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天才による凡人のための短歌教室/木下龍也 読書記録#40

 序章「引き返すなら今である」が刺さった。確かに、短歌を作ること(短歌以外の創作も)とは生活に必須ではないし、必ずしも人を幸せにはしない。それでも創ることに、一体何の意味があるのか。

 そう、「いまこの瞬間」に対応できる最適なツールは短歌ではないのだ。短歌は過ぎ去った愛を、言えなかった想いを、見逃していた風景を書くのに適している。それらを、あなたがあなた自身のために、あなたに似ただれかのために、結晶化しておくには最適な詩型だ。記憶の奥にある思い出せない思い出を書くことには最適なツールなのである。思い出とはこれまでだ。そして、これまでに起きたことはこれからも姿かたちを変えて必ず起こる。だから、これからを生きやすくするための御守りとして役に立つ。短歌を作ることの利点はそれくらいしかない。

 「それでも短歌を書こうと思うのであれば」と、彼は作歌における実践的なアドバイスを多数伝授してくれる。具体的なコツや技法の話もあれば、創作の上での心構えやメンタル面でのアドバイスもある。これから短歌を作りたい人はもちろん、創作する人全般にとって有意義な内容だと感じた。
 個人的には、「心身ともに普通であれ」の項が特に印象に残った。確かに、健康の基準は人それぞれだ。しかし、心が乱されている時に無理に創作を続けてしまうと、きっと調子を崩す要因になる。「凪を待とう」。素直にそう思えた。

 これから創作活動を続けていく上で、迷い、立ち止まることもあるだろう。この本はそんな時の支えになるような、力強いメッセージ性を持つ一冊である。


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