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推敲、一人称に三人称をねじこんだボツ案?(GW全記録)

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「ソウジ。だよ」
「ソウジ? 名前かな」
「そう、オキタソウジのソウジ」
 男はソウジを見つめる。肌は色白でおもながだ。奥二重。焦点の定まらぬような円な眼はリョーマに似ている。
「新撰組の沖田総司だね。リョーマお父さん? は好きなんだね」
 男はいった。
 みょあ。ネコはのどを鳴らして、ソウジの足元をすりぬけていった。
「パパじゃないよ。バアがつけたんだ。カッコよくて強いんだ」
 男はうなずいた。
「オシゴト。がんばってね」
 迷って男はつるつるした直毛が生える小さな頭がい骨の上に手をのせた。男の手のひらに子どもの頭は吸いつくように収まった。ソウジはのどを鳴らした。ボールを抱えたままふりむいて、自宅のほうへ駆けていった。

「ソウジ。だよ」
「ソウジ? 名前かな」
「そう、オキタソウジのソウジ」
 男はソウジを見つめる。肌は色白でおもながだ。奥二重。焦点の定まらぬような円な眼はリョーマに似ている。
「新撰組の沖田総司だね。リョーマお父さん? は好きなんだね」
 男はいった。
 みょあ。ネコはのどを鳴らして、ソウジの足元をすりぬけていった。
「パパじゃないよ。バアがつけたんだ。カッコよくて強いんだ」
 男はうなずいた。
「オシゴト。がんばってね」

 男は少年の頭を撫でるのを逡巡(しゅんじゅん)する。
 ずうたいはでかく太った。坊主頭のアラフィフ。それがいまここに立つ新人アルバイト従業員姿の男だ。外部から見れば、この現場、美少年と初老の男見つめ合いのツーショット。あまりに異様に映る風景にちがいない。
 とつぜん男は、なにを思ったのか、尻ポケットからメモ帳を取りだしてこの状況を文章でするすると客観描写を始めた。
《店の裏路で太った醜男はしゃがんで美少年の頭に笑って手を載せる。》
 メモ帳に描写を書き終えると男は素にもどった。すると今度は、腹の底から恐怖は迫りあがってきた。この現場を、他者に目撃されたら、それが納品業者だったら… いろいろな憶測や風評は店の内外にとびかう。遂には裏の屋敷の中で男の印象はアメーバのごとくにうごめく。背筋は冷たくなった。

 男は前後左右を見まわした。人影はなにひとつ見当たらなかった。
 少年はおカッパ頭の直毛だった。少年の、つるつると光る小さな頭がい骨の上に男は手をのせた。手のひらのなかに少年の頭頂は吸いついた。旋毛が二つあるのを感じた。
 ソウジはのどを鳴らした。ボールを抱えたままふりむいて、自宅のほうへ駆けていく。男は、太陽の光のなかに消えていく美少年のうしろ姿を、メモ帳にスケッチした。

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