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画面を止めて、音楽を流そう。(TN1デザインのひみつ)

読書や作業に集中するために、音楽を流す。

それなのに、音量調整や曲送りのたびにスマートフォンに触れて、気づけばSNSやメールを見てしまうから。

画面を見ずに、触覚で操作するワイヤレスオーディオコントローラーをつくりました。

物理的操作が心地良いワイヤレスオーディオコントローラー
PEBLWEAR TN1


今回は、手のひらに乗るくらい小さなこの道具ができるまでのお話をします。


1.発明家になりたい


アオキ

僕はTENTを結成する前に二年だけSONYで働いていたんですけど、そこでプロジェクトを共にした戦友みたいなエンジニアさんがいました。それが赤塚さんです。


赤塚(アカツカ)さん
こんにちは。よろしくお願いします。

赤塚 雄平
PEBLWEAR 代表

赤塚さん
僕もアオキさんも当時は中途入社したばかりだったこともあり、かなり気合を入れた製品を作りましたよね。


アオキ
VAIOのBMS-10というマウス。僕がプロダクトデザイナー、赤塚さんはエンジニアとして、お互いに意見をバシバシぶつけ合って、あれは本当に楽しいプロジェクトでした。

BMS-10
スライドカバーで電源がON/OFFされる
持ち歩くことを前提にしたマウス

アオキ
今回は15年ぶりにタッグを組むわけですけど、まずは赤塚さんの略歴というか、これまでをざっくり教えてもらえますか?


赤塚さん
生まれは東京で、父の仕事の都合で二歳でアメリカに行って。小学校二年生の頃に日本に戻りました。

それで何歳くらいだったかな、エジソンに憧れて発明家になりたいなって思って。当時はロボットが流行ってたんで、ロボットなのかなあと思って機械系の大学に行きました。


アオキ
機械工学とかそういうやつですか。


赤塚さん
そう、電気自転車が卒論でした。それで就職活動するあたりで製品全部を担当できるような小さいチームがいいなあと思って、Seiko Instrumentsに入社しました。

東京や幕張勤務で、電子辞書を作ってましたよ。

当時セイコーインスツルメンツで
赤塚さんが担当した機種

赤塚さん
そこで6年くらい勤めたあと、SONYに転職しました。


アオキ
なんで転職したんですか?


赤塚さん
当時も新しいアイデアをいろいろ出してたんだけどなかなか通らなくて。「SONYならもっと自由なんじゃないの?」って。


アオキ
わかるー!超わかります。

中央は赤塚さんの愛犬チャロ
右はTENTアオキ

赤塚さん
SONYではVAIOっていうパソコンの部門に配属されたんですけど、その中でも小さなチームが良いって思っていたんで、マウスをはじめとする周辺機器の部署に入りました。


アオキ
その時に冒頭で話したマウスを僕と一緒にやりましたね。

僕は赤塚さんとは別のフロアで働いていたんですけど、赤塚さんのデスクには用がなくても遊びに行ってました。

オフィスの中で赤塚さんの机だけすごく特殊で、天然木の突き板が貼られていて。なんか小さなコーヒースタンドみたいな席で、ハンドドリップでコーヒーを淹れてるという。

赤塚さん
よく雑談してましたね。


アオキ
僕がSONYを辞めた後、赤塚さんは部署ごと長野へ転勤になったわけですけど、どんな感じだったんですか?

赤塚さん
めっちゃくちゃ楽しかったですよ。SONY独自の技術を使った面白いものをたくさん仕込んでいて。とにかく会社に行くのが大好きでした。

気持ちよさそうな長野

アオキ
でもしばらくして部署が縮小されちゃいましたよね。


赤塚さん
そう、それで異動することになって。東京のお台場のあたりで、今は発表されてますよね、電気自動車関係のUIなんかに関わらせてもらってました。

あれもすごい楽しかったんですけど、うちの家族もみんな長野が大好きになっちゃってたんで、やっぱり長野に住みたいねってことでEPSONへ転職しました。


アオキ
そんなに長野がしっくりきたんですね。


赤塚さん
小さい娘もいましたし。しっくりきましたね。

長野を満喫する赤塚さん


2.体験してみないとわからない


赤塚さん

EPSONでは、まずはエンジニアリングを理解できるプランナーみたいなポジションで入りました。

プロジェクションマッピングとかアートインスタレーションとか、コンサートで使うようなプロ向けのプロジェクターのお仕事で、インドとかアメリカとか世界中に飛ばしてもらって。


アオキ
いきなり規模がでかい。


赤塚さん
そうなんです。世界を相手にしたプロ向けのやつ。最初は営業さんに技術面サポートをする感じだったんですけど、商品企画や事業戦略の仕事に変わって。

商品企画の仕事では dreamioのEF-12っていう商品をまるっと関わらせてもらって。あれは神プロダクトなので、ぜひ体験してもらいたいです。

dreamio EF-12

アオキ
なんだか、いつも楽しそうですね。


赤塚さん
そうなんですよ。事業戦略とかにも携わるようになって、新しい視点も持てるようになったりと、かなり濃い時間を過ごしていました。

楽しく仕事はできていたんですが、大きな規模のプロジェクトの傍らで、いつか規模は小さくても自由な発想のプロダクトで喜んでいただけるモノづくりをやっていけたら、という想いがありまして。


アオキ
そしてPEBLWEAR(ペブルウェア)を起業されたわけですね。

赤塚さん
そうです。もともとは個人でPEBLWEARという名称のプロダクトをkickstarterに出していたんです。

それで独立の挨拶も兼ねてそのプロダクトをTENTさんにも貸し出していたんですよね。

PEBLWEAR

アオキ
そうです。ちなみにPEBLEWEARは小石のようなデバイスなんですけど、表面をタップしたり撫でるだけでスマートフォンなどの音楽が操作できるという製品なんですよね。

これを一台借りていて、僕たちのお店 TENTのTEMPOで使ってました。


赤塚さん
それからしばらく経った頃に、TENTさんから「こんなものって作れませんか?」ってお話をいただいて。


アオキ
お店で使っていたPEBLWEARを見て、TENTの山根さんが「アナログな操作感があるワイアレスリモコンが欲しい」ってスケッチを描いていたんですよね。

アオキ
とはいえその時は雑談で終わって。それから1ヶ月後くらいでしたっけ。赤塚さんがTENTの事務所へ来てくれて。いきなり実働試作を持ってきてくれた。

赤塚さん
そう。PEBLWEARを世に出してから僕の中で漠然とした課題感があったんです。山根さんのスケッチはその課題感にバシッとハマった感覚だけあって。

まずは体験してみないと良いも悪いもわからないだろうと思って、試作してみたんですよ。

その試作を家に置いていたら、うちの奥さんが「これ、いいじゃん」って使ってくれて。「これは可能性を感じる!」って思って、すぐにTENTさんへ持って行ったという形ですね。


アオキ
びっくりしましたよ。依頼したわけでもないのに動く試作ができていて。



3.良さを引き出す


アオキ

試作をお借りして使ってみたところ、たしかに物理的な操作ができる感覚がとても気持ち良いとは思ったんですけど、このプロダクトの良さをより引き出すために、まずはTENTのみんなで様々な形状を考えてみることにしました。

たくさんの形状を出す中で、僕が印象的だったプランはこれですね。ダイアルだけにしてしまうプラン。

アオキ
個人的にはシンプルで良さそうって思ったんですけど、赤塚さんの反応がイマイチで。


赤塚さん
「ダイアルをクルクル回す感触が気持ち良い」というのがスタート地点だったので「いっそダイアルだけにしてしまう」という判断は確かにアリだなとは思ったんですけど、なんか違う気がしたんですよね。

ダイアル1つにするためには、長押しやダブルタップなど複雑な操作が必要になる。「それだと体験として、タッチ操作とあまり変わらないじゃん」って。


アオキ
他にも異なる操作感の案がいくつもあったんですけど、ここでたくさんのプランを出した上で議論できて良かったと思います。


赤塚さん
そうですね。おかげさまでやりたいことがクリアになりました。

この時は結果的に、「音量ノブ」「戻るボタン」「送るボタン」「再生/一時停止ボタン」という4つは欲しいとお願いしました。

あと、素材に関してもお願いしましたね。それまでは「全て金属の切削で」という話だったんですけど、それだと無線通信ができなくなってしまうし、すごく高価になっちゃいますから。

触感として最も重要なダイアルは金属の削り出しで、それ以外には粉末焼結した樹脂を使用するという形でお願いしました。



アオキ
その条件のもとに、今度はこちらで形状データを作成して、いくつも試作しましたね、丸っこい案もあったりして。

赤塚さん
当初はPEBLWEARから続く「ミュージックリモコン」のような存在をイメージしていたので、手に時馴染みやすい丸っこい形も良いなと思ってたんです。でも試作を触ってみるとシャープな案がとてもよく思えた。


アオキ
丸っこい形はたしかに握りやすいんですけど、机の上に置いた時に「リモコンが放置されている」という印象を持ってしまう。

それよりは「机の上に小さな機械が佇んでいる」という印象の方が、より魅力的になるってことだと思います。


4.あ、触りたいな


アオキ

この辺から細かい検討に入ったんですけど、とくに3つのボタンの大きさと凸量はかなり時間をかけましたよね。


赤塚さん
そうですね。凸量の異なるボタンの試作をいくつも作って検証したり、ボタンと本体との間の隙間をコンマ1mm単位で調整を繰り返して、操作感を高めていきました。


アオキ
最初は本体と完全にフラットなボタンが良い!って言っていたのに。実際に試作を触ると、ボタンは突出しているほど良いって思えてきて。


赤塚さん

そうなんですよね。なんとなく「フラットなほうが現代的」って思っちゃってたんですけど、ボタンが突出してる方が素直に「あ、触りたいな」って思えて。

赤塚さん
ちなみに、このボタン、押しながら回すと回転するんですよ。使う人によって本体を置く向きって変わるじゃないですか。だから、気軽にアイコンの向きを変えてもらえるように工夫しました。


アオキ
ダイアルについても設計上の工夫はありますか?


赤塚さん
見た目の期待を裏切らない重厚感と回した時にカチカチした手応えが欲しかったので、長野県伊那市の工場にお願いして、金属の塊を削り出して作っています。

アオキ
ずっしりして贅沢ですよね。エッジもピンとしてて、ここまで重厚なものは現代ではなかなか見かけないと思います。



赤塚さん
触るたびに嬉しくなって欲しいから、重さや手応えに関しては、かなり細かいところまで調整しました。


5.音楽を家族みんなのものに


アオキ

ちなみに、赤塚さんはTN1をどう使っていますか?


赤塚さん
机の上に出してあるのでいつでも使える状態ではあるんですけど、主に在宅ワークの作業中や一人がけの椅子でまったり本を読む時に重宝してますね。

スマホに触らずに済むんで、集中力が削がれなくて考え事がしやすい感覚があります。

アオキ
たしかに。音量調整したくてスマホ出したのに、気づくとSNSを見ちゃって「あれ?何しようとしてたんだっけ」って経験あります。


赤塚さん
とくに初代のPEBLWEARとの比較で言うと、ボリュームノブと押しボタンがハッキリ存在してて、それが手元に置けるので音楽好きとしては安心感を感じられてます。


アオキ
なるほどー。奥さんや娘さんの反応はどんな感じですか?


赤塚さん
家族は僕と違って家電とかガジェットがとにかく苦手なんですよ。でもTN1はボリュームダイアルとボタンのわかりやすい操作感がすごく気に入ってるみたい。

友人を呼んで食事の時とかに食卓にちょこんとおいてあっても雰囲気を損なわないですし。

アオキ
たしかにですね。うちも僕のスマホから部屋のスピーカーに音楽を流してること多いんですけど、TN1が机にあると子どもが気軽に音量下げたりできるから、音楽が家族みんなのものに戻った感覚がありますね。


6.大切な小石のような手応えを

アオキ
赤塚さんって過去には大きなメーカーで大きな規模の仕事をしてきたじゃないですか。

TN1はすごく身近な小さな単位で進めているんですけど、その辺りは何か強い意志みたいなものがあったりするんですか?


赤塚さん
メーカー勤務時代に中国の工場によく行ってたんですけど、工場のラインで地方出身の中学生くらいに見える若い工員さんが、どんな製品のどの部品を作っているかも知らずに作業されていたんです。

その光景がなんかね、ずっと違和感があったんです。

だから独立してやるからには、どんな場所で、どんな素材を使って、どんな人が何を考えて作ったのか。そういう1つ1つに実感が伴うようなモノづくりがしたかったんです。

アオキ
なるほど。

その話を踏まえて思ったんですけど、今回のTN1って、重厚感のあるダイアルをカチカチ回したり、突出したボタンをグっと押したり、そういった心地よさを重視してて。

アオキ
ここで大事にしてる価値観って、さっきお話いただいた赤塚さんが感じた違和感から繋がっている話だと思って。


赤塚さん
ふむ


アオキ
なんというか、モノづくりのプロセスにも音楽の操作にも、手応えを取り戻したいって。赤塚さんは実はそんなことを考えているのかもなと思いました。

長野県にある赤塚さんの自宅 兼 マイクロファクトリー
自宅内で開発だけでなく製造も行っている



赤塚さん
たしかに、そうかもしれないですね。

アオキ
あと1つ、大きなメーカーの経験を経て独立した赤塚さんの会社名が PEBLWEAR(ペブルウェア) っていうのも面白いなあと思ってて。

小石っていう意味のpebble(ペブル)って英語からきていると思うんですけど、たとえば、普段は河原の小石なんて誰も気にかけないじゃないですか。

でも子どもと一緒に「お気に入りの小石を見つけよう」って探すと、手触りが良くていい感じの色の、自分にとって特別な石が見つけられるんですよね。

アオキ
その石をペーパーウェイトに使うとか、いち機能として見ることはできるんですけど、それだけではない価値があるからこそ、僕は玄関にちょこんと飾っちゃったりする。

そんな河原の小石のような、多くの人は見落とすけれど価値あるものを作る。そういう意味でPEBLWEAR(pebble-wear)って良い言葉だなあって思ったんです。

赤塚さんが1つ1つ組み付けを行っている
最小限の梱包材に赤塚さん本人の手で封入して発送




赤塚さん
うまいこと言いますね。

今回のTN1もそうなんですけど、これからもそういった、機能だけではない価値を感じるプロダクトを、手応えのあるプロセスで世に出して行ければと思います。


アオキ
TN1を皮切りに、これからも手応えのある製品開発をご一緒できればと思います。

今日はありがとうございました!


赤塚さん
ありがとうございました。

環境負荷を考慮した最小限のパッケージでお送りします






<おまけのお知らせ>
TENTではPEBLWEAR赤塚さんの力も加わり、ソフトウェアやハードウェアのエンジニアリングを含むスピーディな開発も可能になりました。

この協力体制を生かしたお仕事のご依頼も随時受け付けています。ご興味のある方はこちらのページからお気軽にご連絡ください。

PEBLWEAR シリーズについてはこちら からどうぞ。





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