黒猫 【青ブラ文学部応募作品】
こちらの企画に参加させていただきます。
よろしくおねがいします。
黒猫
私は黒猫を飼っている。
「飼っている」という表現が正しいか、知らない。
それは私と黒猫の間の問題であるから、今の処はこの表現のもとに成り立っている。
黒猫は、私が中学生の頃から私の躰に住み憑き、だんだんと成長した。
人嫌いの私は、自分と他人を見比べることをしないから、誰もが同じように黒猫を住まわせていると思っていた。
黒猫を育てることは、いわば必須事項で、大人になるために避けられぬ問題だと思っていた。
家猫だった黒猫は、ある時、私にできた初めての恋人に目撃されることとなった。
ミャーと鳴くわけでも、喉をゴロゴロと鳴らすわけでもなくそこに佇む黒猫に、私の男は酷く怯えた。
「おまえのことは好きだが、おまえの黒猫を好かない。頼むから、黒猫を手放してくれ」
思いがけない申し出に、私は頭を悩ませた。
「剃るべきか、剃らざるべきか。それが問題だ」
犬が散髪をすることは知っているが、猫の散髪をしたという話を聞かない。
まして、飼い主に住み憑いた猫の散髪をしてくれるところなどあるのだろうか。
あった。
『猫の散髪屋』の張り紙がある。
私の脳は、今まで無関心だったこの情報を受けとることを、ようやく許したのだろう。
至る所、猫の手放し方が宣伝されている。
そうして、長らく生活を共にしてきた黒猫は、私の元を去っていった。
黒猫が私の元を去ると同時に、黒猫を手放せと言った男が転がり込んできた。
夜な夜な男と体を合わせる時、仰向けに寝転んで開いた股の間から、黒猫が顔を出したような錯覚をして、思わず手をのばす。
懐かしい気持ちで黒猫を撫でていると、その黒い塊は、ゆっくりと頭を起こした私の男であった。
黒猫のいない寂しさを思いながら、男の満足そうな顔を見て、私は安堵する。
それでも、男との夜にはたびたび、今でも黒猫の気配を感じることがある。
きっと、家猫だった黒猫は、私の部屋の暗闇に溶け、今でも私のことを見守っているのだろう。
完
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