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風鈴(超短編小説)

 都会の風はいつでも気味が悪くなるから嫌いである。私は二年前くらいからこの下宿で大学に通っているのだが、地下線も彼等の性格も慣れてきたものだが、この薄汚くねっとりした風だけは慣れない。特にこの夏に来る風は、味気なくて夏らしくない。


 そんな時私は故郷を思い羨む。故郷は田舎で、コンビニはそう簡単に見つけ出せるものではなかった。
 しかし自慢なのは夏の風は心地良かったことだ。それ故に私は時代遅れな風鈴をかけた。
 この風鈴を私はこの都会に期待してわざわざ持ってきたのだが、風以外にも古きにも新たにもこの都会に裏切られたことは相違ないのである。

ああ気味が悪い。吹かないでくれ。心地良さがない。ねっとりしている。そんな風など吹くより吹かない方がマシだ。

  そう思いながら昼食をすませると、急にその風が吹かなくなった。あれまあと私は驚いた。それと共に解放感が私の部屋に溢れこんだ。大学の勉強が凄まじいほどにはかどった。うきうきした。やっとなにか気持ち悪い臓腑が取れたようで心地良かった。たとえ故郷のような風が吹かなくてもこの方がマシだ。たとえ風鈴が鳴かなくても...
 翌日の朝になるとなんだか孤独感が部屋に流れた。風鈴が鳴かないから心細くなった。それはそれで気味が悪かった。異様な孤独感が私の中でうねうね動くようになって、私はいつの間にかあの気味の悪い風を求むようになっていった。

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