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《語彙の三語三文》:手書き帖 3.25〜4.7

5300文字・15min

三月二十五日(月)

【怪傑・かいけつ】
⑴怪傑ゾロなどの固有名詞は名称通りに書く
⑵あれは! 怪傑ホンギルトン! いや、魁傑ホン・ギルトン(洪吉童)だ! ホン・ギルトンとは、かつて半島を喰いものにした日本軍をそのたぐいまれな武拳と運動神経をもって列島に撤退させた伝説的な少年兵として共和国にしられる。いまなお労働第一テレビで夕方から放送される国民的アニメ「魁傑! ぼくらのホン・ギルトン」。そのテレビはキム・スリンの子どもころの唯一の娯楽だった。ホン・ギルトンはとつじょ山村にあらわれて、石ころを湯気がたつ饅頭にかえて鶏を肥えた牛にかえた。民家の軒にならぶ甕(かめ)を酒でみたした。沼で大鯨を釣りあげた。白頭山で天女をパンソリで冒涜(ぼうとく)して巨人と相撲をとった…
⑶アイツはホンギルトンよりも怪傑な男だ。

【開眼・かいげん/(かいがん)➡︎打撃など】
⑴私は執筆に開眼した
⑵今日は大仏開眼大法要の日です
⑶大仏様は殺しの術に開眼なさった

【回顧・かいこ】
⑴私は解雇した人間の回顧録を書いている
⑵蚕の懐古の情を記すための小説のなかにある回顧手記
⑶回顧展「私が死ぬまで」東京展は終了しました。次回の大阪展は五月からです



三月二十六日(火)

【内田百閒・うちだひゃっけん】
⑴内田百閒は野良猫を飼い、名作「ノラや」を残した。
⑵内田百閒は風刺とユーモアに富んだ独特の作風だ。
⑶内田百閒の「百間園随筆」を今度借りてみよう。

【凡・ぼん】
⑴「発想が常凡でなく新しい」ということばを見かけたが「常凡」の字が読めない。
⑵平凡パンチに非凡キック。
⑶やつは凡ならざる才能の持ち主だ。

【俯瞰・ふかん】
⑴俯瞰すると冷静になる。
⑵小説のプロットはまさに俯瞰図だ。
⑶俯瞰と鳥瞰のちがいがわかりません。


三月二十七日(水)

【垣根・かきね】
⑴君との心の垣根を取り外したい。
⑵垣根越しで覗く男。
⑶垣根でできた国境線。

【水蜜桃・すいみつとう】
⑴水密桃(すいみつ)の汁吸うごとく愛されて前世も我は女と思う(俵万智)
⑵私は水蜜桃は食べたことがない
⑶私なんか水蜜桃を見たこともない

【讃歌・さんか】
⑴あの教団の幸福な愛の讃歌に私も参加したい
⑵我、讃歌を喰らう生き物なり。その讃歌はもう酸化してます。
⑶「讃歌、讃美歌、山頭歌! 」
「師匠! さいごのは種田山頭火ですので間違いです」


三月二十八日(木)

【要諦・ようてい】
⑴教師の仕事の要諦は愛にある! そんな教師にこそ教わりたくない!
⑵小説の作り方に要諦などない。必要なのは情熱だ!
⑶あの日、あの夜、私は先生の技の要諦を垣間見た。

【随所・ずいしょ】
⑴この小説は筆者の娘への愛が随所に散りばめられている。これは駄作だ!
⑵随所なる名前の村。
⑶私は短所が随所にある。

【虚無・きょむ】
⑴虚無に身を浸す。
⑵太陽が虚無を放っている。
⑶虚無を知ることが成長という常識にとらわれるな。


三月二十九日(金)

【仮託・かたく】
⑴パッシングにアイシテルを仮託する。
⑵動物世界に仮託した寓話。
⑶私は仮託捜査デカだ。

【余白・よはく】
⑴私は余白デカよ!
⑵この水墨画は余白がいいね。
⑶この絵の余白には解釈の余地が一切ない。

【衰亡・すいぼう】
⑴我が会社は衰亡などせぬ!
⑵先生が書いた「水没した町(衰亡の水都)」はベストセラーになりました。
⑶日本が衰亡する! いつだ? 明日だ? 昨日だ!




三月三十一日(日)

《語彙の三語三文日課:手書き帖》

【自助・じじょ】
⑴自助の精神でおれは成し遂げる!
⑵国民の自助自立こそ我が国の目標である。
⑶私の娘は病気が治って自助具をメルカリで売った。

【互助・ごじょ】
⑴昨日、となり組と老人会の老人が家にやってきてわけのわからぬ会費を持っていった。あの金はどこにいって何に使われるんだろうか?
⑵孤児、独居老人、障害者などを弱者救済をすることがわが組合の互助システムです。なので年会費の千円、はらってください。
⑶「互助会って怖い」
「なんで? 」
「正体がみえない」

【扶助・ふじょ】
⑴「扶助料を払ってください」
「何に使うんですか? 」
「…… 」
⑵「俺の老後の扶助を頼む」
「ヤダ」
⑶国は私を扶助をしてくれるの? 
「そりゃあ、ケースバイケースですよ。ってか、アンタだれ? 」
「ワレワレハ宇宙人デス」
「精神障害が適用されたら年金が出ますよ」
「アリガトウゴザイマス」



四月一日(月)晴れ。

【俘虜・ふりょ】
⑴「私は俘虜だぞ! 生捕りにされ俘虜だ! どうだ私は俘虜だ! 不慮の俘虜だ! もう一度言うぞ私は… 」
⑵「俘虜ととりこと捕虜のちがいはなんですか? 」
「読みがちがう」
⑶「ぼくのきみの愛の俘虜だ」
「わたしのからだの俘虜でしょう」

【扶植・ふしょく】
⑴改革思想を扶植する。
⑵君らは反政府勢力の扶植の源だ。
⑶「右翼も左翼もそんな扶植は許せぬ根絶やせ」
「最近の先生の口癖は短歌の影響が激ツヨですね」
「あなたの最近のことばはなんか漢字がおおいわ」
「れいせいになってようやくふつうのことばがでてきた」
「全部ひらがなだと、筆者はただのバカに見えるかべつに意図があるのかと誤解されますわよ」
「なるほど。バランスが重要だね」

【余憤・よふん】
⑴かのじょとの喧嘩で余憤が冷めやらぬ様子の君は、ナイフを手にした。
⑵「余憤って、余分な憤りですか? 」
「…いい質問だね。それはすごくいい質問だ! みんなこいつはいますごくいい質問をしたぞ! 」 
⑶「毎夜、佐栄子は、おれの余憤を吸ってくれた。その結果いまサヨコは…」
「はいカァーッと! みなさんすみません。いったん休憩に入りましょう! 」
「アツシさん。今日、セリフ入ってる? 相手の女優さん、ああ見えても新人だから」
「シンゴちゃんわるい。きのう寝た女の名前だった」
「いいの、いいの。そういうノリは重要だから。じゃなきゃ濡れ場なんてできないですよ」
「すみませんみなさん、もっかいはじめまーす」



四月二日(火)晴れ。

【哉・かな】
⑴「哉」は感動を表します。だなあ。みんなも「哉」を使ってみよう。
⑵人の心は愚かなる哉(徒然・八)
⑶病雁の夜寒に落ちて旅寝哉(松尾芭蕉)
■ミニ解説
晩秋の一夜、病を得て臥せっていると北へ向かう雁の通過する音が聞こえる。その中に群れから外れて湖に落ちていく落雁がいる。きっと彼は病を得て飛ぶに耐えずに落ちていったのであろう。私もこうして一人病を得て旅寝の長い夜を過ごしている。芭蕉秀句の一句。

【穿つ・うがつ】
⑴それは君! 穿った解釈だよ。もっと素直になって読みなさい。
⑵「みよ。これがどんな岩をも穿って進む我が社の新型トンネルロボット、その名もザイオン! 」
「なぜザイオン? なぜ約束の地のザイオンが名前なんでしょうか? 」
「社長はほら、映画マトリックスのファンだから」
⑶石は灌木の間を穿って崖の下へ墜(お)ちた。(森鴎外・青年)

【馳せる・はせる】
⑴車を馳せて急ぐ。
⑵「あなた、私をもっと馳せてください」
ぼくは涙ぐみながら妻の遺書をにぎった。
⑶作家の馳星周のペンネームは中国のコメディースターである周星周(チャウ・シンチー)の逆さ読みです。


四月三日(水)

【刹那・せつな】
⑴その刹那刹那刹那を聞き分ける 明日は孤独ではない雨だ(小野田光「揺れる火を生む」)
⑵私が会社を興したその刹那、その親会社は倒産した。
⑶私の名前は和田刹那、彼は有名なラッパーのジグリル・バグリル。彼はDV男なので、明日別れます。

【まんこ】
⑴この日課は「見たことがある読める字だが実際にじぶんの手で書いたことのない字を実際に手で書く」だ。この時がやってきた。よし書くぞ! 読者よ、書くぞ! いまから書くからな! 心の用意はいいか! まんこ!
⑵男子トイレの壁には落書きがたくさんある。ちんこ。まんこ。ちんこの絵。まんこの絵。こいつはヤリマン無料肉便器だ二年B組サダコの番号➡︎09…76012…
⑶「先生、まんこの正式な表記はカタカナですかひらがなですか? 」
「きみは正式な女性器をその目でみたことがあるのかね? 」

【静謐・せいひつ】
⑴「見よ! 輝かしい! これが静謐なまんこだ! 」
「先生、まだ言い足りないのですか? 」
⑵「この世界、いやこの地球には静謐な場所などどこにもない、静謐があるのは文字の中だけだ」
「せんせい、研究室に篭りすぎです! 飲みに行きましょう! 」
⑶ああ、静謐な生活に憧れる。




四月四日(木)

【果報・かほう】
⑴「おまえ、あんな出来た女をモノにできて果報な男だ」
「アイツが? バカを言え、小学の時にジャンケンで負けたんだ」
⑵宝くじで六億円が当たった。すると見知らぬ係累がわっと湧いて、七億の借金が残った。
⑶大学のとき、友が私に「果報は寝て待てというのは待つのも仕事だ」と言って、あれから六十六年が経った。私は何かを間違っていたのか。

【葦・あし】
⑴私は考える葦。
⑵私の主治医は葦名鉄平。
⑶葦と泥作りの家。

【卯建つ・うだつ】
⑴奴は闘鶏師としてもギャンブラーとしても卯建つが上がらぬ男だ。
⑵新人賞を取ってようやく卯建つが上がってきた。
⑶「建物の妻にある梁の上に立て、棟木を受ける短い束をなんて言うんだっけ?」
「卯建つだ」



四月五日(金)

【壮挙・そうきょ】
⑴その壮大な壮挙はたった一個の提灯が燃え尽きたことから始まった。
⑵血なまぐさい壮挙。
⑶らんちき壮挙。

【らんちき】
⑴「ドゥビドゥバーで有名なあの左卜全の《らんちき放浪者》って曲はどこで聞けるんですか?」
「そんな曲はない」
⑵僧侶たちは街を教えで蹂躙した。街の女たちとらんちきさわぎに明け暮れた。
⑶「らんちきおけさってどこにあるの? 」
「それは歌だ」

【手練手管・てれんてくだ】
⑴女たちの素晴らしい手練と手管にわたしはもうメロメロ。
⑵「手練」と「手管」はどこがどうちがうですか?」
「おなじ意味で字が違う」
⑶手練手管に弄(もてあそ)ばれたい。


四月六日(土)晴れ。

【美貌・びぼう】
⑴お前の美貌をおれにわけておくれ。そしたら私の人生は少なくとも今よりはましだった。
⑵「美貌貧乏Bitchで3B」
「きみはなにがいいたいのだ? 」
⑶「備中の美貌は宝です」
「きみもなにがいいたいのだ? 」

【長閑・のどか】
⑴「長閑と麗(うら)らかはどう違うんです? 」
「うららかはのどかの派生語じゃないのか?」
「ということは、うららかさんがのどかさんの妹になるんですか」
「長閑も麗らかも、気にかけないのんきなさま」
「長閑も麗らかも、ゆったりとくつろぐ」
「空が晴れて天候が穏やかなさま」
「長閑な小春日和、急がない感じで気長にかまえるさま」
「…わけがわからなくなってきた。」
「もっと長閑に構えろよ」
「気長に、麗らかにかまえろ」
⑵長閑は春の季語です。
⑶長閑は静かでのんびりと落ち着いているさま。

【麗らか・うららか】
⑴うららかや松を離るる鳶の笛(川端茅舎)
⑵そこのキミ! 麗らかな声だね、ウチの事務所に入らないか?
⑶「サチコもっと麗らかに叱ってくれよ」
「どういうことよ? 」
「心にわだかまりなく、おっとりと言うんだ」
「さっき夫婦喧嘩した相手に、どの口が言うのよ! 」




四月七日(日)晴れ。

【汚辱・おじょく】
⑴「汚辱と恥辱ってどうちがうの?」
「また始まったよ。こいつどこかに連れてけよ! 山田クーン! 」
⑵「わたしは夫との夫婦生活四十年のあいだ、ずっと夫からの恥辱に耐えてきました」
「そのあいだ、私は毎日、妻からの口汚い汚辱を耐え忍んだ。みろ、これが夫婦だ」
⑶「これは日本最大の汚辱事件だ! 」
「何のことだ? 」
「東京の多摩に横田基地がある」
「普通のことじゃないか」
「あれはアメリカの国土だ」
「……確かに、言われてみれば」
「戦後八十年だぞ。お前は日本の怒りを忘れたのか! 」
「その話の続きはこのYouTubeを見てからでいいか? 」
「…… 」

【そそっかしい】
⑴えー。世の中にはそそっかしい人ってのがおります。
⑵「あなたってほんとうにそそっかしいわね。あなたの私物にぜんぶ名前を書いておいておいたわ。私の名前を」
⑶「こんにちは、どちらさんでしょうか? 」
「ばか! お前の兄貴だ! 」
「なんだ、兄貴か」
「おめえはそそっかしいなァ」

【皺・しわ】
⑴われらは皺族。
⑵「そのむかし中国に皺民族みたいなのがいましたね」
「匈奴ね」
⑶「響子さん、そんなに抱きつかないでよ。こんなところで」
「いいじゃないの、減るもんでなし」
「シャツもズボンも皺だらけだ。午後から会議なんだ」
「あら優太くん。今日はこれで満足できる? 」
「あとでま……」
間。
「た。はないの。また明日ね」


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