【短編小説】お笑い芸人
「目の前にいる人の表情が、あなたの人生を表すのよ」
そう教えてくれたお母さんの表情はいつも悲しそうだった。
出来の悪い息子を見る目はどこか儚く、自分の惨めさを思い知らされた。
だけどある日、お母さんは僕が披露した全力のモノマネに大笑いしてくれた。
その笑顔を見た時、僕も嬉しくて同じように笑った。
その時、たしかに目の前にいる人の表情は、僕の人生を表すのだと実感した。
それ以来、僕は誰かを笑顔にするのに夢中になっていた。
とにかく笑ってもらえるように。
そうすれば僕も笑える。
そして今、僕はピン芸人として賞レースに出場している。
やっと来れた決勝戦。
審査員席には憧れの芸人が座っている。
緊張のあまり口がぱさぱさになる。
いやいや、なに緊張してるんだ。
僕はバカだ。
バカだからこの芸風でここまで来れたんだろう。
僕のお笑いに知性なんか必要ない。
最後までバカらしく思いっきり暴れてやろう。
豪華に彩られたステージと、入場の音楽。
僕は裸一貫でステージの中央に向かう。
ピンマイクの位置を微調整して、大きく息を吸う。
「それではいきます。誇張しすぎたオリエンタルラジオのモノマネ」
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