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天国旅行/三浦しをん 読書記録#35

 「心中」をテーマにした短編集です。生と死について独自の切り口を持った全7編が収録されています。
 「心中」の1テーマだけでここまでひねれるのか! と驚きましたが、考えてみればそれも当たり前かもしれません。
 なぜなら、心中は一人ではできないから。必ず二人以上の人間が絡んでくる、そこに関係性のドラマが生まれるのでしょう。

 タイトルの「天国旅行」は、THE YELLOW MONKEYの同名楽曲から引用されたもの。

せまいベッドの列車で天国旅行に行くんだよ
汚れた心とこの世にさよなら

THE YELLOW MONKEY「天国旅行」

 収録作の中では「星くずドライブ」が一番好きです。霊が見える主人公の英太と、死んで幽霊になってしまった恋人の香那。彼らの道行きは、切なく物悲しいラストへと導かれます。しんみりした読後感に浸りたい時におすすめです。

 眼下には街の灯が見える。たくさんのひとが暮らす街。僕が知っている友人や先生や近所の住人は、そのなかのほんの一握りにすぎない。顔も名前も知らない、道で行きあっても幽霊みたいに互いに目もくれずに過ぎていく大半のひと。彼らにとって僕は死者に等しいし、僕にとっての彼らも同じくだ。そんなふうに考えながら夜の街を眺めおろすと、すでにあの世にいるような気分になってくる。

p245 「星くずドライブ」より 

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