見出し画像

生活中心主義

目が覚めるとキッチンで。

左腕がビーンと痺れていた。

キッチンの窓から陽はなく、
代わりに向かいの部屋の灯りがかすかに差し込んでいた。

50cm先に放り出されたスマホまで這う。

21時。

確か僕はお昼ご飯を食べるはずだった。
それが最新の記憶。

その証拠に鍋には米がぶくぶくと膨れていた。

ああ、やってしまった。

ぼやけた頭で情報を整理する。

・今は夜
・米はぶくぶく
・左腕がビーン
・ついでに体のあちこちが痛い
・熱は?ない
・周囲に吐瀉物?ない
・床からツンとしたニオイ。胃酸か胃液か。
・気分は最悪
・気持ちはタイムスリップ
・こんなタイムスリップ最悪だな

笑う。

・納期は明日まで
・んで?
・頑張った
・んで?
・意識飛んだ
・んで?
・寝てた
・どこで?

キッチンの床で。

・・・なるほど、つまり納期は明日か。
明日?明日の何時だっけ。

急いで、パソコンを見るとメールが溜まっていた。
ん?納期は明日のはず。

・・・やってしまった。
納期は今日だった。

あーーーーーーー

とりあえずごめんなさいした。

そして何がどうなってこうなったのかなるべく客観的に説明した。
謝罪のコツはまずは事実と原因と対策を述べること。
幸い先方は許してくれた上で「何かあったんですか?」と電話までかけてくれた。

「あー、そのー、倒れちゃって」
「え?!」
「キッチンで半日ほど、寝てました」

謝罪までしてもらった。

何度目のタイムスリップだろうか。
今月は3回目だったかも。

いい加減自分のキャパを覚えなければならない。
お酒と一緒だ。

米は雑炊にした。

適当に具を入れて、味付けをして、ネギをたくさん入れた。

「もっと働くの減らそ」

これも何度目かわからない。
ただこの”タイムスリップ雑炊”を食べるたびに思うのだ。

仕事を人生にしてはいけないなあ、と。

意識はしているんだ。



「生活中心主義」


冷蔵庫に太字で書かれている。
そう、生活が中心で、それを成立させるために働くのだ。

お金をかけなくても楽しめる才能が僕には備わっていた。

だからこの生活を選んだ。
就活も就職もしなかった。仕事を調整できる働き方にした。

でも結局、張り切りすぎて倒れるのだ。
これも生来のものなんだろう。

今日も自戒。

冷蔵庫。
先月のカレンダーの裏面に太字で書かれたメッセージ。


生活中心主義!!!!!


僕よ、僕のことをよくわかっているじゃないか。

窓際に緑茶の茶殻が干されている。
これは掃除に使う。僕の部屋は和室だから。

みかんの皮も干している。
納品した日はみかん風呂に入るのだ。

ほうじ茶の茶殻は消臭・除湿剤に使う。

最近は緑茶が好きだ。

深夜、薄暗いキッチンで緑茶を啜るのが好きなんだ。

小さな丸いすにちぢこまって、ずずっと。
ラジオを最小ボリュームで流すんだ。

眠くなったら眠る。

そんな生活。

収入はかなり少ない。
それでも満足。
そもそも仕事を断りまくって実現させたんだ。

生活中心主義。

常に意識しないと忘れてしまう。

手を抜くとは違う。

仕事に私情は入れない。
そうしないと今回みたいになる。

仕事は必要悪。

それが僕。

生活費になります。食費。育ち盛りゆえ。。