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形はどう思いつくか

「カタチについてお話を聞かせてください」

前回の「プレゼンテーション」に続いて

うえださんから、そんな質問をいただきました。

ウエダさん

1.客観的イメージボード作り

ウエダ
TENTさんのお手伝いするようになってから、僕はつくづく形のストックがないなあと思ってて。


ハルタ
ストック?

ハルタ


ウエダ
以前に僕がある製品アイデアを出してその形状に悩んでいた時に、ハルタさんが「こうしたら?」ってさらっと言ってくれたじゃないですか。その時に示してくれた形が、それはもう理にかなっていて。

ものすごく打ちのめされたんですけど、ああいうのって、どうやったらできるようになるんですか?


アオキ
それはプロダクトデザイナーとしての二十年以上の歴史の差が…

アオキ


ウエダ
いやもうそれは、重々承知の上なんですけど。形って、どう思いつくものなんですか?


ハルタ
なんて言ったら良いんだろう。僕がウエダさんくらいの年齢の頃には全くできなかったからね。長年の筋トレの成果みたいなもので。

僕が新卒で小さなデザイン事務所に入った時に「3日後にアイデア集合しようね」って所長にいわれて。三日三晩フルフルに考えて脳みそがぐちゃぐちゃになるくらい悩んで。

それでも1案しか出せなかった。一方で、そのデザイン事務所の所長は10案20案持ってきてたからね。


ウエダ

治田さんはその後「インプットするために散歩して色々見て回るぞー!」とか、やったんですか?


ハルタ
うーん、なんだろう。

そもそも学生の頃って何もかも自分の頭の中からゼロから生み出さなきゃみたいな思い込みがあったんですよね。苦しんで苦しんで、頭をギュウギュウに絞って捻り出すみたいな。

ハルタ
でもその事務所で周りの人がやってるのは、アイデアソースを他から持ってきてアレンジする感じ。

新しい旋律をゼロから生み出すというより、ちょっとDJ感覚というか、MIXしたりしてどんどん生み出しちゃうんだよね。

それを見てからは、たとえばオーディオ機器のデザインするときも「車の排気口の良さをオーディオに生かすとどうなるんだろ」とか考えるように変わっていきました。


アオキ
ふむふむ。
いきなり考えるんじゃなく参考例としてイメージ写真をいっぱい集める。いわゆるイメージボード作りは、わりとデザインの業界で昔からやられてる方法ではありますね。

ハルタ
そうそう。良いか悪いかは置いておいて、わりとやられてる方法ですよね。

でも最初はそのイメージボードすらまともに作れない。単純に「俺はこれが格好良いと思う」って物を集めてきて貼っちゃうからめっちゃ怒られてました。

まずは主観ではなく客観的な視点でイメージボードが作れるようになる。これは今でもカタチを考える人になる上で第一歩としてはアリかもしれないです。


ウエダ
なるほど。


ハルタ
とはいえ、最近は全然やらなくなっちゃった。


ウエダ
ええ!そうなんですか。



2.引用とモチーフ

ハルタ
1990年代とか2000年代、ドローグデザインとかWITHOUT THOUGHTとかが代表例にはなると思うんですが

ものすごく乱暴な言い方になるのが申し訳ないけど、見たこともない新しい形を考えるのではなく「バケツみたいな形の白物家電」みたいな感じでモチーフを持ってくるっていう系譜があって。

それ以降の世代である僕たちは、少なからず影響を受けてるわけです。


アオキ
そうですね。その頃ほとんどの家電の機能がソフトウェアに置き換わっていくようになってブラックボックス化していく流れで、時代的にもモチーフや引用が有効になっていきましたよね。


ウエダ
ふむふむ。


ハルタ
さっき話したように、イメージボードを作って他のジャンルから引用したりMIXして新しい形を生み出そうとした時代があったとして。

その後のモチーフの時代っていうのは、あえて引用元を明示することで、面白さであったり、機能を感覚的に理解させてたと思うんです。

で、今はどうかっていうと、すでにその次の時代になっていて。


ウエダ
次の時代、ですか。


ハルタ
たとえば乱暴な喩えで申し訳ないんですけど「石ころみたいな石鹸」っていうのが通用する時代があったとして

今はさらに「石ころみたい、からの?」っていうもう一歩の踏み込みが必要だと僕は思います。


ウエダ
うーん、いっそう分からなくなってきました。


3.心への座りやすさ

ハルタ
引用とかモチーフとか以外で言うと、アオキさんがよくやってるような構成をガラっと変える考え方ってのがあって。


ウエダ
構成を変える…


アオキ
あくまで喩えとして、あえて極端にシンプルに話しますよ。

世の中の全てのスマートフォンがiPhoneの真似をして4つ角が丸い四角になっているとするじゃないですか。


アオキ
そういうのと違う構成はできないかな?と考えた時、たとえば正面からは真四角に見えるけど握りやすい形として、NuAns NEOのような、上面から見ると小判型になってる形が考えられる。

NuAns NEO


アオキ

ざっくり言えばそんな感じで、世の中にあるものとは違う構成を探すやり方なんですけど。

たとえばフライパンジュウなんかも、実はそういう考え方から生まれてたりします。


ウエダ
ええ?フライパンジュウって、てっきりお皿をモチーフにしたのかと思ってました。


アオキ
あれは構造から来た形なんです。

フライパンに付け外しできるハンドルの構造を考えるのではなく、ハンドルがシンプルに取り付くようなフライパンの構造を考えた。

その結果としてあの形が生まれて。その後で「あれ?お皿みたいに見えそうだぞ?」って気づいた。

アオキ
最初に構造の考え方自体をガラッと変えて、そこからさらに心の座りが良い形を探した結果、お皿という、いわゆるモチーフ的な存在に行き着いたという。


ウエダ
へえー!
そうすると、最初の方に言っていた話とは順番が逆なんですね。なるほどなあ。




4.迷わないための指針

アオキ
なんかここまで話してた内容だと「どんな形にしようかな」という最初の部分ばかりになってますけど、実はディティールの積み上げこそ大事なんじゃないかなあって思ってたりもします。


ツジ
それ僕が聞きたかったところです。TENTさんはルール付けみたいなのがすごいなと思ってて。

ツジさん


ハルタ
ルールづけ?


ツジ
細かい部分では全く迷いが生じてなくて。そもそも迷わないための大きな指針を決めるのがすごく上手だなと思ってます。

一番シンプルな大原則、たとえば一言で説明できるコンセプトとかを決める。そうすると、細かい部分で濁りが見つけやすくなる。


アオキ

たしかに僕らはよく「ノイズがある」とか言ってますね。


ツジ
そうですよね。なのでTENTさんに来てデザインのスキルが上がったかどうかというより、悩む時間が減った気がします。


アオキ
なるほどたしかに。歳をとって経験をつんだ今、形のバリエーションが増えたっていうよりは達成したいゴールを見つけられるようになった気はする。

昔は「丸をやったから次は四角」とか「黄色をやったから次は赤」とか、無駄にたくさん考えてしまってた。


ハルタ
それがデザイナーの仕事だとも思ってたしね。


アオキ
そうです。たくさん描けば誰かが選んでくれるなんて思っちゃってました。
今はスケッチや図面を描く前、自分なりのゴールの設定に一番時間かけてる気がします。


5.小さく描いてもそれとわかる

ウエダ
ちなみにその、自分なりのゴールの設定って、どうやったら見つけやすくなりますかね。


アオキ
たぶんなんだけど、アイデアスケッチ描いてると紙が埋め尽くされていって描くスペースがどんどん小さくなって、最終的に切手くらいのサイズのスケッチを描くことになるじゃない?

あれだと思う。


ウエダ
と、言いますと?


アオキ
いわゆるサムネイルというかアイコンというか。ものすごく小さく描いても「唯一無二のそれ」とわかる形。それを探し当てることができれば、それはもうゴールが見つけられた状態に近い気がする。


ハルタ
最初は描き込みすぎないのがいいのかもしれないですね。だからTENTではMETHODを使ってA6用紙にサインペンで描いてるのかもしれない。


ウエダ
はぁー、たしかにJIUもSTAN.も、アイコンにしてもわかる。なるほどー。

STAN.


6.制御するための引用


アオキ

小さく描いてもそれとわかる形ができたなら、あとは邪魔しないディティールを積み上げるだけだと思ってて。そうなった時に初めて、イメージを引用している気がする。

DRAW A LINE

アオキ
たとえば DRAW A LINE では、ディティールの部分ではちょっと古いカメラとかを意識していたりするし。


ウエダ
ふむふむ。


アオキ
最初の方で話した、引用とかモチーフ。たとえば「マグカップの形そのものの加湿器を作りました」みたいなのって、パクリとかそう言う話はもちろんなんだけど、なんというか、今の時代ではわりと危ういと思ってて。

やっぱり形としては小さくてもそれとわかる強い構成を探して、その後にあくまでディティールを制御するために引用とかモチーフを使うと良いのかもしれない。


ハルタ
なんか今回はいつになくマニアックな話になってしまってますけど、大丈夫ですかね。


ウエダ
すぐには理解できないこともたくさんありますが、じっくり考えてみたいと思います。


ツジ
今日もありがとうございました!




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