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派遣王女☆ウルスラ / 第19話(4,060文字)


ガルド婆の話(宇宙魔王論)



扉絵



1頁 あっちの、りゅうおう城



カテリオンZは海中をガシガシと突進する。今週も全国津々浦々から寄せられた読者からの海中シーンで使われるキャラが満載だ…二匹の赤い魚が目になって巨大トレーラーロボットに変形する魚たち…確変大当たり確定のプレミアム魚群…映る自分に惚れて鏡の国に入りこもうとするマンボウ…ボッチたちが乗るカテリオンZもまたそんな海底の道を何日も歩きつづけて巨岩が割れた狭間の道をすすみ戦士の甲冑と骨がゴロゴロと転がる海溝の滝にで、そこをロープで降りて海底の森へと入っていき、暗い森の道をすすんでいった…眼のない金剛インコがせせら笑う森をすぎると海中の草木はますます油断できないほどの獰猛さで脚元に絡みついてくる…岩が笑い…さえずり…木々はさけぶ…絶叫する声は次第に遠のいたり近づいたりでかぎりなく陰鬱な景色の沈黙の森を歩くことになる…カテリオンZもまた明かりはきれ非常用の電源に切り替わり…わずかに発光する苔の灯りを頼りにパイロットたちはみなは夢遊病者のようにそれぞれが見る魔王の悪夢に苛(さいな)まれ…ほとんど口を聞くこともなく眠ったように暗い岩穴をひたすら進んでいった…岸壁に《気にするな、前に進め》という看板を見てボッチは「やはり引き返えそう」と後退し始めた…ほかのみんなは海底の森に疲れ切ってベッドに寝ていて誰もその間違いに気づかなかった…ボッチが操縦するカテリオンZはある魔王の古城の門を両手でギィと推してそのまま魔王の城に踏みこんだ…



2頁 顔がぼやけてる




カテリオンZは巨大な城門の前で止まった

ボッチとルーシーとカテリーナは地上へ降り立った

タッ

ボッチはなぜか鎖帷子に鉄兜に鉄の槍を身につけている
ルーシーは胸に黄色地に白抜きの十字の前かけを垂らしてベルベットのベレー帽をかぶっている
カテリーナは三角帽子をかぶり緑色の法衣をまとって杖をもっている

城のなかではシンセサイザーで作られた西洋風の音がピコピコと鳴っている

カテリーナは汗をふき
「これ、あっちの龍王の城でしょう…」

ボッチは
「ええ、8ビットのやつです」

顔がぼやけているドット絵の魔王が登場
「わしの仲間になるか。さすれば世界の半分をやろう」

「 ☞ はい    」
「 ☞ いいえ 」

ボッチはカテリーナにヒソヒソ話をする
「『 ☞ いいえ 』を選ばないとずっと戦わないやつですよね」
カテリーナは
「そうね」
ボッチは
「このまま立ち去りましょう」
カテリーナは
「そうね」

顔がぼやける魔王はドット絵が粗く小さくなる

「…わしの仲間になるか。さすれば世界の半分をやろう」

「… ☞ はい    」
「… ☞ いいえ 」



3頁 旅のつづき




カテリオンZはりゅうおうの城のシルエットを後にして歩く
操縦席に座るボッチにカテリーナは話しかける
「なんであっちのりゅうおう城に寄ったのかしら…」
ルーシーは
抹茶アイスを舐めながら首を傾げる
ボッチは
「冒険にはちょっとした無駄も必要…」
「ってことなんじゃないでしょうかね」

「急ぎましょう」


4頁 みんなそろったね


こっちの龍王城

ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ザザッ

カテリオンZは止まって片ひざをつく。ボッチ、ルーシー、カテリーナ、キヨさんはカテリオンZの手のひらに乗って降りてくる

タッ

待っていた捜索チームは
「こんわっち!!」

到着した基地チームは
「はい、こんわっち!!」

カフカとアリスは
「これでみんなそろったね!!」


キヨさんはドワーノフの前で膝をつき拳を胸にあてる
ドワーノフは慌てて
「キヨさん違います。私はロンゾ将軍ではありません」
キヨさんは
「なんと!!」

カテリーナはいう
「キヨさんももう昔のキヨさんじゃないのよ」
ボッチとカテリーナとルーシーは
扇状になって膝をついて中央に立つ魔改造されたキヨさんを指さす

ジャカッ!!



5•6頁 魔改造キヨさん



ガシャンッ、ガシャンッ、ガシャンッ、ガシャンッ!!
キヨさんはカテリオンZとおなじ大きさに巨大化した

シャキーンッ!!

巨大化したキヨさんの体からあらゆる武器が…刀…鉈…大薙刀…ナイフ…細剣…大槌…棍棒…多節棍…ヌンチャク…槌矛…ナックル…風磨手裏剣…マカナ…ジャマダハル…鉄扇…モーニングスター…七枝刀…手甲鉤…チャクラム…鎖鎌…フランベルジュ…蛇矛…シャムシール…暗殺ペンなどが飛びだした

カフカとボッチは
「マシンガンとか手榴弾とかはないのか…」
「大砲とかミサイルとか…」



7頁 ドワーノフの話(宇宙時間) 



シータ竜王妃の間

満漢全席のテーブルにて
ウルスラ、ルーシー、ボッチ、ガルド婆をはじめみんなで料理をたべている
カフカはツバメの子安貝のから揚げをバリバリと頬張りながらいった
「それで、ドワーノフ」
ドワーノフは蓬莱の玉の枝の砂糖漬けをぽりぽりと噛みくだいて
「はい。カフカ王子さま」
カフカは継いだ
「…その計算が合わないってのはどういうことだい?」
ドワーノフは両眼をサーチライトにさせて宮殿の垂れ幕に宇宙の暦をスライドで映しだした。それは壁画のごとく宇宙の始まりから現在、さらには宇宙の終わりが描かれている
ドワーノフは話をつづけた
「この宇宙暦はカフカさまやカテリーナさまがすむ星つまり世界ガルド連合国政府の暦の時間軸によっての尺度になります。1分が60秒という計算です」
そういってドワーノフは右眼でデジタル時計を映しだす。

ピッピッピッピッピッピッ……と時間はすすむ
「フムフム」
みんなはうなずく。シータ姫はドワーノフに促されて懐から懐中時計をとりだして、ドワーノフに渡す。ドワーノフは懐中時計を眼窩にはめこむ。するとガルド星の時間の隣にもうひとつの時計が映しだされる。カチカチと時間がすすむ

ピッピッピッピッピッピッピッピッピッ…
チッカチッカチッカチッカチッカチッ…

ドワーノフは話をつづける
「時空は重力によって曲がり、計測する場所と観察する場所により相対的な誤差は生じる。それは重力の重さに比例します。むずかしくいえば「統合相対性理論」となりますが、これを使ってしゅるしゅると計算をしますと、この星が1000光年すすむとガルド星は1001光年すすむ計算になります。このふたつの星の距離を計算しますと、一見それほどの時間の誤差はないように感じます」
ドワーノフはさらに話をつづける
「世界ガルド暦に換算して十年前に出航した探査船《13号》が行方不明になりこの星では…」
ドワーノフはシータ姫を見る
シータ姫は牡蠣鍋をつつきカフカの肩の紋章を睨み
「この星に宇宙船《13号》が着陸したのが五千年前。といわれております」

カフカは驚く
「ご、五千年前ッ!!」
「ちまり、これはいったいどういうことなんだ?」
ウルスラはルーシーやガルド婆に鍋をつつき
「これ味が染みてておいしそうだね無くなっちゃう前に食べよう」
ガルド婆はルーシーに
「この五色にかがやく龍の首の珠は味が染みてほんとうに美味いぞな」
三人でモグモグモグと食べる
カテリーナはカフカにツッコむ
「ツッコむところは五千年前じゃないわよ」
アリスは訊く
「どういうこと?」
カテリーナは
「こちらから観測すればガルド星は時間が逆光しているってことよ」

ギョギョギョッ!!
アンビラバランチョリンッ!!

ズッコケる

カフカはさけぶ
「ぼくたちは星に帰ったとしても浦島太郎状態になってるのかッ!!」
アリスはカフカに
「大先祖がえりしているんじゃない?」
カテリーナはテーブルに肘をついて目でガルド婆をみる
「そこで、ここに時空を飛び越える箱からガルド婆が現れたってことなんじゃないかしら」

キュイラーンッ!!

全員の目が光ってガルド婆にスポットライトが当たる

ガルド婆は視線を感じ
「…美味しいのお、なかなか食えるもんじゃわい…へっ?」



8頁 ガルド婆の話(宇宙魔王論)



ガルド婆はシータ姫に
「この星には宇宙博士と魔王博士と勇者博士はいるかな?」
シータ姫は答える
「以前はいました。わが龍王軍総大将であったロンゾ将軍その人です。宇宙と魔王と勇者の研究をすべてを兼ねて、国防将軍としてこの龍王城の国防大臣をしておられました。ですがメデューサ=キエニスの戦いで戦死され、いまはおりません」
ガルド婆はうなずいた
「皆のためにすんごく簡単に説明するぞ」
カフカとアリスたちは唾をのんでうなずいた
ガルド婆は話をつづけた
「まずこの宇宙の話を聞く前の、前提としてじゃが…」
「宇宙はいまだに我々の見知らぬことばかりじゃ」
「それをふまえて宇宙を魔王や勇者に喩えるなら」
「この宇宙にはあらゆるものを呑みこむブラックホールが存在する」
「ブラックホールは重力が非常に重い。一度のまれると光もでられん」
「宇宙には銀河が無数にある。その銀河は細胞分裂のように銀河同士でぶつかりあいひとつに合体したり、ぶつかって弾けて新たな銀河に生まれ変わったりする」
「それがいま我々がわかる宇宙じゃ……」
そういってガルド婆はまた五色にかがやく龍の首の珠のスープをすすり始める

ズコーッ!!

カフカは
「説明が雑すぎて、ワカラーンッ!!」

カテリーナは
「わからないことないわ。ガルド婆はブラックホールや銀河を魔王や勇者に喩えているんじゃないのかしら? 質量と重力と重すぎて人間の欲望からなんでも吸いこむ魔王、銀河の衝突で新たに統合されたり生まれ変わったりする勇者たち……」

ギョギョギョ!!

「ガルド婆ってすんご〜い!!」

ガルド婆は
「だって、わし、前魔王っていうとるじゃろうに…」

ズコーッ!!



7頁 17のブラックホールと17魔王の仮説



ドワーノフは話を引き受けてガルド婆に話す
「そこで現在、ガルド星から探査船に乗って到達できるブラックホールが17個発見されている。こういうことでよろしいでしょうか?」

ガルド婆はうなづく

アリスは驚いて
「おお! ただの暇つぶしのギャグ漫画だと思って馬鹿にしてたけど、ちょっと頭が良くなった気がするわ」

ズコーッ!!

ウルスラとルーシーは
「ゲップ、ずいぶんと食べたね。今日はもうお腹いっぱい」

ボッチはふたりを睨んで
「…意味深発言だ…」



第20話へつづく

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