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イエスタデイズ・ペーパー

1
『女優の女、知人男性を殺害か』ーー
これが昨日の新聞の見出し。
記者は事件を揶揄した、
「時代遅れのメロドラマ」と。
容疑者の女優は若かった頃、
誰もが「美しい」と口を揃えた。
けれど誰もが知っていたのだ、
彼女は美しさ以外、空っぽだと。

タブロイド紙は、彼女の夜の生活が、
ジェニファー・ジョーンズより奔放だったと、
複数の男たちを家に囲っていたと、
好き勝手に書いた。

今や彼女は「殺人鬼の女王」と呼ばれ、
本当の名前は捨てられてしまったーー
昨日の新聞にくるまれて。


2
殺されたのは
映画プロデューサーで、
いつも人形みたいな女や男たちに
囲まれていた。
彼女もその中の一人で、
彼とはパーティーで親密になり、
野心と嫉妬心から、
彼を物にしたいと執着し始めた。

彼女はキャリアの初期では
注目を集めたものの、
近頃では『サスペリア』のまがい物に、
端役で出演するだけだった。

そして彼女は「殺人鬼の女王」と呼ばれ、
本当の名前は捨てられてしまったーー
昨日の新聞にくるまれて。


3
男の死体は、自身の豪邸の
プールに浮かんでいた。
記者たちに囲まれると、
彼女は優雅な演技を始めた。
何故なら、カメラのフラッシュが、
彼女に自身の映画の記憶を蘇らせたからだ。
「ノーマ・デズモンド」のようにーー
彼女も永遠の女優となったのだ。

いつかマスコミも世間も、
檻の中の彼女を忘れてゆくだろう。
そして新しいゴシップが、
「今日の一面」を飾るのだ。

今や彼女は「殺人鬼の女王」と呼ばれ、
本当の名前は捨てられてしまったーー
昨日の新聞にくるまれて。

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