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期日前投票とハナミズキ。20230409sun295@妄想日記
883文字・25min
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建物の西の駐車場に軽をバックで停めた。それから男は建物に入ってTSUTAYA店内を足速に歩いて抜ける。
通路の照明が暗くなった角に、革財布がならぶショップがあった。奥で男が机で作業をしている。財布の修理だろうか。
男は、尻のポケットの膨らみに手を触れた。
男の革財布は、27年前に東京のアメ横で手に入れた。小銭入れの留め具に合うコンチョ(ドーム状に曲げた古ドル硬貨)は下北沢で見つけた。それはいまは外れて、ない。小銭入れの穴からは本来はながい二、三十センチの鹿皮のヒモが伸びる。昔はその伸びたヒモをぐるぐると財布に巻きつけて縛っていた。ヒモが切れて短くなってからは、上海で買った数珠をつなげている。男の革財布はぜんぶがつぎはぎだらけ。まるで割れるたびに金継ぎされるふる茶碗のようだ。
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投票所についた。
「こちらではございません」
役所の支所の男がマスクをしたまま笑う。
男は一歩引いて、上を見上げる。投票所はとなりだった。
投票所に入った。イベントスペースの中央に机がCの字にならぶ。ビニールのついたてで動線は確保されていた。
「えんぴつはお持ちになられましたか」
受付の女は笑顔でいう。
「持ってきてない」
男は答える。
「ではどうぞ」
つまようじの先にHBの芯がついたプラスチックを渡された。となりの若者が男が渡したハガキをバーコードスキャンをする。機械から投票券が発券される。
男は候補人を記入する所には向かわずに、そのまま投票箱に白票を入れた。
すると一斉に、出口で陣取ってすわる選挙管理委員会をふくむ他の人間の目が、男に集まった。
男は立ち止まって首を傾げる。選挙に来ないでコタツでテレビを見る人間はこの視線は受けまい。白い紙をちゃんと投票してこの視線はなんだ。
投票所を出る寸前だった。
「清き一票。どうも、ありがとうございます」
男は振り返った。
「わたくしどもは、いつでも、どこでも、どこまでも、あなたを見ていますよ」
その男は、笑ったドラえもんのお面を付けていた。
男はその場を足速に立ち去った。
建物を出ると、満開に近いハナミズキが風に揺れていた。
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