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大胆に考え、繊細に作る。(TEPRA PRO デザインのひみつ)

アオキ
昨年2021年の8月にKINGJIMさんから TEPRA PRO SR-R980という商品が発売されてまして。

いわゆる「テプラ」の中でも最上位機種となるこの製品、実は僕たちTENTがデザインを担当してました。

今日は、この製品のデザインに関して、ハルタさんに伺っていきたいと思います。よろしくお願いします。

写真左:アオキ 写真右:ハルタ

ハルタ
よろしくお願いします。


アオキ
TENTは最近「何を作ろうかな」というところから始まるお仕事が多いんですけど、このTEPRAに関しては「これを作る」ということが決まっていて、中に入るメカや設計も、ある程度確定していましたよね。

ハルタ
そうですね。2015年から販売されていたという機種 SR970 をベースに、外装デザインのリニューアルを行うという依頼でした。

以前の機種 TEPRA PRO SR970

アオキ
前の機種があって、そこからのリニューアルというお仕事。こういうのってどうしても前の商品の印象に引っ張られがちだと思うんです。

アオキ
このプロジェクトの序盤には、他にもたくさんのデザインを検討していたんですけど、今思えば他の案は前機種やKINGJIMさんの過去のTEPRAのイメージに縛られていたものが多かったように思います。

それらと比べてこの案は大きく異なる印象がありました。


動作の順番から考える


アオキ
最初のスケッチを見て一番驚いたのは、この丸いハンドル。

どういうきっかけで、この丸いハンドルの発想に至ったんですか?


ハルタ
TEPRAの過去の歴史をみると、初期の頃からずっとハンドルがついた機種が存在していたんですよね。

表面的な形が変わってもそこだけは引き継がれていたし、今回の機種も当然ハンドルありきで依頼されていました。

過去の歴史はKINGJIMさんのホームページからご覧ください!

アオキ
なるほど。とはいえ、過去の機種は「本体機能があって、そこにハンドル機能を付加する」という考え方から生まれた形になっていると僕は思うんですけど

今回は「まずハンドルがあり、そこに本体機能がつく」という順番から考えられた形のように僕には思えます。その辺りはどうですか?

ハルタ
そうですね。たしかに頭の中で優先順位を入れ替えた気がします。その理由は2つあって

タイプライターやワープロの時代にはハンドル付きって結構あったとは思うんですけど、キーボードもののプロダクトにハンドルがついているって現代だとけっこう珍しいなと思ったのが一つ。

次に、今回はハイエンド機種で、プロ向け、業務用と伺っていたので、たとえば軍手をつけた人がバックヤードの棚からパっと取り出して持ち運んで使うシチュエーションなんかも想像できました。

アオキ
持ち運んでから使う、その動作の順番に沿った思考プロセスになってますね。ふむふむ。

バックヤードの棚に置くと言う意味では、立てておけるというのも機能的な特徴の1つだなと思いました。

ハルタ
実は立てておけるという機能自体は、以前の機種でもついていたんです。

でも、あくまでも卓上に置いておくことがメインであって、立てておいた時に安心感が持てる形にはなっていなかった。

アオキ
たしかに。いちおう立てられはするんだけど、ちょっと不安になりますね。

ハルタ
そこで今回は、立てておいた時にも安心感のある形にしたくて、横から見た時に綺麗な二等辺三角形ができるようにしました。

ハルタ
横から見てもらうとわかりやすいと思うんですけど、以前の機種はまずキーボードや液晶面があり、それらに対して平行や垂直になるように要素がまとめられていて。

最後にその塊の裏面をズバっとカットしたような作りになっています。

ハルタ
でも今回は、まずはハンドルからはじまる二等辺三角形ありきで、それに対して各要素を整理して配置しました。

アオキ
なるほど。形を考える上で思考の出発点が違うんですね。

では次は細かい部分のお話に入りたいと思います。まずはキーボードなどのボタン類。今回の機種は、様々な形のボタンがありますね。


指先で感じて機能するディティール


ハルタ

ここは機能ごとにグルーピングして形を決めています。電源ON/OFFやホーム、印刷など、大きな動きに関わるボタンは丸をベースにしていて、文字の入力に関わるボタンは四角でまとめています。

アオキ
キーボードのボタンたちは、以前の機種ではカチっと四角いボタンパーツがいっぱい並んでいる感じになっていますが

それとまた違って、1つ1つのボタンの角に丸くRがついています。

なんかこう、本体の塊の一部が打ち抜かれて浮き出てきているような、しっかりした部品に見えますね。

あと、ボタンの形状だけでなく、その周辺も1つ1つ違ってますよね。

たとえばON/OFFボタンは本体側にC面(斜めに削り込んだような面)がありますし、イジェクトボタンの周りにはさらに大きなC面がついている。

これらについて、意図などを説明してもらうことはできますか?


ハルタ
そうですね。うーん。

ON/OFFボタンや印刷ボタンなどは、キーボード入力中に誤って押してしまわないように、本体と同じ高さにしました。その分、奥まで押し込まなくてはいけないので、周囲を斜めに削って押しこみやすくしていますね。

とくにイジェクトボタンは奥まで強く押さなくてはいけないボタンなので、大きく深くC面をとっています。


アオキ
印刷ボタンだけ、中央部がゆるやかに凹んでいますね。

ハルタ
はい、印刷は最後に押す大切なボタンなので、指先だけでも明らかに違いがわかるように、そしてしっかり押しやすいように、凹んだ形状になっています。

アオキ
最近は全てをタッチパネルで制御する時代になってきましたけど、やはりこの物理的なボタンの、1つ1つ指先で感じて操作するからこそ機能するディティールって良いですよね。プロ向けってこうありたいよなあって思います。

さて次に、ハンドルの部分に関しては、何か工夫した点はありますか?

ハルタ
ここはまず「ただの丸い棒」にできたことがすごく嬉しいです。ここがシンプルだからこそ、持ち運ぶ時にも文字を入力するときにも邪魔くさくならないから。

ハルタ
実はこの棒、表面のシボ(微細な凸凹)を本体とは違うものにしてるんですよ。


アオキ
本当だ、よくみると、本体よりも荒いと言うか、模様がついたシボになっていますね。

ハルタ
ここは、カメラのグリップのような皮のシボを目指しました。ちょっと浅めのシボになっちゃったのが残念ではありますが、本体とハンドルとで質感を変えることができてよかったなあと思っています。


アオキ
たしかに、質感を変えることでより一層「パッと持ち運べる道具なんだよ」というのが伝わる気がします。

話が変わって、実は、個人的にかなりびっくりした部分があるんですけど、その質問して良いですか?

ハルタ
はい、どうぞ。


アオキ
本体右側面についてトリムカット装置の部分あるじゃないですか。

これ、出っ張りを出っ張ったままにしたことがビックリしました。


ハルタ

え、そうですか?


ごまかしのない潔さを



アオキ
普通はこういう「中身の都合で出っ張っちゃいました」っていう部分って、なんとか本体と馴染ませようとする。

たとえば前機種のように面をつないだりして、どうにか本体と一体化を図ると思うんです。

でも今回のものは、全く別個のものがくっついているように見せていて、しかもそれがシンプルなまとまりとして成立している。

「なんだこれは!」って思いました。

ハルタ
そ、そうですか?

たしかに僕も最初は馴染ませようとしていろいろ考えていたんですけど、実際に機能として別のものなんだから、別の塊として存在した方が使う人にとってもわかりやすいかなと思ったんですよね。


アオキ
それに関連して、底面の塊、そして、立たせるための細い小判型の足。

これらも全部「別の塊がくっついている」という見せ方になってるし、なおかつそれが全体に共通するテーマとしてシンプルにまとまっている。

実は治田さんが主担当をした象印STAN.のポットもそんな感じですよね。ポット本体に、注ぎ口となる小判型の塊がくっついているような感じ。

あれ見た時も「すげー!絶対に思いつかない」って思ってました。

ハルタ
そ、そうかなあ。普通にやっちゃってるなあ。


アオキ
あ、そういえば、象印STAN.自動調理鍋の取っ手部分も、四角形の塊が横にくっついてる形でしたね。

ここ見ると形の考え方の違いがわかりやすいですよ、同じく自動調理鍋の後ろの部分。

普通はこう言う感じで、添わせるような形状にすることが多いんです。でも、ほら、取っ手の部分だけは、塊がくっついた感じになってる。

ハルタ
たしかにSTAN.のときも、この2つの場所は意識して変えてますね。



ハルタ
いったん話をTEPRA PRO に戻しますと、なんて言うんだろう。一体「かのように」見せたり、なんとなく馴染ませるんじゃなくて。ごまかしのない潔さってあると思うんです。

今回のTEPRA PRO は、とくにプロ向け、業務用のハイエンド機種ということもあって、プロらしい潔さをあらゆるディティールでも感じられるようにしたかったっていうのは、あるかもしれないです。


アオキ
もうこれは、治田さんの熟練の技ですね。くそー、いつか真似したいな。

アオキ
他にも細かな部分でもう1つ質問があります。このテープの出口のあたり。

 前機種だと、穴の周りの面がねじれていて複雑な印象になっているけど、今回の機種は比較的スッキリまとまっていますよね。

ハルタ
ここも、考え方の違いですよね。

前機種は、キーボード面を主役として全体形状をつくっている。でも穴はそれとは全然違う角度だから、面に矛盾が生じてしまうんです。

今回の機種はまず穴ありきで、そこから周辺の形状を整理していったから比較的シンプルまとまりになることができたんだと思います。

アオキ
なるほどー。思考の出発点というか、優先順位の違いが出てるんですね。


アオキ
最後に、とってもマニアックな話なんですけど。いいですか。


ハルタ
はいどうぞ。


アオキ
プラスチックの製品って「抜きテーパー」と言って、金型で効率よく製造するときについてしまう3度くらいの傾斜面が存在するんです。

今回の機種は一見シンプルな二等辺三角形の塊に見えるんですけど、実はこっそり側面に抜きテーパーがついてますよね。


ハルタ
はい、後ろから見るとわかると思うんですけど、結構ついています。

アオキ
僕はこれを感じさせていないことがすごいと思ったんです。

製造で無理してコストアップして抜きテーパーをつけさせないようにするんじゃなく、抜きテーパーがついているのに、結果として矛盾なくまとめるというところが。

ここは一体どうして、抜きテーパーが気にならないように出来たんでしょうか。


ハルタ
うーん、、意識してやっているわけではないので、説明が難しいですが。まずは二等辺三角形でまとめたおかげもあると思います。

垂直水平部分がわかりやすく存在しないから「抜きテーパー」の傾きにも気付きにくいのかも。

もう一つは、底面の塊の部分にもあるかもしれないです。ここの部分は製造に必要な抜きテーパーよりもむしろ急な角度をつけました。

ひょっとすると、こうする事で側面のちょっとした角度が気にならなくなった、ということなのかもしれないです。


アオキ
むむむう。。熟練の味。

アオキ
僕もがんばるけど、若い人たちも、この技術を盗んで頑張っていこうね!

とっても勉強になるインタビューでした。ありがとうございました!

ハルタ
いえいえ。こんな話でよかったのかな。ありがとうございました。




ハルタさんの熟練の味は、他の商品からも感じ取ることができます。ぜひ手にとって微に入り細に入り見てみてください。



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