心細い学校までの道を楽しみに変えてくれたのも、この “いい香りのする信号機” でした。
「昔と比べて今はね、赤信号から青信号に変わるまでの、ほんの少しの時間を待てなくて、イライラしてしまう人が増えたんだって。だから信号機からいい香りを出して、みんなが幸せを感じられるようにしたんだって。」
美咲ちゃんは得意げに、なっちゃんに説明します。
「へえーそうなんだ。」
なっちゃんは、美咲ちゃんが学校に着くまでに渡る、三つ目の信号あたりでいつも一緒になるお友達です。
「そういえば、ここの信号機の香り、明日から変わるんだって!」
なっちゃんの持ってきた新情報に、今度は美咲ちゃんが驚いて声をあげます。
「へぇ!知らなかったぁ!」
企業が宣伝費を支払うと、自社製品の香りを流すことができるという仕組みを、なんとなくは知っているけれど、美咲ちゃんにとってはそんなことはどうでも良くて、ただただ明日からの香りが待ち遠しいのです。
今日でお別れになる香りを胸いっぱいに吸い込みながら、
「なっちゃんの鼻風邪、明日までに治るといいね」
美咲ちゃんが心配して言うと、
「うん!明日までにはぜーったい治すからね!」
歩きながら、なっちゃんは両手にぎゅっと力を込めました。
それじゃあ、また明日の朝、あの信号機の下で。
美咲ちゃんとなっちゃんは、靴箱の前で手を振って、それぞれの方向へ走って行きました。
【完】
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