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付着.20 図書館と、特別な場所

早いもので、もう20回目だ。なんとなく区切りがいい日は気合いが入る。少しでも読んでくれてる皆さんの明日がいい日になるように、精一杯テーマに向き合おうと思う。

今回は「と」だ。

読書家、と呼ばれる方々には遠く及ばないが、わりと本を読むことは好きである。あてもなく書店をうろついて、気になったものを購入。積ん読。気が向いたときに手に取る。基本的にはこれが本を読むまでの流れだ。

その為、返却というシステムと合わないからか、単に空間が恥ずかしいのか、図書館を利用したことがない。正確に言えば一度だけ入ったことはあるのだが、本を借りたことがない。

そんな自分だが、今日は「図書館」というテーマで書いてみたいと思っている。簡単に言えば衝動だ。春がすぐそこまで来ているからだろうか。たった一度の図書館に置いてある、少し甘酸っぱい想い出の話。

学生時代の俺は読書とは無縁であり、テストの点数も1桁ばかりだった。本とはインテリの為のアイテムであり、一生関わることがないと思っていたほどだ。

義務教育も終え、出席しようがしまいが自由な高校生活。のんびりふらふらと過ごしていた。そして、二年生の夏。人生で初めての彼女ができた。とても頭のよい学校に通っていて、バスケ部のキャプテンをしていた。共通点0の彼女だ。

1つだけ繋がりがあったとすれば、俺が高校で授業をうけている先生の娘ということだけだった。先生はさぞや心配したことであろう。

出会いは友人に誘われた花火だ。大きな花火大会ではなく、公園に集まってコンビニの花火をするだけの、いわば暇潰しである。そこで彼女と出会ったのだ。

それぞれの自己紹介を聞いていると、聞き覚えがある単語が耳に飛び込んだ。まさかと思い聞いてみると、やはり先生の娘であり、俺のことも少しだけ知っているようだった。その夜、連絡先を交換してメールのやりとりが始まった。

あまり女性とメールをしたことがなかったので、単純に嬉しかったし、いつからか好きだなぁと思うようになっていく。

その後、地元の大きな花火大会に一緒に行くことが決まり、そこで付き合うことになった。初めての彼女と花火を見ながら歩く。普通ならこれが大きな想い出になるのだろうが、花火大会の記憶がない。花火が、人混みが苦手だったからだろう。

付き合って半年くらいだったと思う。期末テスト前のある日、いつものように昼過ぎまで寝ているとインターホンの音で目を覚ました。母親が玄関で誰かと話しているが、眠いのでもう一度寝ようとしていると下から母親の呼ぶ声がする。(俺に用事?誰?)しぶしぶ階段を下ると、玄関に彼女が立っていたのだった。一体何が起こっているのか理解が追い付かない。間抜けた顔を見て彼女が笑っている。

「どうせテスト勉強なんかしてないんでしょ!?一緒に図書館行くよ!」

テスト勉強?図書館?図書館って勉強するところなの?プチパニックになりながら、とりあえず支度して家を出る。彼女を自転車の後ろに乗せて図書館へ向かった。ママチャリには彼女を乗せるための座布団がくくりつけてある。よく駅まで迎えに行っていたし、結構尽くしてたんだぜ。w

初めての図書館に緊張しながら、言われるまま中に入る。本棚だけかと思っていたが、学生の為の勉強部屋があり、机はほとんど満席だった。(うげ、皆こんな所で勉強してたのか。)重苦しい空気に圧倒されながら、彼女の隣にそっと座った。

未だに新品同様の綺麗な教科書と、白紙のノートを広げる。「分からないところがあれば教えるから声かけてね。ちゃんと勉強するんだよ。」耳元で彼女が囁いているが、そもそも勉強のやり方からわからない。

物珍しい空間をキョロキョロと見回し、「ねぇねぇ、あの人格好ばっかで全然ペン動いてないよね。」「あ!あいつ中学一緒!なんか真面目に勉強しててウケる。」暇なので一応音量に注意しながら、彼女に語りかける。「もう。うるさい。ちゃんと勉強しろ。」小声で怒られるのが楽しくて、何かにつけ話しかけた。それを無視もせず、その都度彼女も怒るのだった。もちろん勉強は進んでいない。

結局最後まで邪魔しただけだったが、真剣な彼女の顔や怒った顔が新鮮で、帰りの自転車はペダルがいつもより軽く感じた。背中で受け止めていた文句の声も、どこか嬉しそうだったのを覚えている。花火大会よりも、遊園地よりも、一緒に行ったどんな場所より、この日の図書館が一番楽しかった想い出だと思う。

ありゃ。軽いノリで書き始めたが、なんだか懐かしくて楽しかったな。

もしかすると、図書館という自分にとって特別な場所を、日常の風景にしてしまうことが寂しくて足が向かないのかもしれない。

風の噂では遠い街で結婚し、先生になって母親になって、毎日奮闘している様子だ。彼女にはもう会う機会もないだろうけど、いつかもし再会することがあれば、家の本棚にある一番難しそうな本をお土産に持っていこうと思う。

図書館の想い出話と一緒に。

皆さんにも特別な場所はありますか?日常になってしまった風景も、思い返すと大切な場所なのかもしれませんね。

明日もあなたが頑張って歩いてきたこの世界を素晴らしい1日に。

「特別」は意外と近くにあるのかもしれないですよ。

「図書館」みたいに。

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