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合格したいならアーティストになろう! :中編【STEAM教育の"A"とは?】

前編【商品ではなく作品を創る】

「STEAM教育」についてご存知でしょうか?

Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(ものづくり)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の5つの領域を表す単語の頭文字を組み合わせた言葉です。

もともとは「A」が抜けた「STEM教育」と呼ばれ、科学技術分野における国際競争力を強固にするために、特にオバマ政権からアメリカで推進された教育指針です。
後からArt(芸術)の領域が付加され、今では「STEAM人財」の育成を国家戦略とする動きが世界中に広がっています。

私は、後から「A」=Artが加わった、というところに、この「STEAM教育」について捉えるべき点があるように思います。

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そもそも、「S・T・E・M」に該当する、サイエンスやテクノロジー、ものづくりの分野は、物事の法則を見出したり、定量的に捉えたり、誰もが使いやすい製品を作成したりするための領域です。
そのためには誰もが理解できるような論理的な説明と分析が求められます。

ところが、「A」を担うアート領域は、全く逆の性質のように感じます。
アートの目的は、万人に理解してもらうことにはありません。
「世界をこんな風に解釈したらどうだろう・・・?」という作り手側の感性が源になるからです。

ただ、客観的なロジックをもとにするサイエンスと、主観的な感性を元にするアートは、果たして本当に真逆のものなのでしょうか?

MITメディアラボの副所長を務め「STEMにArtを入れるべき」と主張したグラフィックデザイナーのジョン・マエダ氏が書いた、あるイラストがあります。

それは、「STEM」と書かれた植物の茎の先に、「IDEA」と書かれた電球が花のように灯っているという絵です。
IDEAは、Intuition(直感)、Design(デザイン)、Emotion(感情)、Art(芸術)を表しています。

ジョン・マエダ氏は、以下のように言っています。

「サイエンスとテクノロジーが20世紀の世界経済を変えたように、アートとデザインは、21世紀の世界経済を変える。」

日本では、STEAM教育の一環として小学校でプログラミング教育が必須になります。これにより、新しい教育マーケットができたとばかりに民間の各塾でもプログラミングの授業を導入しているようです。

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新しい教育が始まることへの保護者の不安や期待などもあり、たしかに必要なサービスなのかもしれませんが、本当の「STEAM教育」とは果たしてそういうことなのだろうか?と、私は思うのです。

ジョン・マエダ氏の指摘の通り、本来の「STEAM人財育成」には、「サイエンスとアートの融合」が欠かせません。
プログラミングの方法論をいくら教えても、人間のクリエイティビティを支えるアートの領域を耕せるとは保証されないのです。

AO・推薦入試を通して10代の若者から生まれる多くの研究テーマや職業観は、ほとんどの場合はじめは受験生が持っている感性に頼ることになります。
「喜怒哀楽」や「好き嫌い」のような感情的で感覚的な部分を出発点にして、それらを、まずは言葉にしていくことから始まります。

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・こんなことに熱中できる
・幼い頃から憧れているものがある
・あんなことが好き(あるいは嫌い)
・嬉しくて喜ばしく誇れる経験がある
・理不尽で悔しい経験や大きな失敗をしたことがある

そして、それらを実際に言葉にしていくと、様々な矛盾や軋轢に遭遇することになります。

・好きなことはあるけれど、これって大学で研究できることなの?
・知りたいことはあるけれど、それを解明したところで実社会に何の意味があるの?
・関心のあるビジネスモデルがあるけれど、だったら大学に行かずに自分で起業すれば良いのでは?

・・・のようなことです。

かといって、「自分の主観」を無視して、「大学・学部や教授の研究テーマ」に無理やりに寄せた志望理由書は、一見合理的に見えますが、魅力や新しい可能性を感じさせるものにはなり得ません。

あくまでも自分の感性を基にしながら、実社会と健全に繋がり、自分らしく生きていくにはどうしたら良いのか?

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AO・推薦入試への挑戦は、こうした葛藤への挑戦と本質的には同じなのです。

日本を代表する世界的な芸術家である村上隆氏は、

“要望を理解した上で、それに応え、同時に確信犯的に聞き流す反逆的な作品も残すというような生き方を確保しなければ、現代の芸術家の活動は経済的に破綻(はたん)します。”

と言っています。

この言葉の「要望を理解」とは、実社会のニーズをサイエンス的に捉えるということになりますし、「確信犯的に聞き流す反逆的な作品」とは、自分の内なる感性に従うことを意味し、まさにアートに通じます。

そう考えると、「現代の芸術家」とは、これからの社会を生きる人財一般を対象にした言葉になるのかもしれません。

(後編につづく)

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