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白河夜船/吉本ばなな 読書記録#27

 「眠り三部作」と題されたこの短編集。そこに共通するのは、「喪失と再生」のモチーフです。

 死者を取り巻く生者たちの思い。故人が起こすある種の磁場の中で展開するストーリー。大きな喪失を抱えた登場人物たちは、その途方もない暗さと寂しさに打ちのめされます。

 「白河夜船」では、近しい人を喪ったふたりの男女が恋仲になります。「夜と夜の旅人」では、恋人を亡くした従姉妹の喪失を、見つめ続ける「私」が描かれます。「ある体験」は、喪ったはずの旧い知人と超自然的な力で再会を果たす話です。

 「喪失」の後には「再生」が訪れます。人は大きな喪失に直面しても、長い時間とともに徐々に回復していきます。人間の体の持つ再生力は、不思議と力強いものです。そうしたことが三つの物語に表れていました。
 自らの行動によって、他者の助けを得て、あるいは偶然の導きで。喪失感はいずれ薄れていき、彼女らは日常に帰っていきます。

 よしもとばななの文章からは、その独特な世界の見方を、率直な言葉でわたしたちに伝えてくれるような、あるいは日常と地続きの非日常を、鮮やかに切り取ってみせるような、そんな印象を受けます。もっと読んで理解を深めていきたい。

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