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私はどこに(「自我」を巡るポエム)

「私」がいるのは、古い書物の中、
モビィー・ディックと戦う物語の中。
あるいはブレイクの書いた虎のとなり、
湖畔のワーズワースの背後に「私」はいる。
フィリップ・マーロウの椅子に腰かけ、
オセローが疑念をはらうのを念じている。
あなたが疲れて、夜をさまようとき、
想像してみて、「私」がどこにいるのかを。

「私」がいるのは、古い歌の中、
優しくて、力強いメロディーの中。
ディランの歌うバラッドの隅っこに、
マディ・ウォータースのブルースに「私」はいる。
ギターを壊すヘンドリックスの頭から、
ことばが煙草の煙を吐き出している。
目に見えず、耳が聴く景色の中で、
探してみて、「私」がどこにいるのかを。

「私」がいるのは、古い映画の中。
チャーリーを真似て、「私」も山高帽を被る。
共にいるのは、ジョン・フォード氏。
もしくはサンダルと剣の兵士たち。
女たちは美しく、悪人どもは醜く、
悲劇の中を華々しく駆け抜ける。
ゲームに敗れ、途方に暮れたとき、
賭けてみて、「私」がどこにいるのかを。

現実はイデオロギーにすぎない。
初めから自由は許されているのに、
あなたが自分の居場所に悩むのなら、
よく知っている場所を再び訪ねたらいい。
もしも心に何も信じるものがなかったら、
人は広大な空白を生きることになる。
私たちの生はひとつの芸術作品。
「私」にあなたの心を広げて見せて。

「私」の居場所を知りたいのなら、
「私」の書くものを読めばいい。
私は書く、見知らぬあなたへの手紙を、
好きな詩の引用で満ちた文章を。
私は書く、頭上の空に輝く星を、
兄弟の成就しなかった人生を。
私は詩で自分自身を書くーー
それが「私」のいるところ。

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