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傷を愛せるか 増補新版/宮地尚子 読書記録#26

 トラウマ研究の第一人者によるエッセイ集です。
 学会や臨床の場における実体験や、書物やアートに触れた体験を通して、筆者が感じた「傷を愛すること」にまつわるいくつもの気づきが記されています。平易な言葉の中に深い洞察と医療への強い思いがあふれていて、かつ扱われるのは答えのない問いであり、解決不可能と思われるような人類の抱える課題です。それらを丹念に記述するその姿勢に、凄みすら感じるような一冊でした。
 トラウマ、性被害、戦争体験、PTSD……。それらは医療や科学では癒すことが出来ず、それらの存在は人間社会の限界を示しています。

 傷がそこにあることを認め、受け入れ、傷のまわりをそっとなぞること。身体全体をいたわること。ひきつれや瘢痕を抱え、包むこと。さらなる傷を負わないよう、手当てをし、好奇の目からは隠し、それでも恥じないこと。傷とともにその後を生きつづけること。

p224-5

 目を背けたい。無かったことにしたい。恥辱である。忘れ去りたい。抹消したい。そんな傷を抱えたまま生きること。
 筆者はそれをさまざまな角度から肯定し、そしてより良い方法について模索しています。その姿に私は励まされ、また尊敬の念を覚えました。


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