見出し画像

800字日記/20221017mon097/「心が揺れた一日」

目が覚める。蒸し暑い。昼前だ。窓を開ける。猫はベランダにでる。携帯を見るとYさんからメールが届いていた。こちらは曇り、次回から写メを送らないという。肩を落とす。

こちらは青く晴れた空だ。眺める。ベランダの洗濯機に両手をついて、自分をなんとか勇気づける。夏に二歳になったネコは元気いっぱいだ。僕の机やパソコンや天窓にまで飛びまわる。ネコじゃらしを咥えてくる。無視をしていると甘え声で鳴く。ボールを投げると狂ったように追いかけまわす。

畳の部屋であぐらを掻(か)いてネコとあそぶ。僕もネコも疲れはてて敷いた布団にふたりでくの字になって寝る。目覚める。昔、一歳の娘とおなじ格好で寝た記憶をおもいだす。涙がこぼれる。

空模様があやしくなる。急に、悲しくなって、あふれた涙がほほをつたう。笑ってみる。変顔をする。が、心の痛みは癒えない。部屋の掃除をした後、急に峠をクライムしようと思いたつ。ロードバイクを担いで玄関を出るとき、いつも僕を見送るネコの影はない。悲しさは二乗に膨らむ。

アパートを出て右にまがって町なかの旧街道をまっすぐぬける。農協がある十字路を右にまがる。工事中の図書館を左に見て登り坂にはいる。
久しぶりの峠の坂だ。ギアを落としたので足にはこないが、すぐに息はあがる。肺が痛い。口から千本の針をのむようだ。ペダルをこぐ。おれは悪くない、おれは悪くないぞ。おれ以外のすべてが悪いんだッ! 地球なんか爆発しちまえ! 無心になってペダルをこぐ。

小雨が降りはじめた。大きな雨粒が顔にあたる。滑る砂利に注意しながら峠のてっぺんの団地に到着する。ずぶ濡れになった。
驟雨だった。雲間から光がさしこむ。肌寒い。ロードバイクの向きを変えて、来た坂をくだって帰る。

玄関のドアを開けると、ネコがしっぽをふっていた。
「やっぱりお前だけだ」
涙があふれそうになる。
ご飯をくれない僕を見てネコは寝に戻る。
「お前もかよ! 」
心でさけぶ。
(795文字)


よろしければサポートおねがいします サポーターにはnoteにて還元をいたします