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家出のすすめ/寺山修司 読書記録#30

 寺山修司はこう言いました。「家出」とは、家という暗い桎梏・制限を打破し、自我を獲得するための重要な手段だと。
 家を捨て、母を捨て、血を捨て……そうして若者たちは個人として自立していくというのです。

 本文は4章構成で、「家出のすすめ」「悪徳のすすめ」「反俗のすすめ」「自立のすすめ」に分かれています。

 悪とは何かを問い直し、それを通じて新たなモラルを発見するための思索と行動。

 科学的なものや合理性に反抗し、ときに苦い人生の味わい(恍惚と不安)をも受け入れることで、人間性を回復していくという思想。

 真の自由を得るために、自らを疑いながら自発的に生きていくこと。何かから逃れるのではなく、未来への選択権としての自由を希求すること。

 題材もさまざまな論稿を通じ、寺山は呼びかけます。青年達よ、家出せよ。そして自由な意思と自我を獲得せよ、と。

 ところで、私がこの本を4-5年前に読んだ際、印象的だった一節がありました。それは「吃音クラブ」と題されたコラムです。当時の私はどもりに悩んでいて、スイスイと話せないことに相当なコンプレックスを抱えていました。しかし寺山はこう書いています。私はこの力強い言葉に、随分と勇気づけられたことを覚えています。

 ぼくは、はやりの「現代っ子」のなかでも、ドモリ的要素のない子は好きではありません。精神の屈折のない子に何で明日をまかせられるものか。
 (中略)言葉もまた肉体の一部である。完全な肉体が、人間として失格であるように……、ドモリながらつぎの言葉を選ぶときの、言葉への新鮮な働きかけがないならば生きる歓びもまたないでしょう。

「吃音クラブ」p153

 寺山の思想は急進的・破戒的ではありますが、その合間にどこか人情・人間味のようなものもまた感じられます。
 ユニークでパワフルなこの「家出論」。とくに若い人には是非読んでほしい一作です。


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