見出し画像

テュートリアルには効果があるか?【教育論文紹介】

福島県の医学部で学生教育をしながら、心理カウンセラーをしたり、研究をしたり、YouTubeの運営をしたりしてるあおきしゅんたろうです。

学生中心の学習法として問題解決型学習 (PBL) :テュートリアルとも呼ばれる方法があります。この方法は、学生が問題解決する方法を学び、新しい知識を応用することに取り組んでいきます。

PBLは学生の能動的な学習と問題解決スキルの開発を促進するため、伝統的な講義に基づく学習に取って代わる重要な教育法となっています。

PBLは、学生が問題を特定し、主要な概念を定義し、学習目標について話し合い、それらを調査するプロセスを通じて学ぶことを目指しています。これは小グループで行われ、教師は学生の学習を支援します。

PBLは、チューターと一緒に小グループ(通常8~10人程度)を使って指導されます。グループセッションの目的は、問題やシナリオを特定し、特定された重要な概念を定義し、ブレーンストーミングでアイデアを出し、主要な学習目標を議論し、それらを調査し、その後のセッションでお互いに情報を共有することである。チューターは、生徒が課題の学習目標に沿った行動をとれるよう、生徒を指導します。

本日はPBLについての有効性を調べた以下の論文について取り上げていきます。

PBLは医学部の学部教育や大学院教育で取り入れられているが、その有効性(学力や技能の向上という意味での)についてはまだ議論中です。

これは、講義を中心とした従来のカリキュラムとPBLを比較することが方法論的に困難であることが一因です。

無作為化比較試験や単群前後比較試験など、異なる研究デザインのエビデンスを統合するには、スコーピング・レビューという方法論が最適です。

システマティック・レビューでは、ランダム化比較試験など研究デザインを固定して行うことが多いため、さまざまな研究デザインを用いる教育分野の研究ではスコーピング・レビューを行うことが最適な可能性があります。

この研究の具体的な目的は以下のようなものでした。

1)医学教育における学力(知識の学習と保持)におけるPBLの効果を明らかにすること、2)医学教育におけるその他のスキル(社会性やコミュニケーションスキル、問題解決や自己学習)におけるPBLの効果を明らかにすること、3)PBL手法で指導した場合(家庭教師の場合は指導した場合)医学生(および/または家庭教師)が感じる満足度を知ること。

この研究ではPRISMAのスコーピングレビュー用の実施ガイドラインに沿って行われました。スコーピングレビューの枠組みは以下の 5段階です。

(1) 研究課題を特定する「学部医学における学習における PBL 方法論の有効性は何ですか?」。

(2) 関連する研究を確認する→PubMedなどを使って文献検索。

(3) 研究の選択を決定する。2,399件のうち、1) PBL 方法論が主要な研究テーマ、2) 参加者は医学生またはテューター、3) 主なアウトカムは学業成績 (学習と知識の保持) 、4) 副次的成果は次のいずれかでした: 社会的およびコミュニケーションスキル、問題解決または自己学習、および/または生徒/講師の満足度、5) 記述論文、定性的、定量的および混合研究方法、視点、意見、解説記事、論説など。 →124件の文献を抽出(論文の図1参照)

(4) データを図式化する 研究の特徴や研究デザインは論文の表1、2を参照。

(5) 結果を照合、要約、報告 以下に述べていきます。

研究の特徴 出版物のほとんどはアジア(特に中国とサウジアラビア)と北米、次いでヨーロッパからでした。

最も頻繁に行われたデザインは、調査またはアンケート ( n  = 45) と従来のまたは講義ベースの学習方法論との比較研究 (n  = 48、ランダム化されたのは 16 件のみ)でした。

最も頻繁に測定された結果は学力であり、次に学生の満足度が続きました。

学力や知識についてのPBLの効果 124件の出版物のうち71件では、学習および/または知識保持の改善が報告され、そのうちの45件が従来の学習法と比較した研究でした。ほとんどが特定の教育センターでの結果を分析していました。

研究の中で、49件がPBLの優位性を示していました。一方で、19件の研究では従来のカリキュラムとPBLカリキュラムの間に差は見られませんでした。また、PBLの効果が低いと報告した研究は3件のみで、そのうち2件がランダム化されていました。

また、4つの系統的レビューとメタ分析では、PBLが知識やその他のスキル(臨床、問題解決、自己学習など)の向上に効果的であることが示されました。

社会的コミュニケーションスキル 社会的コミュニケーションスキルに焦点を当てた5件の研究があり、すべてがPBLが学生の社会的コミュニケーションスキルの向上寄与することを示しています。学生たちは、チームワーク、コミュニケーションスキル、対人関係の観点でPBLを肯定的に評価しています。

学生の満足度 PBLに対する学生の満足度を分析した60件のうち、最も頻繁に採用された方法論はアンケート(30件)で、次いで伝統的または講義ベースの方法論との比較研究(19件、そのうち7件はランダム化)がありました。

ほぼ全ての研究(51件)ではPBLが一般的に良く受け入れられていることが示されていますが、9件の研究ではPBLプログラムに対する全体的な満足度は中立または否定的でした。

成功するためのPBLのキー要素には、少数グループ、現実的なケースのシナリオ使用、良好なグループダイナミクスの管理が含まれていることが明らかになりました。しかし、学習方法論や目標、評価方法の不明瞭な伝達、セッションの不適切な管理と組織、メソッドに対するチューターの経験の少なさ、チューターによるメソッドの実施の標準化の欠如など、批判や改善が必要な点も指摘されています。

チューターの満足度 15件の文献の結果は学生の満足度と比較して中立的で、2件の出版物ではPBLに対する評価が否定的でした。しかし、チューターへのPBL教育、マネジメントや適切なインフラとコーディネーションがある場合、チューターはPBLを好む傾向にありました。

その他 問題解決能力や自己指向型学習などのスキルについては、PBLが講義ベースの学習より効果的であることが全ての研究で示されています。

PBL方法論を実装した教育機関の経験を報告する出版物もあり、それらは従来のカリキュラムからPBLへの移行が可能であることを示しています。しかし、その一方でPBLは計画や構造化が複雑で、大量の人間・物資リソースが必要であり、大きな教員の努力が必要とされていることも指摘されています。

ディスカッションの要点は以下の通りです。

  • PBLは伝統的な教育法と比較して、知識、臨床スキル、問題解決能力、自己学習能力、満足度などにおいて優れていることが多くの研究で示された。

  • 学生の満足度は高いが、教員の満足度は低い場合がある。これは、マネジメントや教員のトレーニングが不十分だったりすることによるものと考えられる。

  • 限界点:スコーピングレビューは、研究のデザインやサンプルサイズが非常に異なるため、一部の研究を見逃している可能性がある。また、多くの研究がPBLの頻度を明記していないため、その影響を考慮していない

PBLは医学教育において有効な方法論であり、伝統的な方法よりも社会的・コミュニケーションスキル、問題解決スキル、自己学習スキルを向上させます。

また、学業成績においても劣らないか、むしろ優れていることが多い。しかし、人的資源や教員のトレーニングが必要であるため、普及していない場合もあります。

今後は、より比較的・ランダム化された研究やシステマティックレビューやメタアナリシスが必要です。

ということで本日の論文紹介でした。あおき考としては、直感的に感じていたところと同じ印象で、学生にとっては裁量度が高く、取り組みやすいのかなと思うところですが、教員としてはたしかに中立的な意見が出てきそうだなと思うところです。

こちらから見えている景色以上に、学生はしっかり取り組んでいるということを意識して、これからのテューターに取り組んでいきたいと思いました。

それでは、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

もし記事に共感していただけたら「スキ」ボタンを押してくれたらうれしいです。サポートしていただけたらもっと嬉しいです、サポートいただいたお金は全額メンタルヘルスや心理学の普及や情報発信のための予算として使用させていただきます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

筆者 あおきしゅんたろうは福島県立医科大学で大学教員をしています。大学では医療コミュニケーションについての医学教育を担当しており、臨床心理士・公認心理師として認知行動療法を専門に活動しています。この記事は、所属機関を代表する意見ではなく、あくまで僕自身の考えや研究エビデンスを基に書いています。

そのほかのあおきの発する情報はこちらから、興味がある方はぜひご覧くださいませ。

Twitter @airibugfri note以外のあおき発信情報について更新してます。
Instagram @aokishuntaro あおきのメンタルヘルスの保ち方を紹介します(福島暮らしをたまーに紹介してます)。
YouTube あおきのぼやきと見た景色を載せてます https://www.youtube.com/channel/UCIjPXbecsTqIfznCwhKGBgQ

ばっちこい心理学 心理学おたくの岩野、とあおきがみなさんにわかりやすく心理学とメンタルヘルスについてのお話をお伝えします。

YouTube

TikTok
https://www.tiktok.com/@bacchikoishinrigaku

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?