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大倉山 その2~踏切速度と飛距離、2回目に進出できる飛距離、風の周期~


調べた理由

過去の記録を見ていくと、徐々に踏切速度が遅くなっている気がしたためです。実際に大倉山でゲートが5段増設されたとシーズン前に報道がありました(K点超え~ではなくHS超え~ではないかと思いますが、それはさておき)。

そこで、約10年間でどれほど踏切速度が遅くなったか調べました。
そして、2回目進出の目安となる飛距離(1回目30位の選手の飛距離)が変っているかも調べてみました、
また、前回大倉山で風の強さを調査しましたが、蔵王の回で調査した風の周期についても、1事例ですが調べました。

使用したデータ

2013年から2023年までのFIS公式記録のうち、踏切時の速度、飛距離、風速の各データを使用しました。

なお、飛距離についてはヒルサイズが2016年以前は134m、2017年以降は137mと異なるため、飛距離をヒルサイズ比に換算し、比較しています。

また、風速は全ジャンプの平均値を使用していますが、踏切時の平均速度は基本ゲート時の平均値を使用しています(計算が煩雑になるためご了承ください)。

また、ヒルサイズ改修前後でジャンプ台に何等かの変更がされているはずですが、過去と今のプロフィールの相違まで調べられませんでしたので、そこもご了承ください。

踏切速度と飛距離

①昼の試合

まずは、昼の試合についてですが、踏切速度は年々、遅くなる傾向にあります。風速の違いはあるものの、2013年は平均速度が88.7km/hあり、この時の助走路の長さは85.6mでした。一方で2023年は平均速度85.2km/hで3.5km/hも遅く、助走路の長さは79.7mで5.9m短くなっています

図1 昼の試合の平均踏切速度と平均風速

では飛距離はどうでしょうか。

図2 昼の試合の踏切速度と飛距離

2023年と、平均風速の数値が比較的近い2013年に比べると、2023年は明らかに踏切速度が遅くなっているほか、HS比で90%以上(ほぼK点)の飛距離を出す選手が多くなり、飛距離のバラつきが小さいことがわかりました。ジャンプ台の改修、風やゲートの影響もあるのでしょうが、選手の実力差は小さくなっていると考えます。また、HSを超えるジャンプも増加しています。

②夜の試合

では、夜の試合ではどうでしょうか。平均風速のバラつきは大きいですが、長い目で見てこちらも踏切速度は年々、遅くなる傾向にあります。なお、2023年の2試合目は助走路の長さ81.2mで踏切速度87.0km/h、比較的平均風速の近い2015年の試合の助走路の長さは84.6mで踏切速度88.5km/hで、3.4m短く、1.5km/h遅くなっています。
なお、2023年の2試合目と2020年を比べると、踏切速度の差が比較的小さい(0.7km/h)にも関わらず、平均風速で1.5m/sもの差がありました。

図3 夜の試合の基本ゲート時の平均踏切速度と平均風速
図4 夜の試合の踏切速度と飛距離

2023年と、平均風速の数値が比較的近い2015年に比べると、2km/hほど踏切速度が遅くなっており、ほとんどの選手がHSで90%以上(ほぼK点)まで飛び、全体的に飛距離も伸びていることがわかりました。2015年には見られなかったHSを超えるジャンプも出ています。また、選手ごとの飛距離のバラつきは、昼の試合と比べると、元々小さいようです。

二回目に進出できる飛距離はどれくらいか

2013年以降の、1回目30位の選手の飛距離を調べました。
ポイントをとれるかどうかは、選手にとって非常に重要です。
※30位や29位が複数いる場合は、より飛んだほうを採用。

すると、だいたいHS比で88%、HS137mの場合は約120mとなりました。
年により多少のバラつきはありましたが、K点手前まで飛べば2回目進出が可能になるかと思います。

表 大倉山の1回目30位の選手の飛距離

風の周期

2023年1月22日(昼の試合)の大倉山の風の周期を見てみました。
この日の平均風速は1回目が1.64m/s、2回目が1.53m/sでした。
順番が一つ異なるだけで、0.5m/sくらいの風速差がよく見られ、中には1mを超える風速差もありました。これだけの風速差がありながら、2回目に飛んだ選手はほとんどがK点以上の飛距離を出していたのが驚きです。

図5 大倉山の風の周期

図2をもう一度掲載します。

図2 昼の試合の踏切速度と飛距離

まとめと考察

踏切速度は、年を追うごとに明らかに低下しています。この要因として、ジャンプスーツのゆとり幅の拡大飛距離が出やすくなり、選手の怪我リスクを考慮し助走距離を抑えた試合運営になったことが考えられます。
加えて、追い風のウインドファクター補正の強化で条件の不条理さが是正され、今まで以上に選手があきらめずに飛ぶようになったことも要因と考えます。
一方、選手にとって重要な2回目進出できる飛距離(1回目で30位の選手の飛距離)はHS比で大きく変化しておらず、K点の少しだけ手前であることがわかりました。
また、2023年の試合の風のバラつきは一人ごとに0.5m/sくらいはありますが、それでも多くの選手がK点付近まで飛んできています。全体的に選手間の実力差が小さくなっていて、飛距離差が縮まっているのではないかと思います。
全体として、踏切速度は遅くなっているものの飛距離は伸び、選手ごとの飛距離の差が縮まり、試合がスリリングで面白くなってきていると推測されます。

予告

大倉山で2月17日、18日に開催されるスキージャンプ男子W杯を現地観戦します(16日金曜の予選も)。当日の写真など掲載できればと思っています。


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