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西の魔女が死んだ/梨木香歩 読書記録#38

 不登校の中学生「まい」は、「西の魔女」・英国人の祖母の家で暮らすことになりました。このおばあちゃんがまた不思議な魅力を持つ人物なのです。彼女を手伝って庭仕事をしたり、のんびりとくつろいだりしながら、まいとおばあちゃんとの生活はおだやかに続いていきます。
 ごはんの味や土を踏む感触、風の匂いや温度……そうした生の実感というべきものを大切に、暮らしの姿が丁寧に綴られていきます。

 そしておばあちゃんによる『魔女修行』。魔女になるには、まずは規則正しい生活が大切だそう。そして「自分のことは自分で決める」これが魔女にとって一番大事だと、おばあちゃんは言います。非日常への架け橋は、日常の積み重ねによって作られる。これは素敵な考え方だなぁと思いました。

 ある事件を機に、まいは死について思いを馳せます。それは身体を、魂を、考えることにもつながっていきました。死んだらどうなるのだろう、と悩むまいに、おばあちゃんは魂の在り方について説きます。そして、こんな約束をしたのでした。

「おばあちゃんが死んだら、まいに知らせてあげますよ」
と、おばあちゃんは軽く請け合った。
「ええ? 本当?」
 まいは一瞬喜んだが、すぐにきまり悪そうに、
「あの、でも、急がなくても、わたしはただ……」
 おばあちゃんは、珍しいことに大声で笑った。
「分かっていますよ。それに、まいを怖がらせない方法を選んで、本当に魂が身体から離れましたよって、証拠を見せるだけにしましょうね」

p124-5

 魂のかがやきが、人を喪失から救い出す。まばゆく美しいラストに心動かされました。生きることについての、ささやかでかけがえのないメッセージを受け取ったように思います。

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