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災いだけをなくそうとやっきになると、恵みも得られなくなる/河川工学者・原田守啓さん

みなさん、こんにちは。淡路島在住のファシリテーター、青木マーキーです。最近、焚き火が楽しいです。先日も淡路島にある川沿いで2時間ほど焚き火をしてから仕事場に向かいました。そう、その日は、友人の三浦豊さんとやっている「みんなの森のサロン」のゲスト・トークの日。河川工学者の原田守啓さんをお迎えして「森と河川」というテーマの2時間イベントでした。


画面下が原田さん、右上は三浦豊さん、左上の筆者が板書役をつとめながら聞く

ハゲ山ニッポン

原田さんは岐阜在住の研究者。「人と川とのもっとよいつきあい方」をテーマに様々な研究をしています。まずはじめに印象的だったのは「100年前は、日本中がハゲ山だった」というお話し。燃料革命で石油やガスを使い始める前、煮炊きも風呂も、製鉄も、製陶も薪や炭で行っていました。こんな感じの山が当たり前だったそうです。

100年前は山の奥の方までハゲ山だった!?

この状態で雨が降ると土壌流出が起きてしまいます。そこで治水三法(河川法、砂防法、森林法)が整備され、様々な人の手によって、日本の森の回復と治水が試みられたようです。このあたりの経緯は、原田さんオススメの書籍、森林飽和に詳しいですね。


川の個性とは?

そのあと、原田さんは興味深いマップを見せてくれました。DamMapsというもので、日本中の流域が見て分かるマップです。これを見ると、僕が住んでいる淡路島は面積が小さいので川の流域はコンパクトで、自分が育った熊野の新宮川の流域がいかに広いかがわかります。


流域ごとに降る雨の量は違う → 川の個性をつくる


加えて、雨量のマップ、地質のマップなどが示されて「その流域がどれぐらい広くて、どれぐらいの雨がふって、どういう地質なのか?」などで川の個性が決まる、というお話しでした。なので、川を見た時に、川底の石ころをよく見ると、とても個性があり、川のこと、そして、その流域の山のことがよくわかるようです。原田さん曰く、川の石はとても面白い。石だけど沼ですよ(笑)とのこと。

こういう石たちの違いを見分けられるようになりたい。解像度が上がりそう

とても印象的だったのが、大雨が降った後の木曽三川(揖斐川、長良川、木曽川)の色がぜんぜん違うということ。とくに鮎で有名な長良川は、細かい土砂が少ない地質ということもあって、大水が出ても、あまり濁らないそうです。ほえー、そんなことあるんだ!と驚くお話しが続きます。


真ん中の長良川だけが大雨のあとも濁らないでいるのも、川の個性

長良川での調査ぶりがすごい

研究者ってすごいな、って思ったのが、疑問に思ったことをきちんと調べ上げることができる力があること。この写真は長良川の水温と鮎との関係を調べているときの様子ですが、大学の先生の原田さん、長良川に流されながら水温を測っています。いやー、体張ってるなぁ。


流されながら水温を調べる原田さん。いやー、研究者ってすごい

詳しくしらべゆくと、なぜ、長良川に鮎が多いのか。そこに水温がどのように絡んでいるのかで、とても面白いことがわかったそうです。夏場水温が高くなってしまうと、鮎がいられなくなってしまう。高くなってしまった水温を冷やしてくれるのは、実は支流からの冷たい水のおかげ。詳しく、本流と支流の関係を見ていくと「支流は、本流の付属物ではなく、多様性のある支流の存在こそが、川の本質だ」ということに気づいたそうです。このあたりの話、とてもダイナミックで面白かった。会社とか組織とかでも「花形の仕事」ってのがあって、それが目立って見えているので、この会社の一番のウリはそれかな?と多くの人が思うのだが、実は様々な地味な仕事の積み重ねこそが、この企業の力の本質だった、みたいな話と似ていて、とっても面白い。

恵みと災い

河川工学とか治水ときくと、「自然の川をコンクリートで固めてしまう学問かな」と思い込んでいた僕は、大きく衝撃を受けました。原田さんいわく「川を洪水をもたらすもの、片方だけで見てしまうと、本質が見ることができない。川からは恵みと災いの両方がもたらされる。何十年かに一度の災いにだけ注目して、その災いのみをやっきになって抑えようと工事をしてしまうと、川からもたらされる貴重な恵みも、得られなくなる。川に対する感謝と畏れの両方をもって、人類がもっと謙虚に向き合えば、雑なことをしなくなるだろう」というお話しが深く、深く、心に残りました。


ファシグラ・キャンプに参加してから少しずつかき方が変化してきている

原田守啓さんのお話し、超絶面白く、かつ役に立つので、詳しくは、アーカイブを購入のうえお楽しみ下さい。「森と河川」は2000円にて購入可能です。また年会員になると1年分のアーカイブが楽しめますので、これをご縁にみんなの森のサロンの年会員になってくださると、とても、うれしいです。今後「森と木工」「森と音楽」「森と火山」「森とフェス」などのテーマで各界の一流のゲストをお招きする予定。前回の森と哲学(内山節さん)も面白かったな。


近くの川にでかけてみよう

お話しを聞いて、まっさきに思ったのは「近くの川にでかけてみよう」ということです。川をそれ単体として見るだけじゃなく、流域全体としてとらえ、どのような森から、どのような土を運んで、どのような生きものが暮らしているのかを、謙虚に見つめてみたいな、と思える素晴らしい2時間でした(あー、この動画、日本中に共有したい)
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近所の川でチャンバラごっこをする子どもたち この川の個性は…?


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