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医療コミュニケーションの変革:共有意思決定への道のり

福島県の医学部で学生教育をしながら、心理カウンセラーをしたり、研究をしたり、YouTubeの運営をしたりしてるあおきしゅんたろうです。

先日耳鼻科に行ってきました。喉の痛みと耳の聞こえなさが続いていたからです。

診断の結果、やはり扁桃炎と中耳炎でした。人が体調を崩すとき、特定の症状が出ることが多いですよね。私の場合、年に1回、喉の痛みと耳が聞こえなくなるという現象が起こります。もはやそれが疲れの風物詩のようになっています。

先生も「ああ、これは前と同じ症状だね」と言ってくれて、前回の診療でのカルテを見て、「前の薬、前回は効きましか?」と聞かれ、「はい、効きました」と答えました。そうやってさっと治療方針を考えてくれて、話が早くて助かりました。

私は医者の対応について色々考えることがあります。特に、医療コミュニケーションの授業を担当しているからです。患者と医者がちゃんと話し合い、複数の可能性を考慮した上で治療方針を決めるという「共有意思決定」がある一方、患者が一方的に治療方針を決める方法もあります。これを「パターナリズム」といいます。

近年では、いろいろな治療選択肢が出てきて、その中からどれを選ぶかは患者さんの権利とされています。しかし、患者さんも情報がないので、起こり得る可能性や可能な選択肢について医療者から説明を受け、共に最善の治療を判断するのが現代の医療コミュニケーションの基本です。

しかし、昔は病気や感染症の治療法が明確に決まっていて、そのまま薬を出したり、患者を隔離したりすることが一般的でした。そのため、コミュニケーションを取るまでもなく治療方針が決定していました。それは今でも救急医療の分野など、一刻を争う場面で見られます。そういった場合には、患者さんの考えを聞く時間すらないほど、迅速な決断が求められます。もちろん、そういった状況でも、患者さんや家族に対してどのように対処するか、どのような手続きを踏むかは、現代の医療の基本となっています。

現在の医療ではいろいろな可能性が考慮され、それに基づいた意思決定が重要です。しかし、私の場合はいつも同じ薬を処方してもらえればいいと考えています。そのため、様々な証拠や情報を出されて、それに基づいて自分で判断するよりも、いつも通りの診察をしてもらう方が楽です。

医師から丁寧に情報を教えてもらえることは重要なことなのですが、私が実際に行くのは、前と同じ薬を出してくれる医師の方が多いです。これは治療がうまくいっているからです。つまり、自分の希望が叶えられているからこそ、「何も言わずともOK」なんです。

耳鼻科の他に、皮膚科にも通っていますが、その治療も、毎回同じ薬を出してもらえれば、それで大丈夫です。

このように身体の病気については、医療者と患者が一緒になって治療を進めることで、多くの場合問題が解決します。しかし、メンタルの病気の場合、話が少し変わってきます。

例えば、うつ病の治療においては、医療者と患者の考え方が大きく異なることがあります。医者はうつ病の症状が消失し、再発しないことを重要視します。しかし、患者は自身の症状が軽減し、頭が上手く働くことを重要視することが多いです。ここには明らかなギャップが存在します。そういった研究結果もあるそうです。

患者の視点からすれば、その考え方は確かに理解できます。一方、医者の視点からすると、病気の基準を満たさず、再発を防ぐことが患者の将来の幸福につながると考えます。

もちろん、患者の考えを尊重し、患者目線で治療を進める医者もたくさんいます。しかし、全体としてはギャップが存在するようですね。

特に精神疾患の領域では、医者と患者がしっかりと話し合い、医者が可能な治療法を提示しつつ、どの順番で治療を進めると良いのかという科学的な根拠を述べることが重要です。そして、患者がどのように治療したいかということも考慮しなければなりません。

患者が希望する治療を選択できたら良いと思います。実際、研究では患者が希望する治療を行った方が結果的に良い結果をもたらすことが分かっています。その研究では、薬での治療、認知行動療法、対人関係療法の3つの治療法を比較し、患者が自分で好きな治療を選ぶと良い結果をもたらすことが分かりました。

しかし、科学的な根拠が100%の人に当てはまるわけではありません。心理学の研究においても、その効果は大体60%の人にしか当てはまらないと言われています。したがって、全ての患者が同じように反応するわけではありません。医者は患者の安全管理や他の多くの要素を考えながら治療を決定します。

すべてが患者の望む通りになるわけではないですが、それでも患者が望む治療を受け入れることで、治療がよりスムーズに進む可能性があります。そのため、医療者と患者が共に話し合い、意思決定を共有する、いわゆる「共有意思決定」が重要なのです。

医療コミュニケーションの授業ではこのような話を進めています。今日の話がなにかの参考になれば幸いです。

それでは最後までお付き合いいただいてありがとうございました!

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筆者 あおきしゅんたろうは福島県立医科大学で大学教員をしています。大学では医療コミュニケーションについての医学教育を担当しており、臨床心理士・公認心理師として認知行動療法を専門に活動しています。この記事は、所属機関を代表する意見ではなく、あくまで僕自身の考えや研究エビデンスを基に書いています。

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