灯された火を次につなぐ
2023年9月のある日
名古屋市立大学に行って「学生さんたちから質問される」という機会がありました。
その時の内容が、もしかすると他の方にも役に立つかも?と思ったので、走り書きになっちゃいますけど、書いてみますね。
アイデアを広げて具現化する
Q.
アイディエーションの視野を広げるためにしていることはありますか?
A.
アイディエーションってまた難しい言葉ですね。うーん、そうですね、アイデアを出したり実現したりするために重要なのは「家に帰って寝ろ」ってことだと僕は思ってます。
実はアイデアを考えてる時はめちゃくちゃ視野が狭くなりがちなので、アイデア出しは時間を決めるのが大切。1時間でやめて、出なかったらさっさと帰ってご飯食べるなり寝るなり映画見にいくなり、違うことをするってのが大事です。
こう、頭の中にスイッチがあって。それをバチンバチンって切り替えるイメージをしてください。
ON: アイデアを出す
OFF: それ以外のことをする
だとしてON/OFFの切り替えを何度も行うとエラーが生じて、頭の中の普段つながらないところがつながっちゃう。この状態が「ひらめいた!」なんです。
なので、スケッチブックに何時間も向き合うとかは意味がなくて。1時間考えたら、別のことをする。そうしてわざとOFFにする。完全にOFFになってからまた戻ってONにしたときにアイデアは閃くことが多いです。
ここで言うOFFって人それぞれ違います。「瞑想」の人もいるし「喋る」だったり「サッカーする」「ジョギングする」だったり。自分に合ったOFFを見つけて、ON/OFFをこまめに切り替える。これがアイデア出しのコツですね。
違う例えで言うと、たとえば「おでん」をイメージしてください。ずっとコトコト煮込んでても味って染みにくいんです。それよりも、いったん火を切って覚ます。冷えてからまた温める。そうすると味が染み込みます。
いったん忘れる。いったん冷ます。これが大事です。
アイデアの育て方
Q.
アイデアはどう展開しますか。また、先輩として後輩からアイデアを相談された時にはどんな言葉をかけたら良いでしょうか。
A.
僕は、自分たちが作ったMETHODという道具を使ってます。A6のコピー用紙に一枚一案を大量に描くというやつです。一般的に、出したアイデアをマッピングしたりグルーピングしたりっていう方法がとられますが、僕たちはそんなことは一切やりません。
なんでかって言うと、アイデアは「種」なんです。どんな種なら上手く育てられるかは人それぞれ違う。だから、とにかく大量に描いた中から「自分はこれが良い!」というものを選び出して、育てたい人が育てるのが一番です。
じゃあ先輩として、後輩にどんなアドバイスをしたら良いか。まず「このアイデア良いね」ってのは言って良いと思いますよ。言われると嬉しいから。
じゃあその他にどんなアドバイスがいいかってことを具体的に話しますね。
アイデアって最初は5つくらいのものがグチャっと混ざっちゃってることが多いので、それをほぐしてあげるのが良いアドバイスだと思います。
ほぐしてあげて、並べた上で「この1つを伸ばして、他の4つを削っちゃおう!」とか、優先順位づけの話をする。これが良いアドバイス。
良くないアドバイスは、アイデアをもう一個足すアドバイス。「これも足したらもっとよくなるんじゃない?」みたいに言う、すぐ足し算する先輩はアドバイスが上手くないので、あまり参考にしなくて良いと思います。
製品に添える言葉
Q.
TENTさんの製品が素敵なのはもちろん、一緒に添えられている言葉も良いなあと思っていて、(たとえば「あなたの暮らしにスタンバイ」とか「ひとときの居場所をつくる」とか)そのような言葉はいつどうやって浮かんでくるのかお聞きしたいです。
A.
めちゃくちゃ嬉しいです、ありがとうございます。
そうですね、製品を作った時に「これはこういう機能です」あるいは「こういう形です」って言葉が出る。これは一階層目だとして。
その上の二階層目にくるのが「こう便利になります」って言葉。そしてさらに上の、三階層目が「暮らしがこうなります」っていう言葉になります。
製品に添える言葉を考える時にはできるだけ上の階層の、より広く感じる言葉を目指してます。
「ひとときの居場所をつくる」っていうのはテーブルランプイチっていう照明に添えた言葉なんですけど
・乾電池式(コードレス)
・どこにでも持ち運んで灯せる
・1時間で自動消灯する
という機能から想像して「照明が1つあると居場所ができるなあ」とか「1時間を"ひととき"に言い換えて」とか考えていきました。
他の人はわからないですけど、僕はこういう、より広い感じの、使った時の気持ちを言葉にするのが好きですね。
自分の専門分野以外の勉強
Q.
プロダクトデザイン以外の分野もTENT設立以前から勉強してましたか?どうやって勉強しましたか?
A.
とくにしてません。っていうか「勉強ってなんだろう」って話なのかも。「オシャレな雑誌を立ち読みしていた」が勉強なのであれば、勉強していたことになりますね。「くそー、格好いいな!」って思うものがあったら真似してみるみたいな気持ちはあったんじゃないかなと思います。
たとえば休日なのにわざわざ学校に来てくだらない催しをやるみたいなことってありますよね。学校で鍋パーティやるとか、スイカ割りとか節分の日に豆を撃ち合うとか、描いた絵を勝手に展覧会始めてみるとか。
そういう時に、告知ポスターを作って学内に貼りまくるみたいなのは、遊びでやってた気がします。それでその催しの様子を撮っておいて、それを編集して1本の映像にするみたいなのとか。
そういう「Macに入ってるアプリケーション全部使うぞ!」って遊びを繰り返すことで、プロダクトデザイン以外のジャンルにも興味が持てた気がしてます。
他分野の人とのコミュニケーション
Q.
ものづくりの中でエンジニアなどデザイナー以外の人と関わる場面が多いと思うのですが、コミュニケーションを取る上で気をつけていることはありますか?デザイナーとはここが違う!と感じることがあればお聞きしたいです。
A.
僕が気をつけていることは、エンジニアとかデザイナーとかそういうくくりで見ないってことです。
僕と鈴木さん、僕と佐藤さん、みたいに、人と人としての関係にいかに持ち込むのかっていうのが大事だなあと思ってて。
多くの人が、社会人になると鎧を着ちゃうんですよ。「営業部の意見だ」とか「僕はデザイナーだから」とか。それをほぐして「あなたは鈴木さんですよね」っていう関係性になれると、分野に関係なくうまくいくと思います。
好きなことを仕事にする
Q.
SNSやサイトを拝見し、モノを作ったり考えたりすることが大好きな方なのだろうとお見受けしました。好きなことを仕事にする中で、何か意識していることや苦悩があればお聞きしたいです。
A.
今は、苦悩はないですね。あるとしたらお金が足りないとかそれくらい。でもメーカー勤務時代は辛かったです。あれは向き不向きがあると思ってて。
人からミッションを与えられて→全力で走る!
みたいなことができる人は、それは才能なので大事にして欲しいって思うんです。
一方で僕は、人からミッションを与えられるとうまく動けない性質だったみたいで。このアオキという乗り物は、自分でミッションを見つけて走らせる方がよく動くみたいなんです。
この乗り物に生まれちゃったんだから、自分に向いてる運転をしないとぶっ壊れちゃう。自分がどんな乗り物なのかを把握するのが大事なのかもです。
(補足:当然ながらハルタさんをはじめTENTの他のメンバーは別の特徴を持ってます。チームでバランスをとれるから、僕は自分という乗り物をより活かせる!チーム最高。)
じゃあ僕はいつどうやってこれを把握できたのかっていうと、合わない環境に身を置いたからだったりしますね。実はこの学校にいたときもそうだし、会社に入ってからもそうなんですけど「うーん、なんか合わない!」って思ったら何に違和感があるのかをしっかり見つめる。
するとその違和感の逆方向にあるのが、自分が本当に好きなことだったりするので。ブラック企業とかに入るのもそれはそれでありなのかもしれないです。
独立することについて
Q.
いつどのタイミングで独立しようと考えましたか?また、独立した後に会社の認知を広げた方法を教えていただきたいです。
A.
実は「独立しよう!」って決意したことはなくて。会社員時代に僕は社内で友達を作るのがとても苦手で…。家の近所のいろんな人と知り合う中で、気がつくと周りにフリーランスの人が多くなってたんです。だから独立しようっていうよりは「会社辞めたらこの人たちとも仲間になれるのかな」って、そんな感覚でした。
会社の認知を広げた方法…なんだろう、僕が聞きたいくらいですが。ああ、質問者さんが今HINGEを使ってくれてますが、もしかすると自社製品を始めたことが重要だったのかも。自社製品が認知を広げてくれるっていうのはあるかもしれないです。
良い「余白」をつくるには
Q.
TENTさんのプロダクトは使い手にとって余白のあるデザインだと感じています。製品にとって余白はどのような存在だと感じられてますか
A.
使い手にとっての余白。そうですね。スケッチや図面を描いていると、つい「デザイナー」っぽい欲が出てロゴを大きく入れたり面を捻ったり複雑な曲面を使ったりしちゃうと思うんです。
でもその試作を家に持って帰って使ってみると「ロゴが邪魔だな」とか「この曲面はいらないな」とか冷静になるんですよね。
メタ認知って言葉があるじゃないですか。自分がしていることを俯瞰して冷静に認識するみたいなことなんですけど、あれって普通にやろうとすると難しいんです。
デザイナーである自分がデザイナーのまま、作りながら冷静に見るなんてできない。もしできたとしても「冷め切った感情でデザインする」なんてつまらないものしか作れない。
なので、立場を変えるわけです。
まずはデザイナーとしてすごい情熱を持って作る。そして家に帰って冷静に使う。立場というスイッチをバチンバチン切り替える。その繰り返しから、たぶん良い意味での「余白」ができていくんだと思います。
この他にも、本当にた〜くさんの!質問をいただいて、1つ1つ情熱を持って応えさせていただきました。
<おまけ>火を次につなぐ
今回、交通費も含めて一円ももらわずに参加したわけですけど、これには理由があって。
僕が学生時代に、当時MotiondiveとかLife with PhotoCinema などを次々リリースしていた デジタルステージの代表だった平野友康さんが、ある日突然、学校にやってきて、教室に学生を呼んで話をしてくれたんです。
最初は「誰だろうこのお兄さん」と思っていた僕も1時間後にはすっかり引き込まれて。最前線でまさに面白いことを仕掛け続けている人のクリエイティブ魂みたいなものにあてられて、僕の魂に火をつけられたんです。
この経験はどんな本や授業よりも強烈で。
あの「ちょっと年上のお兄さんが魂に火をつける」という生涯を変える経験を、自分がお兄さんになった今、たった一人の学生さんにでも感じて欲しかったのと。
平野さんが僕に灯してくれたこの火をたやさず、次の世代に回していきたい!と思ったので、ものすごい情熱で2時間喋りまくってきました。
この会に参加した、たった一人だけにでも!火がついてくれればいいなと思います。
クリエイティブなことを続けるのって、楽しいよ!!
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