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クマの妻、第3話「妻のおっぱいと大阪の阪神ファンの父の話」


1439文字・60min


「あかん、声が出てまう」

 顔をずらせて妻は、濡れた唇を手の甲で押さえる。

「フレンチキスだよ」

「そやなくて」

「ネカフェだから? 」

「あっ、そっちはダメやて! 今日は生理や」

「キスにもどるね」

 あぐらになった僕は妻を上に乗せたまま首筋を舐める。

「あ、あん」

結婚する前に妻は大阪(それも北摂)の生まれだと白状した。

結婚して一年が過ぎた。

「あ、あん」

「ここはホテルだけど」

「そういうことちゃうねん。ああ!」

Hの時の妻はやはり大阪弁にもどる。

「僕との日常会話は標準語だよね」

「いまは私、企業の本社勤務だからどっちも話せるようになった」

「週末に帰郷したとき、大阪のお父さんとは話はできた? 」

「結局、十八年ぶりにリーグ優勝したタイガースの話で終わっちゃった」

「前に言った長年の親子の遺恨みたいなのは? 」

「そうやねー」

妻は僕に乳を吸われながら天井を見上げた。僕は妻の、垂れた乳房の下を、広げた舌で丁寧に舐め始める。

「長い間、同居しとった姉と孫がやっと出ていって寂しいのかもなーと思った。けど不用品はなおしてあって部屋はきれいになっとった。ご飯も自分で作ってちゃんと食べとった。出戻りで自由奔放すぎたお姉がおらんくなってむしろ元気そうやった。定年退職後に購入したマンションにウチと二人で住んどった頃に戻っとった。ただ、高血圧持ちで心臓の手術はしとる。せやからいろいろ気いつけてもらいたい。楽しい話をする相手とたまにグチを聞く相手が欲しいみたいやから、もう少し帰省する回数は増やしたほうがいいかなと思ったな。介護の事もぼちぼち考えへんといけないなーと思ぉとる。そやけど、まだ大丈夫みたいな様子やった」

妻の乳房の片方を、めいっぱい広げた口にふくんだ。歯を当てずに妻のおっぱいを強く吸った。


「あん!」

「痛い? 吸うのが強すぎた? 」

「大丈夫、強ない。痛ないよ。もっと吸ってもええよ」

僕は妻のおっぱいを黙々と吸った。妻は喘(あえ)ぐのを我慢している。僕はそれが心地が良かった。

「ぷはーっ」

「おっぱいは息が切れるほど吸うもんやないで」

「柔らかい。男のロマンの七不思議の一つだね」

「アホか。で、労働争議はどうなん? 解雇とかさ、会社都合とかさ、いろいろあるけん。労働者を守る法律はあるけど、使用者もある意味、守られているからさ。ジョスコ労働組合の中央執行役員を五年やった妻からのアドバイスやで」

「昨日は、電話先で、『君は我が社で一ヶ月も働いてない』そうだろって」

「そうや。向こうは、なんでいま頃になって言うて来るんや、ってなるはずや」

「でも労働局によれば、三度も解雇通知した。三度目で僕の心が折れてその結果、やめてしまった。それは退職勧奨に当たるって」

僕はベロチューを始める。

「そやね。ああっ。唇(くちびる)って、こんなに敏感に感じる場所なの!? あんたほんまもんの女たらしやった?」

妻のその問いを無視して僕はまたおっぱいを吸う。大きく胡桃のように固くなった乳首を舌で転がす。

「会社が怖かったのと退社後はウツで床に伏した。それで今になった」

「ダメ、ああっ! だめ! もっと!」

「だめ? もっと?」

妻は顔を真っ赤にさせて黙った。僕は妻の胸の谷間に顔を埋めた。

「でも労働争議ばかりだと、眉間に皺よって怖い顔になる。アンタ執筆が一番なんやろ。書くことを楽しむ。それが一番や。アンタを見てるとな、なんだか自分を責めて書いているみたいに見えるんや」

僕の左右のまぶたから涙が溢れ出た。

「アンタがながす涙は温かい」

「どういう意味? 」

僕は顔を上げようとした。

「黙っとき」

妻は両腕で僕を押さえて、顔を包みこんだ。

その晩、妻は僕を黙って抱いてくれた。



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