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《語彙の三語三文》:手書き帖 4.30〜5.6


2775文字・15min


四月三十日(火)


【宵の口・よいのくち】
⑴八時や九時はまだまだ宵の口だ。もっと飲もう!
⑵われわれは宵の口、二時間をかかって、例の仕掛けを施した。
⑶宵の口、宵の年、わたしは宵の明星を見上げる。私の出所まであと四十五年……。

【渇・かつ】
⑴渇をおぼえる。
⑵いくぶん、渇は癒えた。
⑶「渇を臨みて井を穿つ。せんせい、意味を教えてください!」
「まずじぶんで調べる癖をつけなさい」
「だってー。しりたいんだもーん」
「必要に迫られてから慌てて準備をしても間に合わない。その喩えだ」
「へー。(ほじほじ)」
「きみ、いまいくつだ」
「四十五でーす」
「なにかやりたいことは?」
「あります! 小説家になりたいです!」
「渇を臨みて井を穿つ」
「ギク!」

【喝】(オマケ)
「豚喝(とんか)ァーつ!」(うる星やつら➡︎錯乱坊)

【凡俗・ぼんぞく】
⑴凡俗の迷い
⑵凡俗の徒
⑶凡俗な考えに走る




五月一日(水)


【フーテン・瘋癲】
⑴「フーテンって漢字、むずいね」
「どうかくの?」
「瘋癲」
「カタカナでいーね」
⑵「奴は、フーテンだ。精神が正常ではない」
「それは差別じゃないか?」
「寅さんは? フーテンの寅さんは? あれは差別か?」
⑶「おれはフーテンさ。社会からはみ出て、啖呵売(たんかばい)で日銭を稼ぐ。はいそこのお嬢ちゃんおねえさん。お、ふりむいた! やっぱり美人だねぇ。このバナナ! ケッコー毛だらけネコ灰だらけ、お尻の周りはクソだらけってな! 」

【寡黙・かもく】
⑴「あいつは寡黙なフーテンだな」
「おまえはよく喋るフーテンだな」
⑵「わたしは寡黙は人が好き」
男は黙った。
⑶「きみのその寡黙さ、ぐっと惹かれるね」
「ベッドのなかではもっと叫べって言うくせに…」

【アカシア】
⑴アカシアってアカシヤとも書きます。よく歌になります。
⑵「マメ科のアカシヤ属の常緑樹の総称ってなーに?」
「アカシア!」
⑶私は王菲(ワン・フェイ)の「アカシアの実」が大好きで、諳んじられます。




五月二日(木)


【名状・めいじょう】
⑴私は名状しがたい恐怖に襲われた。
⑵名状しがたい芸術作品だ。
⑶「せんせい、名状の類語を教えてください」
「表出、表白、発現、描出、形象化、体現、具現、表明、筆舌、表わす、言い表す、書き表す、名状する、形容する、あとは…」
「せんせい、それ以上の名状はもう結構です」
「どうだね、今の未熟なじぶんを一言で言い表してみなさい」
「名状し難いです」

【生棲・せいせい】
⑴「生棲ということばが辞書にない」
「この小説にはあったぞ!」
「どこだ」
「小松左京のアパッチ族、文庫版の五十五ページ」
「ほんとだ」
⑵「あれ、生棲が…いまでてきた。まなすさまじい」
あいつが出世するなんで生棲(なますさま)じい
⑶「生棲じい。とは《なんとなく、興ざめである》」
「そのことばもある意味すごいな」

【梟・ふくろう】
⑴梟は猛禽類です。
⑵狂言の「梟山伏」ってみたいなー。
⑶「梟来る夜も長し」猿の声/北枝(季・冬)



五月三日(金)


【一途・いちず】
⑴「いちずだなー。お前って奴は」
「そう言う言い方はやめろって」
「なんで?」
「まだ、死んだって認めたくないだけなんだ。本当は知っているんだ。あの日、あの津波で深雪は……」
「悪かったよ」
⑵「先生、三途の川があって一途の川ってないの?」
「ロマンチックだな。君は」
⑶「君は真面目すぎるんだ。あまりなんでも一途に思い詰めないほうがいいぞ」
「でも、この研究の成果がでないのは、私がわるいんでしょうか?」
「一度、女にでも抱かれてみろ。そこに、何かが見つかるかもしれないぞ」

【塩辛声・しおからごえ】
⑴穴から塩辛声が聞こえてきた。
「おーい、もっと甘いの投げてくれー」
ドーナツを入れた。
「ありがとー」
塩辛声はじゃっかん、マイルドになった。
⑵穴から塩辛声が聞こえてきた。
「暗いよー。怖いよー」
落語の「まんじゅうこわい」を聞かせてやった。
「おーい、濃いお茶をくれー」
⑶「塩辛声になりたい」
「売れないから声を潰すのはナンセンスだぞ。演歌以外に挑戦してみろ」

【ひょこひょこ】
⑴ひょこひょこと足の片方をひきずって歩く。
⑵「ひょこひょこと頭を下げてまわるあいつは何者だ?」
「弁護士だよ」
⑶「お前は誘えばどこへでもひょこひょこついてくるなー」
「もっと誘ってください」
「きみは太鼓持ちか?」
「へい!」




五月四日(土)

【苛む・さいなむ】
⑴「苛むってサディステックな時ですね」
「ワタシノナマエ、ミモココロ・デ・モ・サイナームデス」
⑵「苛むのが無縁な人って鬱にも無縁ぽい」
「事故って頭打てば、ひょうきんものでも鬱になるだろ」
⑶美恵!もっとおれを苛んでくれ。そのことばで!もっと!激しく!激烈に!ああ、最高だ!

【焦慮・しょうりょ】
⑴「焦慮に駆られて、手を出してしまった。禁断のアレに!」
「恋薬か?」
「濃い胃薬。なんちゃって」
「オヤジギャグ、キター」
⑵事業不振に焦慮して、じぶんを苛んだ。
⑶「おい、焦慮だの焦心だの暗いぜ! 今夜はパァーっと行こう!
「昭和か? ここは」

【天啓・てんけい】
⑴「天啓に打たれた!」
「どこで?」
「みたんだ!」
「だから何を?」
「あれが天啓だったんだ!」
「天啓はなにを受けるじゃない。何を伝えるかだな。お前を見るとよくわかるな」
「天啓だァ! 一、二、三、天啓ダァー!」
⑵天啓プリン、ただいま販売中です。
⑶天啓湯。本日、有ります。


五月五日(日)

【蒼穹・そうきゅう】
⑴「蒼穹ってカッコいいね。小説に使いたい」
「書き言葉だからな」
⑵これはあなたへの恋文だから。ぼくとあなたの心の蒼穹を広げたい。
⑶いまも蒼穹は広がる。あの日も同じ蒼い空だった。
(長編小説《蒼穹の巨人》の冒頭)

【パンツァー】
⑴パンツァーってドイツ語で戦車って意味だったんだね。
⑵ずいぶん前のパチンコの台にパンツァーナントカってあった?
⑶パンツァー(panzer)はドイツ語で鎧や装甲の意味。ただし、現代では「鎧」に相当するドイツ語はRüstungである。転じて、第一次世界大戦以降は戦車の事を指す(Panzerkampfwagenの略)。

【多・た】
⑴あなたの好意を多とする。
⑵この戦果は本部へ必ず持ち帰ります。きっと将官たちは我々の死を多とするにちがいありません。
⑶賢治は永年の妻の苦労を多とした。



五月六日(月)

【獄卒・ごくそつ】
⑴「やい、天罰しらぬ獄卒め」(浄瑠璃➡︎布引滝)
⑵「おれは地獄の上級役人だ。となりの赤鬼は三下の獄卒だ」
⑶「私は昨日獄卒から昇級しました。中級獄卒です。危険物処理免許と、宅建免許もあります」

【三下・さんした】
⑴「どけ! 邪魔だ三下!」
⑵「うるせえ! てめえこそ外道の三下奴だ! 」
⑶「見栄ばかりを並べる。三下野郎たあ、貴様らのことよ!」

【雲霞・うんか】
⑴雲霞は雲と霞のこと。
⑵ぎゃー!野次馬が雲霞のごとく押し寄せてきたー。
⑶運河の上の雲海の下にある雲霞の帯が風に流れて消えた。


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