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800文字日記/20220309wed/005


目覚める。11時21分。カーテンが部屋の内側に膨(ふく)らんでいる。晴れ。雀の鳴き声が。シンクは昨日のまま。腹が鳴って食パンを食べる。近づく猫にカリカリを。音楽をかけ食器を洗い布団を干す。12時の時報。掃除をして部屋を出る。

アパートを出て右にある坂を登る。急坂だ。すぐに息が上がる。陽は暖かいが風は吹いている。三百坪ほどの変電所、梅の咲く民家、金網に囲まれた溜め池、五位鷺(ごいさぎ)が飛び立つ藪(やぶ)を抜け、左に曲がると埋められた井戸。脇に屋敷神(やしきがみ)。集落を降りる。竹藪(たけやぶ)や雑木が高く道は隧道(ずいどう)のように暗い。潰(つぶ)れた鼬(いたち)の死骸があって飛び退(の)く。薬指が熱い。指から血が。笹で切ったか。水筒の水で濯(すす)いで傷口を親指で押さえる。赤い軽が来て脇に。

坂道を下った田んぼ一面に菜の花が満開になって群生。モンシロチョウが追いかけっこ。虻(あぶ)が花に集(たか)る。曲がった道にソーラーパネル、集落センター、橙(だいだい)が濃(こ)い八朔(はっさく)が実る庭、長ネギ畑、車の整備工場然としたバラック、軽トラックが停まる農機具の格納庫が続く。T字路で右に曲がる。緩やかな登り坂を真っ直ぐ歩く。

キィキィ、チュンチュンチュン、ピィピィピィ、ガァガァ、様々な鳥の声が聞こえる。思いつくのは雀、雉(きじ)、鷺(さぎ)、鳶(とび)、川鵜(かわう)、鴨(かも)あたりだが。烏(からす)が上空を南へ飛んでいく。

眼前に森。白味かかった竹、茶色の杉、葉のないコナラ、クヌギ、樅(もみ)、松、楡(にれ)、ヒノキ辺りの、油彩画のように色が混ざり合った緑が青空をバックに森の輪郭を象(かたど)る。

緩やかな坂だが心臓にきつい。汗が噴き出る。息を切らせ手すりを掴んで階段を登る。狛犬の後ろに仁王像の門。くぐって境内の「山壽福」。読めない。

沈下橋まで歩くとポクポクと木魚の音。農協の敷地の一角で葬儀をやっていた。ポクポクの間にシャンシャンという金属音が入る。鼬(いたち)の死骸、葬儀、戦争。死に鈍感になった自分を感じた。(800文字)

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