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《語彙の三語三文》:手書き帖 5.14〜5.21




五月十四日(火)

【野面・のづら】
⑴我々は赤ちゃけた野面を渡ってきた。
⑵野面を渡る風にのって、女の匂いが、ぷんと、あたり一面に漂った。
⑶「君は野面だ!」
「どういういみだ!?」
「恥を知らない厚かましい顔、鉄面皮(てつめんぴ)さ!」

【然迄・さまで】
⑴アパッチ族が鉄を食うことは、さまで珍しがることではない。
⑵彼が東大を受かったのは、さまで気にかけてない。
⑶さまであの男は、二枚目でないよ。

【よしみ・誼み・好み】
⑴「おいきみ、ぼくをよしみを結ぼう」
⑵昔のよしみだ。とぼくは落ちぶれた彼に百万円を貸した。
⑶私は救われたよしみからあの赤帽について行った。




五月十五日(水)

【真っ平・まっぴら】
⑴真っ平ごめんだぜ。
⑵俺を、ひとえにまっぴら許してくれ!
⑶まっぴらに君の幸せを祈るよ。

【余喘・よぜん】
⑴まだ余喘を保っているな。あの老人は。
⑵「余喘だ。虫の息だ…」
「どっちなんです?」
「いまはそういう問題じゃない」
⑶「余喘に、なにか言い残すことはないか…」
「…ばか」

【寄せ物・よせもの】
⑴「パパ! わあすごい、今日は寄せものだね!」
「さやか。寄せ鍋と間違ってるぞ。これはみな寒天だ」
⑵ところてんは寄せ物ですね。
⑶「所ジョージは寄せ物ですね」
「?」




五月十六日(木)

【尾籠・びろう】
⑴「食事中、尾籠な話になるが、君とやりたい!」
「バチンッ!」
⑵「あそこです! あそこの多目的トイレのなかで若い男女が!」
「どうしたんだ?」
「もう! 恥ずかしいくらい尾籠至極なんです!」
「なぜそれを君が知ってるんだ?」
「…」
⑶「きさま! 尾籠も甚だしいぞ!」

【洒洒・しゃしゃ】
⑴洒洒たる顔だね。化粧も薄いし君。
⑵「アナタ、わざとしゃしゃを装って、どうしたの?」
⑶洒洒落落としてふるまう少女だった。あれ以来ぼくは彼女の虜だ。

【畢竟・ひっきょう】
⑴畢竟、君しかいないのだ。
⑵畢竟するに、人間はただの生物だよ。
⑶畢竟、人間は死を免れないのだ。




五月十七日(金)

【急霰・きゅうさん】
⑴たちまち急霰の拍手が起こった。
⑵急霰のような雨あられ。
⑶「すごい、急霰の音だ」

【巻き舌・まきじた】
⑴君は可愛らしい巻き舌で叫んだ。
⑵彼女はいつにない巻き舌でぼくを捲し立てた。
⑶「おー!」
群衆の歓声は上がった。
「出てきたぞ! 巻き舌女王だァ!」

【随に・まにまに】
⑴波の随に漂う。
⑵御託宣の随に、御輿は廊下にでた。(黒蜥蜴➡︎江戸川乱歩)
⑶男がシャワールームに入っているまにまに女は財布を奪って逃げた。




五月十八日(土)

【御託宣・ごたくせん】
⑴さきほど、権現様の御託線がありました!
⑵会場の御託宣とあらば、従わざるおえまい。
⑶「へへ! これが神様の御託宣てやつかい? へへ! 」

【渋面・じゅうめん】
⑴ぼくは墨子に面(つら)を張られて、渋面をつくった。
⑵「あなたなんでそんな渋面なんてつくって…ほらもっと笑って。コチョコチョ」
「へへへ」
⑶「〽︎渋面ジャンケーン、ジャンケーン、ポム!」
「ぐへ!」
「ごわ!」
「ぎょほ!」
「どべ!」

【色敵・いろかたき】
⑴「今日の團十郎さんの色敵ってどなた?」
「七之助さんじゃないかしら」
⑵「おれは明日、色敵と差し違える!」
「私に公言して大丈夫?」
⑶色敵とみるか、好敵手とみるか、それが問題だ。




五月十九日(日)

【醜怪・しゅうかい】
⑴いまの自民党は醜怪極まりない金権政治だ。
⑵いつの自民党も醜怪極まりない金権政治だ。
⑶あすの自民党も醜怪極まりない金権政治だ。

【円光・えんこう】
⑴「あ! 仏の円光だ!」
と信者たちは言った。
「私は光らんか? 」
と仏は言った。
⑵円光を放つ野良犬。
⑶「明日立ち上げるぞ! 宗教法人円光!」
「宗教法人亭円光の襲名披露かと思ったぜ」

【幻燈・げんとう】
⑴闇、参道の両脇に幻燈が、ぽつ、ぽつ、と灯る。
⑵私は幻燈を見ていて、知らぬ間にこの世界に踏み入れた。
⑶幻燈戦隊、マボレンジャー! レッド…ブルー…




五月二十日(月)

【施療・せりょう】
⑴施療患者に収入をたたせ、税金を取る。それがあの村長の企さ。
⑵「被災地で施療してきたぜ」
「おまえ、医者だったのか」
⑶完全なる施療はこの世に存在しない。

【有閑マダム】
⑴有閑マダムへおれは毎日夕刊をどどける。声をかけられるまで。
⑵有閑マダムの書いた小説「私の楽しい仲間」はアマゾンで最低評価の書籍だ。
⑶「有閑階級のマダムたちはあのビルの一室で何をやってるんだ?」
「ああ!」
「若い素っ裸の男が…」
「二十人のマダムたちが男を囲って…」
「ああ! 」
「すごい光景だ。これが有閑マダムなのか…」

【妖魔・ようま】
⑴「これが伝説のつるぎ「妖魔の太刀」か」
「抜いてみろ」
「このおれが?」
「抜けたら勇者だぞ」
「よし」
「ポロッ」
「あー!」
(筆者の声。このシーンどっかでなかった? 勇者ヨシヒコか… パロディって、誰が書いても結局はこうなるんだな)

⑵「出たぁー! 隣の部屋から妖魔が! 」
「ばか。お前の妹だ」
⑶「見るも妖魔、語るも妖魔、聴くのも妖魔、この文章を読むのも妖魔」
(チラッ)



五月二十一日(火)

【いとはん】
⑴「そこの、いとはん! こっちきてくれなはれ! 」
⑵「わて、あっこのおいとはんに、目で殺されんねん、いっつもやねん」
⑶「あー、おいとはんになりたい」
「お菊! まずは手をうごかし! そこの皿ぜんぶあんたが洗うんだからね!」

【土用波・どようなみ】
⑴今日は土用波だ。波には乗れないね。
⑵「土用波って書き言葉かな。やっぱり」
「いま、喋っちゃえよ」
⑶去年の土用波で娘はこの世をさった。

【秘中・ひちゅう】
⑴「だーめ、見ちゃ。これは秘中の秘です!」
⑵「さあ、私のお部屋におはいりなさい。私の秘中を教えてあげるわ」
⑶彼女は僕の胸中のうち、恥ずかしい秘中をすべて言い当てた。


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