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冒頭で出会うVol.6_アフガニスタン


遠くにある、紺碧色の、女の乳房のようなモスクから、蟻の巣のように人が密集する路地に、スナイパースコープを移した。昨日の爆撃から半日も経っていないのにもう賑わっていた。早く帰還したいと思った。十字の中心に、さまざまな人物が入り込む。このなかから標的を見分けるのは困難だと思った。きたぞ、予定より15分早い。相棒がいった。給水塔に寝そべってライフルを構え直す。横で相棒は無線で指令を待っている。迷彩が陽にさらされ煉瓦と同化する。焼けるように熱い。額から汗が顎まで垂れる。おなじ姿勢のまま時を待つ。5分か。10分か。もっと経ったか。大丈夫。この引き金を引いたら帰国する。了解。相棒が無線で応える。前から三番目だ。ナンバーはわからない。了解。おれは応える。路地入口の建物の脇に、黒いハイヤーが六台横づけされた。男ではなかった。三番目の黒のハイヤーからヒジャブを被った女がでてきた。「女だぞ!」おれは低い声で相棒に怒鳴る。この国でヒジャブを被った首長など存在しないはずだった。相棒が無線に怒鳴る。相棒はそいつだ間違いないという。スコープの十字はヒジャブを被った女の頭を捉えたままだ。陽にあたった女の顔に見覚えがあった。おれは息を止める。引き金に人差し指をかける。女は立ち止まって手を翳し太陽を見た。ありえないと思った。給水塔に寝そべるおれを見ている。逆光で。「撃て!」おれは固まったままだ。時間がないぞ!三台目の車の前輪がパンクして女は瞬く間に取り囲まれて建物のなかに消えた。給水塔からおれと相棒は姿を消した。
「で、それって任務失敗だったってこと?」「ん?」おれは肌色のつりあがったモスクのような乳房のてっぺんを指先で転がす。クコの実のように硬くなる。まじめに答えなさいよ。と女は詰った。え、成功だったんじゃないか。仕事の任務は失敗だよ。それからおれは半年間も山岳の僻地に飛ばされた。あんときお前の頭を撃ちぬいてたら出世してたんだけどな〜。笑った。女はおれの下腹部に顔を這わせてきた。

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朝の散歩で、イヤホンでカノンロックを大音量で聴いてふと、頭によぎったのがスナイパーのスコープからのシーン。以下はパターン。❸を選んだ。

❶相手もスナイパー(却下)。スコープでも視認するのに遠すぎる。

❷ターゲット(知らされていなければオッケーだが)は、ベタすぎか。ターゲット自体が物語の大きなマクガフィン(秘密の箱)になってしまう。

❸ターゲットの障害のなるモノ(SPとか通りすがりか影武者かetc...)


書いて感じたこと、

⑴情報(日時、温度、距離、時間経過など)をぜんぶ盛り込もうとすればかき込みすぎる。「早く帰還したい」とか一人称はいらない。

②筆者は軍人で描いたのだが、読者は軍人なのか、傭兵なのか、ファンタジーのスナイパーなのか判別できるのか。描いていて不安になった。

③自分が描いていたフィールドとは真反対の地平で描いたりすると、文章を書いていて単純に楽しい。こういう、ウォーミングアップ的な文章練習、千本ノックはいいなと思った。

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